2024年20号
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今週の名言
ある韻を踏むという選択は、他の韻を踏まないという選択である
――アーチボルド・キャンベル
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《特集》「証人喚問」許容度アンケート結果(1)
概要
先日実施した“「証人喚問」許容度アンケート”に多くのご回答をいただき、ありがとうございます。
ここでは、皆様にいただいたコメントから一部をご紹介します。
未回答の方は、こちらのURLよりぜひご回答ください。
https://forms.gle/ma98Epb9HFwrTihXA
採点対象
World Technique「証人喚問 feat.M.C.Z, ぺーた, SIX」
(今回は、パート1「痛むヒップにいったん湿布貼り」~パート4「お寄越しエンジンキーもうターン任さんッ!!」までが対象)
許容度アンケート(抜粋)
1
① 痛むヒップにいったん湿布貼り
② それでも辞めずにいたシンプルな
③ 老いぼれ選手をインターンシップの若者が嘲り
④ 異 端 視( ´,_ゝ`)プッ
8
「シンプルな」と掛かる言葉「老いぼれ選手」の繋がりが薄いように感じられたため。
10
『証人喚問』の実演として非の打ち所がない開幕。特に4行目でちょっと無茶してる感じ、顔文字を使ってまで【プッ】をはめ込んでくる辺り「こういうことです」「このノリでいきます」というプレゼンであるとともに、曲全体を覆う形容し難い狂気を内包した悪ふざけ感がのっけから滲み出ている。
基本的に押韻と言えば名詞なり動詞なり形容詞なりの単語、若しくは文節同士で踏みがちなところ、【辞めずにいたシンプルな】という文章の【いたシンプ】で踏んでいる点は音響面での一致率を追求して「音」を探す同音ライムの特徴と言えるかも知れない。踏んでいる箇所のリズムをフローで整えて1小節毎の脚韻のように聴かせる工夫を自然にこなす技術は流石の一言。【若者】側の描写に古の絵文字を使うチョイスは若干ズレているが、SIX得意の毒強めな老兵スタンスにはマッチしている。
なお、評価に際して、私個人が他者のラップから韻のみを切り離して評価する立場にないので、韻を最大の要点に据えつつ文章及びラップを読み、聴いた所感を多分に含んだ内容になることを申し添えておく。
8
難易度の高い半濁音を含む素材を選定しただけではなく、顔文字を使ったトリッキーな踏み方で第1ブロックから印象に残る手法を取り入れた点は評価したいが、冒頭に入れた母音踏みはこの曲のルール上では踏み損じのようにも感じられるのでややマイナス。
2
① そのアンチ共にベーッと舌を
② わずかな理解者は別途慕おう
③ 興味なし人のベットしたオッズ
④ ひたすらディベートし倒す
9
欲を言えば、語の区切りが「べと」の後で切れないワードがあるとより高得点かなと思いました。
10
前段に比べてより脚韻っぽさを増しつつ、一定以上の文字数が伴う安定した同音ライムを並べていく。「舌を出す」ではなく【舌を】で文章を止めている点も脚韻っぽさポイント(単純にここで止めた方が表現として歯切れが良いのもあるが)。
俺の味、分かるヤツには分かるだろ?とヘッズの審美眼に訴え特別感、優越感を擽るラインは古今東西凡ゆる業界でドロップされているが、殊SIXのそれは絶品。勿論、私がファンだからである。孤高を貫く宇宙的恐怖からの囁き。はぁ。
【ベーッと】は別に【ベッと】でよかったのでは?と思わなくもない。また、【ベットし】と【ディベートし】の【し】はどちらも動詞「する」の活用形と読め、韻同士における語の被り(例えば「既視感」と「危機感」の「感」や「有り得ない」と「味気ない」の「ない」)に忌避感を抱く宗派の方にとっては馴染めないところか。とはいえ今回の【し】レベルなら、語被りへのヘイトの主因を占めると思われる「安直な言葉選びに走った印象」を与えるまではいかないかな。
9
「舌を」に対する動詞が省略されている点が気になるが、文章としては順番も含めてかなり理想的。しかし韻の面では、素材が4つとも〈べと/したお〉で区切れるのでそれぞれを入れ替えることも可能であるうえに③と④の「し」は同一の動詞でもあるので物足りなさが残る。
3
① 旧世代マシンでも臆さずブート
② プラグイン刺しておくさズブッと
③ フォロワーも変態が多くsoundsぶっ飛んだ
④ こいつに目が無いって??奥さん図太い...
8
後2行の繋ぎでもうちょっと工夫できたかなと感じました。
2行目の「プラグイン刺して」を「奥さん図太い」にもっと分かりやすく性交のメタファーとするとか、そうすると「soundsぶっ飛んだ」は後ろに持ってきて、変態フォロワーとの交感によって産まれた「sounds(sons)」が「ぶっ飛んだ」とかいえるかなと。
10
文章としては1-2行目から3-4行目の間に前段ほど意味上の連結が認められない分、散らばるトピックを音響の一致で回収する、ラップにおけるライミングの妙が味わえる。ゆうて同音ライム4連打へのチャレンジこそが本懐であり内容的には実質フリーテーマという歪な構造の当楽曲にあって、ラッパーらしく自身のスタイルを誇示してのボースティングに精を出す中で、老兵スタンス&ヘッズへの特別感アピールというテーマ自体はブラさずにプレイできているため、ほぼ理論値まで高められた音響の一致そのものの凄味もあり違和感らしい違和感は生じていない。
【多くsoundsぶっ飛】の、「おくさずぶと」連打のために絞り出した感、イイ。「ぶと」は「ぶっ飛」で受けるとして、どうにか「さず」を埋めたいって場面に【sounds】の閃きが滑り込んでくる感。ヒリつく。
8
"促音・長音・撥音はカウントしない"という同音ライムにおけるルール(俗にいうSIX基準)では③の「sounds」はルール違反になるが個人的には許容範囲。濁音が連続した難易度の高い素材に挑戦している点も評価したい。文章の面では④の「目が無い」「図太い」は意味の飛躍が大きく、「??」「...」のような符号からは繋ぎに苦しんだことが窺える。
4
① みんな争い好きなキモオタマッカーサー
② オーバーヒートにつきモーター真っ赤さ
③ あたしゃ水を差す肝っ玉母さん
④ お寄越しエンジンキーもうターン任さんッ!!
10
いまだにキモオタマッカーサーが何たるかを理解するには至っておりませんが、とても強くて面白いワードを生み出したものだと感心します。
10
やはり目を惹くのは【キモオタマッカッサー】とかいうサヨナラ逆転満塁造語だろう。1verse目及び本作品の一つの“極”と言えるパートだ。
韻を踏むためだけに無理矢理な単語の組み合わせを採用してみたり、流石に文章としてどうかというレベルで語順や発音を強引に捻じ曲げたりして押韻する様を「韻に踏まれている」と評することがあるが、我らが総督【キモオタマッカッサー】は正にそのお手本へ堂々たる足跡を刻んだ。【キモオタ】も【マッカーサー】も既存のワードであり、義務教育レベルの日本史と露悪的なインターネットをある程度満足に享受した方──つまりこの曲に辿り着いたリスナーの大半には多少耳に馴染みある単語の組み合わせという擁護の余地を汲んで尚「なんて?」ってなること請け合いの新鮮で刺激的な素材を、4連打の一発目に持ってきているところがまたチャレンジング。「キモオタマッカーサー?」「キモオタマッカーサーって言った?」「キモオタマッカーサーって何?」。1verseにしてヒリつきが臨界点を突破している様は『証人喚問』にトライする上でどうしても逃れ得ない命題、即ち
同音ライムを4つ1セットで見つけて来ようと思ったら少なくとも1つはむりくりこじつけたのが混じるって。
というプレイヤーの苦悩、兼悦びが産んだアートと評しても過言ではない。書けと言われればあーだこーだ書けはするが、受け取る側に委ねられる印象として語るなら、余裕で許容範囲内。聴いてる分にはスムースだし、読むとブッ飛べるナイスライム。へぇ、キモオタマッカッサーなんだって感じ。ただ、やはり熱心な信者の中では「SIXはもっとちゃんと踏める!」「韻に踏まれるSIX様なんて聴きたくない!」「こんなはっちゃけたSIXさんは解釈違い!」「こんなSIXはいやだ:キモオタマッカーサー」「はじめ歌詞を見ずに聴いて『まさかキモオタマッカッサーなんて採用されてないよな』と思って歌詞を見たらキモオタマッカッサーが居た。怖かった」といった意見も聞かれるようだ。
折角なのであーだこーだ書いておくと、(大抵の場合は自ら)韻を踏みたいがために韻に追い詰められ、韻に踏まれることを余儀なくされたライマーが「音が合ってる面白味を優先してるんだから意味が破綻しててもまぁ目瞑ってよ」「むしろ意味が破綻してるのも面白味でしょ」とさも通向けの嗜好であるかのように限定された楽しみ方を提案し、逃れ得ないなりの逃げ、というか潔い特攻を演じることはしばしばある。このような開き直った消費の方法は寧ろダジャレや語呂合わせ、もじりを使った一発ギャグに体半分突っ込んでおり、飽くまでラップの基本としては、ライムの性質を操りつつ、文章としての脈絡、音楽としての聴き心地、メッセージとしての表現の在り方とのベストなバランスを自分なりに調整することが求められる訳だが、果たして『証人喚問』とかいうそもそも作品としての前提をライム方面にとっきんきんに尖らせた、しかも同音ライムというより特殊な方面にビキビキに屹立させた器において、ライム以外の要素、況してやバランスの取れた多角形なクオリティを求める姿勢は逆に野暮とも思える。
更に、イチ全肯定派信者の立場からあーだこーだ書かせていただくならば、【キモオタマッカーサー】は、突拍子も無い造語ではあるものの、韻を優先させた結果真っ当な読み物としてはやや苦しいリリックに込められた作者の意図やバイブスを斟酌し共有しようとするリスナー側の努力を鼻で笑い、その努力がもたらすリスナーならではの楽しみを削ぐレベルで投げやりなワードではないと考えている。浮いてはいるが、解釈できない程ではない。具体的な例に、押韻島の某スレッドにて何十回目かのキモオタマッカッサー論争が催された際に野次馬からついたレスを引用しておく(広く世に出ることを考慮して一部表現を編集している)。
マッカーサー(GHQ)は言う人に言わせれば全面降伏後の疲弊しきった日本に胡散臭い憲法と敗戦国教育を植え付け、新時代において大和のアメリカ化を強力に推進した侵略の象徴であり、まるで自分が強権の持ち主であるかのようにもっともらしい論説をぶったりデカい主語振り回して正義っぽく振る舞ってドヤったりしてるけどやってる事は結局他者へ手前に都合のいいエゴを押し付け合ってるだけでくだらねぇ争いに執心してるに過ぎない状況を揶揄していると考えればマッカーサーは実はキモオタだった!とかではなくキモオタ共がマッカーサーみてえだな!ええ?ヨーヨーという挑発のラインと読めますね。読めますね!!!
西洋的合理主義が当然の現代社会において今日日あまり見なくなった古き良きもの(実際居たら頑固すぎて煙たがられるもの)として肝っ玉母さんと対比させるのも整合性がある。整合性がある!!!!!四面楚歌の無断転載に「ここまで踏む必要ある?」みたいなゲボコメントついてましたけどアレがキモオタ。アレが突っかかるために「本物の日本語ラップは〜」とか「本場のヒップホップは〜」とか言いだしたらキモオタマッカッサー。天上天下唯我独尊のスキルと実行力で外界の潮流を振り切り続けて頑固にキモオタをわからせブチ黙らせるSIXさんが肝っ玉母さん。創作に関わっていると意識的にせよ無意識的にせよどちらかに、というかキモオタマッカッサーになりがちなので、肝っ玉母さんであれる時間を増やしていきたいなーとさえ思いますね。私は。
何十回目の煮返しなだけあって流石に度数高めだが、概ね似た感想を抱いた。付け加えると、唐突に放り込まれた俗っぽかったり日常離れしたりしているクセの強い語彙や固有名詞が、叙事叙情の描写、主張の表明、ライムや比喩の的としてうまく機能していれば、ブーイングどころか寧ろ賞賛の対象たり得るという点はラップミュージックに類する表現の愉快なところであり、キモオタマッカーサーがその栄誉に余さず預かる存在かは何十一回目の論争に譲るとして、そういった性質を加味しても、『証人喚問』という環境に置かれて尚、ラップの中のライムとしての体裁は充分担保されていると考えられる。トンチンカンな造語ではあるけども。
冒険した言葉遣いでも詞が成立していると感じさせること自体は、相応のスキルとプレイヤー固有のチャーム、そしてキャリアが持たせる説得力があればそこまで難しい話ではない。ライマーとしての能力、剛腕、もとい豪脚をSIXは2000年代から幾度となく披露し、そして『証人喚問』でも文字通り証明して見せたのである。
キモタマ以外にも言及しておくと、【きモーター真っ赤さ】【キーもうターン任さんッ‼︎】のヒリつき具合は白眉。「き」の音を文節のギリギリを攻めつつ掬い取っていくプレイの爽快さったらない。【お寄越し】もイイ。【肝っ玉母さん】の存在を補強するための役割語すぎる。【ッ!!】の勢いで乗り切ろうとしてる感も堪らない。また、【モーター真っ赤さ】【エンジン】と【旧世代マシンでも臆さずブート】、【肝っ玉母さん】と【奥さん】など、同音ライムを4つ並べる中でも前段からの関連性を想起させる単語を織り入れる細やかな芸が見られ、先陣を切るリビングレジェンドのピーキーな車体をぐいぐいブーストしている。
7
③の素材先行というのが無謀であり、前ブロックの「奥さん」とも言葉がぶつかってしまった印象を受けるので本来はその時点で採用を見送るべきだが、言葉をひたすら分解した作りの④という解を導いた点は評価したい。しかし①は素材も文章も完全に意味不明であり雨天でも中止になるレベル。
たくさんのコメントありがとうございました。
(集計・編集/SIX)
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《企画》5分ライムグランプリ
遊び方
出題者、回答者がチャットルームに入室する
出題者はお題を投稿する
回答者はお題に沿った韻を考える
そして、お題投稿時刻から5分以内に韻を投稿する(箇条書きでOK)
その後、投稿した韻を使用して作詞する(時間無制限)
作詞時に韻の追加は行わないこと
備考
誰でも参加可能
小節数自由
音源化は任意(テキスト作品でもOK)
動画化は任意
無期限
上級者向けルール
韻の考案だけでなく作詞まで含めて5分以内に提出する
参加方法
押韻島公民館に直接お越しいただくか、以下リンクよりご連絡ください。
投稿作品紹介
SIX「ラップアンドビーツは突然に」
(企画/SIX)
関連項目
5分ライム
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《解説》河原崎善右衛門の現代作詞技法集(SIX「公民館の怪人」)
(解説/河原崎善右衛門)
![](https://assets.st-note.com/img/1715954132393-U5WxKgIzEx.jpg?width=800)
《付録》同音ライム4連打マイクリレー2024の深淵
はじめに
同音ライム4連打マイクリレー2024とは何だったのか。
近年の研究で明らかになった事実を加え、一連の顛末を語る。
進捗状況
当初、押韻島公民館の面々に参加依頼が出されたこの企画。
各メンバは「やれたらやる」との積極的な回答を述べた。
しかし2024年2月にSIXパートが提出された後、特に進捗のないまま11か月が過ぎた。
もはや完成は絶望的。
誰もがそう考えていた。
――SIX以外は。
試行錯誤
2024年12月31日。
企画中止を嫌ったSIXは、試作段階であった時空転移装置《タイム・スクイーザー0》を使用。
2024年2月への帰還を果たし、再度メンバに企画概要を説明する。
しかしSIXの願いも空しく、世界はふたたび2024年12月を迎えた――。
【つづく】
今週のリリース情報
人間界では特にないようです
押韻界では膨大にありすぎるため割愛します
今週のフリーライムマーケット抜粋
ステークホルダー/***(2024.5.11)
ブレイクスルー/******(2024.5.13)
愛と重曹/*******(2024.5.13)
重要任務/***(2024.5.13)
永山基準/*******(2024.5.14)
大量に出品くださった方、ありがとうございます。
今週の押韻島地下城
特に大きな動きはないようです。
編集後記
今週号の編集担当、SIXです。
好きな絵文字4連打は🐌🐌🐌🐌、嫌いなものは録音です。
よろしくお願いします。
(文/SIX)
愛読者アンケート
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次号予告
《特集》2023年に踏んでよかったもの[再]
《企画》日刊ライム
《解説》河原崎善右衛門の現代作詞技法集
記事内容は変更になる場合があります。
編集 SIX
発行 押韻島公民館
2024.5.19
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