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2024年9号【別館】

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今週の表紙:押韻島出身のアーティスト達による
オムニバス作品「寿司を2貫も!?」シリーズより
押韻島漁民/寿司を2貫も!?vol.1

時間がねぇよ〜


《マニア垂涎》SIXの魅せフロー3撰(前編)

SIXと言えば

少なくともこの宇宙では比肩する存在の無い空前絶後のライマーであると同時に、一部では極端に録音作業を嫌うキャラクターでも知られている。
キャラクターとは書いたものの、SIXが制作において企画と作詞以外の諸作業を少なからず億劫に思っていることは自他共に認めるところであろう。とは言え、そこは本人の中での揺るぎない絶対評価であると同時に、飽くまで企画と作詞──即ちテキスト上で押韻を組み上げる過程に対する熱量に比しての相対評価であり、側で見ている人間からすると、いや録音もめちゃくちゃバイタリティ高くフットワーク軽くやってますやんという印象だが……
ともかく、ライミングに精力を注ぐ一方で実際に音として出力する、ラップミュージックとしての評価軸に乗せるとなると二の足を踏む意識があるらしいSIXだが、ひとたびマイクを握ればアーティストとして、一定以上の水準でオリジナリティとクオリティを両立させたクリエイティブを発揮する。ライムに係る項目がカンストしてしまっているだけで、フロー、トラックへのアプローチ、メロディのセンスといった多角的な要素を孕んだラップミュージックとしても有り余る魅力を備えていることは、聴いた誰もが頷くはずだ。相対評価の罠である。
という訳で今回は、韻において向こう6億世紀は脚光を浴び続けるであろうSIXが、そのフローによってリスナーを熱狂させた場面にスポットを当て、簡単な解説とともに紹介していく。

①蜘蛛の糸 feat.SIX 〜ライムとフローの接続〜

一つ目にご紹介するのは、キャッチーかつ疾走感溢れるDTMサウンドを巧みに操りトラック提供等で活躍する村井臣子氏が2018年に発表したアルバム『PHENOTYPE』より『蜘蛛の糸 feat.SIX』。
タイトルからも分かるように、SIXが客演として参加している作品。本アルバムは村井臣子氏の完全プロデュースによるもので、氏がピックアップした各アーティストにトラックを書き下ろし制作された楽曲が多数収録されている。

タイトルの字面に反して賑やかな管楽器が楽しいサウンドをまといつつ、普段のソロ制作でチョイスしているものに比べるとアップテンポ気味なトラックにタイトな押韻を散りばめノリノリ乗りこなすSIXが聴けるという点で既に貴重かつ優勝という感じだが、今回注目するのはそこで展開されているフロー。
2017年頃から音源制作が活発化していく中、SIXは高めの音域できっぱりと発声するスタイルで、脚韻が固められたリリックを際立たせるために踏んでいるフレーズごとのアクセントとリズムを合わせるベーシックなフローを多用しているが、『蜘蛛の糸』では、書き下ろしトラックでの客演という挑戦的な環境が引き出したのか、その発展形とでも称すべきビートアプローチが確認され、トラックの雰囲気とも相まって聴いた時のワクワク感ときたらもう半端ではないことになっているのだ。

ライムとフローは、ラップの構成要素において対を成すかのように語られることも少なくないが、大前提としてこの2つは密接に連携し、相互に影響し合っている。テキストを通して効果を付与するライムと、サウンドを通して効果を付与するフローはどちらもグルーヴ(音楽的な快感を生じさせるノリ、くらいの意味で軽々しく使うが)を産むためのバフ魔法であり、同じフレーズに重ねがけすることでより高い効果が期待できる。
もちろん、特徴あるフローによって徹底的にピッチや節回しを掴んでいる訳ではないけどライミングがしっかりしてるから十分入ってくる、という例も、ハードなライムによって完璧に音響が揃っている訳ではないけどフローで調整されてるから気持ちよく聴ける、という例も挙げようと思えば幾らでも挙げられるだろう。ライムは音に乗せなくても文面を支配し得るし、フローはそもそも文字起こしし難い部分で曲調を決定付ける。
しかし、ライミングによる音響の一致に、フローによるピッチや節回し、時にはメロディの工夫を掛け合わせて産まれる音楽的パターンの繰り返しによるグルーヴがラップミュージックの持つ魅力の根幹と考えるならば、やはりライムとフローは不可分の存在であり、特にプレイヤーとしてラップする上では如何にライムを混ぜ込み如何にフローへ織り込むかのバランスを、意識的にせよ無意識的にせよ、自分なりに選び取っていくことになる。

その点『蜘蛛の糸』では、冒頭からアグレッシブなライム×フローが鼓膜に飛び込んでくる。イントロはイントロで殆ど歌唱しないSIXのコーラスとかいう弩級の萌えポイントだったりするのでもうブチ上がりつつ、10文字以上の押韻を涼しい顔でこなすSIXにしてはやや珍しく「いーお」の細かいライミングの連打を強調するように、踏んでいる箇所の発音を一部伸ばすフローに乗せてリズミカルなパターンを短い間隔で繰り出す1verse目。全体的には至ってスムースでありながら、散りばめられた名詞ライムとそれを丁寧に拾うフローがマリオカートのジャンプアクションの如く爽快感を加速させていく。
曲としての最高潮は2verse目後半に待ち受けている怒涛の2小節全踏み4連打。やっぱり涼しい顔で10文字以上踏みこなす強靭なリリックを朗々と押し流す、文字通りフローの力強さは圧巻の一言。ロングライムを音源に採用する際の懸念として、どこからどこまで踏んでいるのか聴いた限りではよく分からないという、流石に音楽としてどうなんだな点がしばしば議論に上るが、SIXにかかれば2小節4連打程度は軽々と成立させてしまう。フローは通常リリック全体、要はライムしていない箇所にも及ぶものだが、ここに関しては全てのリリックがライムなので、或る意味ライムとフローの完璧な接続の例、一種の理想とさえ言えてしまうかも知れない。
3verse目でも「いうう」で踏んでいる語尾を「いーーうう」と発音するなど、華麗なトラック、ド安定の音響合わせにガッチリ舗装されたランウェイを泳ぎ回るにあたり、フローの面からの遊びも随所に認められる。
自己を虫に擬えての自虐とセルフボースティングを詩的に綴りつつテーマに沿ったネタも存分に詰める作詞力の高さは相変わらず、リリックを追いながら聴けばグルーヴが凄まじい情報量を伴ってが耳から脳へ駆け抜け心を貫く感覚に芯から痺れることだろう。
このカタルシスが極に達しているのがなんと言ってもhook。何が素晴らしいって、近年はめっきり聴けなくなったSIXの被せ、それも多重の被せを堪能できるのである。SIXの被せファンには絶頂モノ。すき。いっぱいすき。何度でも聴ける掛け値なしの傑作である。

字数が嵩んできたため、②以降は次号へ譲る。

来週へ続く…

《ゆるふも》 5秒韻グランプリ

韻を硬く踏むことが是とされる風潮への逆張りとして「ゆるく踏もう」をテーマに掲げ、適当な韻を適当に楽しむコーナー。

押韻島には、韻を踏む目的で設定されたお題ワード──いわゆる「素材」に対して、踏めてはいるものの、5秒考えれば誰でも思いつけそうな陳腐な韻を自虐的に「5秒韻」と称する文化があるんだ(他者の評価にはあんまり使わないよ)。もちろんマイナスポイントに挙げられることが多い訳だけど、今回はそんな「5秒韻」を敢えて募集して、みんなの5秒韻を味わってみるよ。

今回の素材 : 5秒韻
みんなに探してきてもらった【5秒韻】で踏める5秒韻の中から、本誌批評家が遊び半分で選んだグランプリと佳作をご紹介。

グランプリ
ゴオウイン
(投稿者:匿名希望)
今回のグランプリはこちら。押韻島メンバーであるゴオウインさんで踏んでくれました。思いつき易いっちゃ思いつき易いけど地味に一致率が高い。場合によっては一致率高い方が思いつき易いってこともありますよね。親父ギャグ的な。アルミ缶、あるミカン、的な。押韻島の募集企画に押韻島のメンバーを投稿する安直さと、だからこそ光る身内ノリというか、発動条件の狭いところを突いてる感じがよかったです。

佳作
お上品
(投稿者:匿名希望)
「おおういん」という母音に加えて「ょ」も一致させてるとこがニクいですね。音合わせというか、リズム合わせ。フローが浮かぶ。

創造神
(投稿者:匿名希望)
「おおういん」を「おうおういん」で受けて、厳密には踏み外していますが、まあ伝わるやろ、という雑な信頼が心地いいです。【創造神】に繋げられるとそこから【想像し】【騒々しい】ら辺まで確定コンボが入りますし、踏み外しておくことで後に続く韻に拡張性を持たせる効果が期待できますね。

多い
(投稿者:匿名希望)
【創造神】の逆パターンで、「おおういん」を「おおい」と音数少なく受けています。使う時はフローを揃えるなどの工夫が必要ですね。魅力はシンプルさ。5秒韻って多いんでね。

とろーり
(投稿者:賀茂茄子不賀茂茄子)
食感ですか。踏めてるけどそれが何?っていうやるせなさがいい。逆に、5秒韻にしてはちょっと捻っちゃってる感もありますかね。

いかがでしたか? うーん
《ゆるふも》では皆さんのお便りをお待ちしております。募集企画への投稿、こんな企画をやって欲しいというアイデア、企画へのご意見・ご感想などを分かりやすいところに書いてください。

次回予告

押忍、桃太郎です。
東京都は韻韻くんからのお便り。

「桃太郎さんこんにちは。
ボクは押韻島に入りたくて、
毎日かっこいいライムを考えています。
コラム。
プラム。
スラム。アーイ。
本当は押韻に大して興味がありません。
こんなボクでも押韻島に入れるでしょうか?」

韻韻くん、男は根性だ。
やると決めたら貫き通す根性が大切なんだよ。
君は男塾に合格だ!

次回『魁!男塾』は
“俺に引き算を任せるな クロマティ高校から来た男”

そこんとこ、よろしく。

編集後記

今週末は蹴られることしか考えていませんでした。

(文/押韻島公民館狂信者)

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