涙をためる

3番目の女の子は強い。兄ちゃん2人に負けていない。お菓子だっておもちゃだって先にひとり占め。何かあったら兄に噛みつく。パパに言いつけにいく。
うちの3歳の末娘は、保育園でもまわりの子よりちょっと体が大きく、知恵もまわるようで、みんなのお姉さん役(しきり役)をしているらしい。他のお母さんにあった時も、「うちの子は、あーちゃんについていけばいいって思ってますよ。」と言われた。
 そんな強い娘が、最近、保育園に行きたくないと言う。
「あーちゃんは、
 ほいくえんにいかないの·····」
朝、大きな目に涙をためて言う。唇を突きだし顔をゆがめる。お着替えもせずに2階へ逃げていく。
「どーしたん·····」
聞けば、お昼寝の時間が嫌だという。
「ねむたくならない。」
「おふとんがかたかた。(固い)」
「ドンドンって、
 こわい太鼓の音がしてくる。」

「お昼寝の時間は、寝ないで
 ごろごろしてるだけでもいいんやよ。
 なあ、兄ちゃん、
 大丈夫やよな?」
「ぼくと一緒やなー。
 ぼくも行きたくない時あるよ。
 だいじょーぶ、だいじょーぶ。」
5歳の兄ちゃんは、好物の冷凍唐揚げを食べながら、ノーテンキに言う。

先生に聞くと、先日、怖い夢をみて大泣きしていたことがあったという。その時はおねしょもして布団を持ち帰っていたんだった。おまけに風の強い日でカタカタ、ドンドン、建物が揺れる音が響いていたそうだ。

「ママー、がんばって早くお仕事して、
 お昼寝前に迎えにきてな!」
「うん、がんばるけどなあ·····」
そんなに早くは迎えにいけないなあ·····。
顔を伏せて涙をこらえながら、でも意を決したように、娘は保育園のお部屋へ入っていく。

夕方迎えに行くと、何事もなかったかのように、ぴょんぴょん跳び跳ねてご機嫌の娘がいた。兄ちゃん達ときゃっきゃはしゃいでいて、ちょっと迷ったけど聞いてみた。
「きょうは保育園で泣かなかった?」
「うん。」
「お昼寝、怖くなかった?」
「うん。だって寝やんと(眠らずに)
 布団でごろごろしとっただけやもん。」
「もう、保育園怖くないかな?」
けろっとした顔で遊んでいる娘を見ると、もう克服したのかなと思ったのだけど··········

夜、一緒に布団に入りトントン寝かしつけていたら、娘がぼそっと言った。
「ママ、あしたは、あーちゃんが寝る前に
 迎えにきてな。」
ああ、やっぱりまだ怖いよね。そんなに簡単に乗りこえられるわけないよね。

まだまだ葛藤は続きそう。

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