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歯磨き粉と精神の安寧

歯磨き粉が変わった。

私の家では無くなった日用品は無くなったことに気づいた人が買ってくるシステムなので、そのブランドとか種類は買う人間のセンスとか気分で結構変わる。今回は歯磨き粉がG・U・Mになっていた。以前はなんか抹茶のやつだった。

歯ブラシっていまだにどのくらいのタイミングで買い換えたらいいのかわかんないなー、と思いながら新しい歯磨き粉をウニョンと出してみる。考えたら一回分の歯磨き粉の量もいまだに適正量がわかってないな。歯磨きについて何もわかってない。私は無知。

歯ブラシを咥えて奥歯から磨く。

「奥歯4箇所、横2箇所、前歯たてよこ、内側」という歯磨きの順番歌(歌?)を歯医者の先生が学校に来た時に呪文のように繰り返させられたことがあって、以来それがずっと頭に残っている。フレーズの語感が良いとやっぱり覚えやすいんだ、と思った。CMの歌を考えている人はすごい。


この辺で違和感に気づいたのだけど口の中がめちゃくちゃしょっぱい。

美味しくない。

何事だと思ってパッケージを見てみると『ほどよい塩でハグキ引き締め』と書いてあった。

塩…………デザインが普通のものとほぼ同じだったので気がつかなかった。

うわー美味しくない。

別に歯磨き粉に美味しさは求めてはいないのだけどそれでも味が変だとびっくりする。

初めて塩味(『塩味』って書くとラーメンみたいだけど)を使ったのでそのせいでもあるかもしれない。なんというか、せっかく歯を磨いたのに口の中がしょっぱかったら意味なくない?と思う。私は口の中の味を一度全部なかったことにしたいのに。

その日は顔をしかめながら歯を磨いた。


翌日、なんか普通に磨けるようになっていた。

え?

慣れ?

慣れた?

こういうのって2日で慣れるもの?

あまりに自身の適応能力が高くてびっくりしてしまった。すごいな、私。慣れるにしてももうちょっと段階がある気がするけど。

なんというか苦手な食べ物を克服するまでの過程、みたいな感覚に近いものがある。しかもそれをものすごい速度で体験したものだから、一瞬で修行を終えた天才児みたいな気分になった。嬉しい。


苦手な食べ物、そういえばないかも。

以前はほうれん草の胡麻和えが苦手だったのだけど(多分胡麻ペーストが苦手だった)食べられるようになったし、セロリとかパクチーとかの癖のある野菜もむしろ好きの部類に入るくらいになってしまった。

普段は別に好きなものを食べているので自身の好き嫌いに対して意識が向かないのだけれどふとした時に「そういえば私嫌いな食べ物ないかも」と思ってちょっとふふん、となる。最強かも私、となる。些細なことで自己肯定感が上がる単純人間である。

今日も食後すぐにお皿を洗えたので自分を褒めていた。あんなに大変な作業をこなすのは並大抵の精神力では不可能だと思う。

最近はラジオを聴きながら洗うことが多い。バンドのおじさん5人が愉快に喋っているだけの番組なのでながら作業にとても丁度いい。人の会話を聞くのが多分好きかもしれない。寝れない時とかもよく聞く。

しかしこれには問題があって、圧倒的にアーカイブが足りないのである。

お皿を洗うというタスクは毎日あるわけだけど私が心の支えにしているラジオは週に1回しか更新されない。残りの6日間、どうやって精神を落ち着けかせれば良いのか。このままでは「うわーーーー」と叫びながらお皿を洗う日々を送ることになってしまう。なんなら実際言っている日もある。

新たな心の安寧を見つけることが目下の課題である。

もしくは皿洗いも歯磨き粉みたいに慣れて克服するか。



無理だ。




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