2024年8号【別館】
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私の世界はそこにある
《小さな幸せ》ラッキーライムを探そう
ラッキーライムとは
ラッキーライム/偶発韻/偶然韻とは、その言葉の並び(文章、リリック、単語の羅列など)を作成した本人が無意識の内に踏んでいる、もしくは意図していないであろう箇所で踏んでいる韻のことじゃ。書いた時ではなく、後から読み返したり他者から指摘されることで初めて気がつくパターンが多いため、見つけられたらラッキーということで「ラッキーライム」と呼ばれておる。今考えた。
これ、意外とあるんじゃ。なんなら押韻島の作品にもラッキーライムが産んだラインが存在するぞい。
日刊SIXのNo.364。誉れあるトリ前じゃ。絵文字でリリックを表現するemojirapシリーズの発展系でもあるぞい。
トラックのサンプリング元とニコラップの某クラシックから拝借したノリで、hookとして「ゴーストバスターズ!」と叫んでおるんじゃが、制作時に「ゴーストバスターズ」で踏めるワードも一緒に叫ぼうという話になっての。M.C.Zが自分のパートどうしようかな〜と考えていたところ、petaから既に書いていた自身のverse内のワード「泳ぐ音楽家」と「ゴーストバスターズ」が踏めていることを指摘されて「ほんまや!」となり、hookにも採用したという経緯があるんじゃ。作っとる側でも割とそういうことってあるんじゃな。
身近なラッキーライム
もちろん、ラッキーライムの掘りどころはラップに限った話ではないぞい。寧ろSNSの何気ない投稿やテレビで見かけたニュースなど、基本的には韻に意識が割かれていない制作物にこそラッキーライムのチャンスが転がっておるのじゃ。
「東大卒の」経済学者と「公開討論」
とか
「仕事人内閣」どころか「自己保身解散」である
とか
「トランク一つ」だけで「浪漫飛行」へIn The Sky
とか
見つけられるとテンションが上がる、ちょっと長めのラッキーライムなんかも発掘できることがあるぞい。母音も子音も一致させる同音ライム系となるとなかなか難しいが、音の符合がもたらす不意な可笑しみという点では、俗に「空耳」と呼ばれる現象はほど近いのではと思われる。
もちろん、韻に意識的でないフィールドに韻を見出す行為は、逆に韻に意識的な者であればあるほど自然にこなせるじゃろう。ラッキーライムは「既存の文章を使ったライミング」とも言えるので、無限の拡がりを持つ言語の海から闇雲に韻のペアを浚う作業を常日頃繰り返しているライマーにとっては、寧ろ心地よい縛りに感じるかも知れんのう。かつて押韻島周辺の企画で「サンプリングだけでリリックを構成しよう」「小説から拝借した一節の組み合わせだけで作詞しよう」というものがあったが、ある意味ラッキーライム発掘の延長線上に置ける発想じゃの。
あなたの側にもラッキーライム
この世には「言われたら確かにそうじゃん!」という、後から刺される快楽が確かに存在しておる。特に、文学、映画に漫画、お笑い等々、掛詞やら伏線やらでその手の快楽を積極的に生産しようと何かしらに趣向を凝らした作品が溢れていて、そういった作品に触れることを欲している人間が集まりやすい界隈では、アンテナの感度が高い分、偶発的な快楽も発見されがちじゃ。つい昨日のR-1グランプリ2024でも、大会史上初のアマチュア決勝進出を果たしたどくさいスイッチ企画氏が披露したネタ「ツチノコ発見者の一生」で、ツチノコ発見者の息子が「たかし」と名付けられていることを、たかし=孝=分解すると土+ノ+子=ツチノコじゃん!と分析して盛り上がるツイートに本人が「気づいてませんでした」と返す場面が見られたぞい。Twitterじゃけど。ワシは頑なにTwitterと呼ぶんじゃ。
そういえば、ヤーレンズのラーメン屋のネタでベンジャミン・バトンを引き合いに出すくだりを綺麗に回収するオチも、本人達は言われて気づいたみたいな話を聞いた記憶があるな。そんな話だっけか。
いずれにせよ、ジャンルの違う画像にしょうもない類似性を見出して勝手にウケたり、新聞のラテ欄でなんでもない縦読みを見つけてクスッとなったり、そういう日常に隠れている無駄なくすぐりの一つとして皆も是非、ラッキーライムを探してみてはいかがかな。
「ラッキーライムは、ハッピーアイスクリームみたいなものだね」
「は?」
《連載》あの人 あの曲 あのライム
名人、名曲に名ライムあり。
この人、この曲ならこのライム!というイチ推しの一踏みを語っていただきます。
“この羽音で耳の穴開き侵食
二つの針でアナフィラキシーショック”
Waz拾伍
ニコラップ隆盛期からクオリティの高い楽曲の数々でリスナーに感動を届け続けている無類のリリシストにして押韻巧者である文鳥とWaz拾伍のタッグ、ひでん100が贈るアッパーチューンから。
音合わせの精度もさることながら、アナフィラキシーショックという素材を二人組の楽曲におけるキラーフレーズとして鮮やかに昇華させる様は、韻をリリックへと練り上げる一流ライマーの、正に職人技である。一貫して虫に関するワードをふんだんに盛り込んだ上手い言い回しとライミングが展開されていく中でも特に強烈な印象を残す二撃必殺のライン。
次号予告
オッス!オラ悟空!
いや〜、おどれぇたぞ!
編集後記
ばぁ!
(文/押韻島公民館狂信者)
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