新宿にて

清々しい朝


短い睡眠時間だったが
疲れはすっかり取れていた


今日はTwitterで連絡をとっている
養成所の同期と新宿で落ち合う予定だ


文面だけでどのような人物か予想しながら
揺られる電車内は期待にあふれていた。


新宿駅に着いた。


駅の構内は広すぎるし、
案内板も多すぎて何が何やらさっぱりだ。


とりあえず彼に到着した旨を伝えた。


彼は駅の東口で待っているらしい。


なるほど。


さっぱり分からない。
自分が今、何口にいるのかも分からない。


分からないままにしておくのは気持ち悪いので
自分から東口に向かうと告げた。


新宿駅は迷宮だ。


自分がどこにいるのか、
どこへ向かえばいいのかも分からない。
東西南北がどっちかも分からない。


駅員さんに東口の場所を聞いてみる


事細かな説明をしているのだろうが
語気の強い標準語が気になって
1ミリも話が入ってこない。


何をそんなに怒ることがあるのだろうか
中国人が早口の大声で話しているのに似ている


「そこの10段くらいある階段を降りたらまっすぐ行ってください」


階段の段数を意識して数えたことが無いので
どの階段かいまいちピンとこなかった。


一応、場所を教えていただいたので
僕が感謝の意を告げると


「……」


無言で振り返り会釈もなしに作業に戻った。


つ、冷たい…。
これがトーキョー。


どうやら僕がいた場所は西口らしく、
全く逆側から東口を目指すことになった。


東口から西口までまっすぐ行けば着きそうなものであるが、新宿はそうではない。
3、4回くらい曲がらなければ到着できない。


「よくここまでややこしく出来るなぁ」と
尊敬の意すら芽生えてきた。


そんなことを考えていると東口が見えてきた。


到着した旨を彼に告げる。


「白い服を着てます」


白い服、白い服…。
やったことはないのだが、
マッチングアプリで知り合う男女はこんな感じで探すのだろうと思う。


白い服。


白い服。


白い服…


新宿には白い服が多すぎる。
いや、新宿に人が多すぎる。
白い服を着る人も基本多すぎる。


キリがないので
「柄シャツの目立つのが僕です」
と告げ、


僕を探してもらう方向にシフトチェンジした


目立つ柄シャツを着てきてよかった。
柄シャツに感謝することは最初で最後だろう。


ある程度、時間が経ち
こちらをじっと見ている人物がいる。


それが彼だった。


良かった。見つかって。しかも正解で。


間違えて、何でもないただの白シャツの男に話しかけることは何とか回避出来た。


彼が来ていた服は確かに白を基調としていた。
白を基調としていたが、袖は違う色だった。


良かった。
もしこっちを見てなかったら
まずこの人には話しかけなかった。


ある程度、話して分かったのは
彼がお笑い経験があること
大阪出身であること
タバコはメンソールのハイライトであること
気さくな人間であることだ。


タメ口にも自然とシフトできた。


かなり打ち解けて来たので


気になっていた彼が使うオリジナルワード
「ホンキモ」についても聞くことが出来た。


「ホンキモ」


話の流れや文字の響きなどから推測するに
「本当にキモい」「ほんまにキモい」
同じ意味だがどちらかなのだろう。


彼に聞いてみると
「あれ?そんなこと言ったっけ?」


無意識で使っていたのか。なんてやつだ。


「いや、無意識なんかい」
と僕がツッコむ


「多分、俺の文章力がないから本当にキモいって言葉が出てこなかった。」
と彼なりの答えが出た。


え?文章力がないとホンキモになってしまうんか?「本当にキモい」をベースにして略した言葉がホンキモなんじゃないのか?本当にキモいが思い浮かばずにホンキモが思い浮かぶことがあるのか?


僕の頭が掻き乱される。


おかしいとは思っているのだが
適切にツッコめる言葉が思いつかない


思いつかないので


とりあえず「ッハハ!」と笑った。


完全敗北だ。


ともかく「ホンキモ」は語呂も良く、使う機会も多いためパワーワード認定ということでいいだろう。


オリジナルの言葉を作れるのは才能だ。
僕には到底出来ないお笑い。
なにより自覚なしなのが凄い。


ホンキモ。僕も使っていこうと思う。


最初のカフェを出て、歌舞伎町を散策する。


新宿スワンと龍が如く。
最近触れている作品とそのまま同じの風貌だ。


坊主の体格の良いおじさんが全員カタギじゃなく見える。


ある程度、話し、
やることが無くなって来ると彼が


「献血にいかない?」


なんで?と思った。


「せっかくの新宿、歌舞伎町だよ」


なんで?と思った。


「血を400ml抜くだけで、お菓子が食べ放題だよ」


いや、釣りあわねぇよ。
血を400mlも抜かれるんやぞ。


「芸人になった時のエピソードになるよ」


いや、俺、献血の話広げられねぇよ。
面白くするため差別化を考えたが、
医療ミスしか思いつかなかった。
献血の医療ミスは致命傷やぞ。


断りに断った。
僕にとってうまみがなさすぎる。


断ると彼はもうそれ以上は言わなかった。


スクールJCA。
おかしな奴ばかりだ。
いい意味でホンキモな奴らばかりだ。


面白くなってきやがったぜ。ちくしょうめ。


充実した今日だったが、反省点もある。


最初のカフェにタバコとライター
いわゆるタバコセットを全て忘れた。


まぁ、それでもお釣りが来る。
このワクワクはプライスレスだ。


帰り道、コンビニでライターを買った。


1日を振り返りながら吸うタバコは格別だ。


やけに押し心地の良いライターのボタンを押す


すると、
ガスバーナーの如く業火が吹き出し、
前髪が少し焦げた。


友達に聞くとターボライターというものらしい


そんなものがあったのかい。


お釣りがなくなった



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