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ハイファイブ

「何年振り?」
「あら、忘れたわ。」
「四年振り?」
「そうかもね。」

彼女と初めて逢ったのは17年も前の事だ。
当時彼女は18歳で、高校を中退して札幌のすすきので泡姫をしていた。
娘と言っても良いくらい歳が離れていたが、切れ長の目と、ぽってりとした赤い唇が印象的だった。

17年前の1月、大厄の42歳で仕事を失った小生は、とても暇であったのと、両親から頼まれた用事を済ます為、故郷である札幌に舞い戻っていたのだ。

その時は両親共神奈川に呼んで10年程経っていたので、実家はなく、宿はビジホ、食事は飯屋で済ませていた。
故郷は10年以上ご無沙汰の内に当然ながらかなり変容しており、お上りさん気分であちこち見て回ってみた。

ソロソロ暗くなるかと言う時間になっ一旦ホテルに戻ったが、歩き疲れたのかそのまま寝てしまった。「はっ」と目覚めるともうすぐ22時。6時間以上寝てしまっていた。つくづく仮眠の出来ない体質なのだ。
腹も空いたので、「飯食わなきゃ。」と独り言ちてホテルの部屋を出た。
夜になってかなり冷え込んでいた。(さすがの北都札幌でも珍しい氷点下10℃以下だったと後から知った。)
凍てつく中をあまり歩きたくもないので、近くの飯屋に入ってホッケの開き定食と普段は飲まない熱燗を食した。ホテルへの道をほろ酔い気分で歩いていると、昼間には目立たず気付かなかったソープランドの看板。
「温まっていくか。」とフラフラと入ってしまった。
その時についた嬢が彼女だ。

旅人と嬢。ただそれだけで、互いに想い出にもならないはずだった。

それから3年後、彼女は何故か横浜のソープに居た。
感動の再開。いや、流石にそんな再会はドラマの世界だ。横浜のソープで見つけた訳ではない。

この年mixiのサービスが始まって、当時は本名でやってたので彼女が見つけてくれて、近況を教えてくれたのだ。ただ一度の嬢と客の関係の小生を覚えていたのには驚いた。

3年の内に彼女は結婚して出産して離婚していた。
横浜に来た訳は訊かなかった。
そして、彼女は横浜の店に小生を誘うことはなかった。
ところが、しばらくして(半年くらいだったか)逢いたいと連絡が来た。
否の理由はないので、横浜の駅からほど近い焼肉屋で逢う事にした。
焼肉を焼き頬張りながら、文字だけの近況報告では足りないのを補うように話をしていると「焼肉を食べてる私たちってどう見えるのかしら?」
「どうおって?」
「うふふ。ほら身体の関係があるとか。」
「それで判断するって事?へぇ。」
「これからどう?」
曖昧に返答したが、結局二人はホテルへ。

それから半年位毎にお声が掛かって小生達はホテルで逢った。
再会して4年後、ぷっつりと消息が途絶えた。

それからしばらくした東日本大震災の年。
またmixiを介して連絡をしてきた。彼女はアカウントを替え、ハンドルネームも替えていた。
そして前回と同じように何度か情事を重ねたが、また消息が途絶えた。
そして4年前、今度はfacebookで再会を果たし、お互いを貪った。
この時は、1度限りだった。
そして4年後の今日だ。
その間に彼女は女盛りの35歳。
こちらはもう老境。
とてもじゃないが体が言う事を聞かない。

それでも彼女は上気した淫蕩な眼を向けてくる。ま、多分この場を楽しむためだけのセルフプロデュースだろうが。
相変わらずの唇と切れ長の目。
なかなか彼女の中心を貫ける様にならない小生のモノではあったが、ゆっくり焦らずそれでも執拗に咥え込み舌を駆使する技によって何とかお相手が出来た。

帰り際、手を振ろうと少し上げた手にハイファイブして別れた。


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