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ただそこにいた私へ

「社会人一年目の私」というのを思い返した時に大学を辞めた二十歳だった当時すぐに出てくるようなエピソードがないことに気づく。
というのも大学を辞めたもののフリーターとも言えない程度のバイトしかせず、なんの身分も持たず何者なのかよくわからない状態でただ成人しただけの人間として社会に出ていたからだ。社会に出たというのもおこがましいかもしれない。



それでも一年ほどたった時に会社員になった。なんとなくやっていたラウンジの黒服をしていたときに「バイトではなく社員に」と声をかけてもらったのがきっかけだった。

月給をもらい、決まった時間に出勤して決まった日に休む日々。正直いって給料は少ないし社会保険もついていないし労働時間はとてつもなく長い。社員といえど飲み屋で働いているということは言う相手を選ぶ場面もあったし友達に心配されたこともあった。
店長として任されていたので掃除からキャスト管理、経理すべて自分一人でこなした。正直上の人たちからすれば私のおままごとに見えていたと思う。
それでも自分についてきてくれるキャスト達が可愛かったし、結果が出たときはうれしかったしモチベーションも上がった。



元々バイトだったとはいえ初心者だったし、かといって指導役の先輩もいなかった。自分から聞いても「てきとうでいいよ!」と言うがミーティングでは意見を求められ、もちろん結果も求められる。業界的に仕方ない部分もあるが、結果が悪いときは「系列店でおっぱい出してた方がいいんじゃない?」と言われたりもした。
よくわからないままとにかく手探り状態だった。最終的に家庭の状況もあり三年で辞めた。



働いていた当時事務方のおば様に何度も言われていたのが「あんたのその歳で一店舗任せてもらえるなんてないよ!いい経験させてもらってるんやからね!」ということ。
当時から「ほんとそうだよな」とは思っていたが今は当時以上にそう思う。
飲み屋で働く=テキトーにやって楽して稼げるというイメージを持っている人は今も割といると思うが、少なくともこの会社はそうじゃなかった。成績の分析方法、経理としての考え方、経営にあたってのノウハウ、その他もろもろの話が飛び交っていた。当時のお客様にもよく言われてたが「綺麗な女の子たちさえいればあとは何でもOK!」ではないのだ。

恥ずかしい話だがバイト時代は「店があって女の子がいればいいんでしょ」と思っていたところがあった。でもそうじゃないというのはすぐに学べたし、店長になってからは自分次第で女の子たちの給料やメンタル面に影響が出るということも痛感した。それ以外にも学べたことはたくさんあった。



睡眠時間がとれない日もあった。社畜だったといっても過言ではなかったと思う。でもそこで自分にとっての「働く」ということが確立された。今でも当時培われた価値観や経験が活かされることがある。
ただなんとなく始めた仕事だったが、そこで少しづつ社会人にしてもらったのは間違いない。会社側としてはたまったもんじゃないと思うが…。

当時先の保証があるわけでもなく漠然とした不安も抱えながらそれでもなんとかやってそして今の私がある。一年ほど何者でもなかった私がたまたま拾われたあの時が私の社会人一年目としてのスタートだったのは間違いない。

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