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祖父との将棋

好きなタレントさんが、YouTubeでプロ棋士の方とコラボされていた。なんとなくその動画を見ていたらふと、祖父と将棋で遊んでいた記憶が浮かんだ。


埼玉の祖父母の家には、木製の将棋盤と駒があった。プロの棋士が用いるような高さのある将棋盤ではなかったのだけれど、木目も見えるくらいの少々本格的なもの。それを使って、祖父とふたりで遊んでいた。


当時、小学校4〜5年生の僕は、普段の生活で将棋をすることはまったくなかった。友達と遊ぶときに「将棋やろう」とはならないし、家に帰って遊ぶといっても大体テレビゲームをしていた。

そんなわけで、将棋をするのは祖父母の家に行ったときだけ。年に2〜3回だった。それくらいの頻度なので、駒の動きはうろ覚え。よく祖父に、「銀は横に進めるっけ?」とか「金が進めないのはどっちだっけ?」と確認していた。「桂馬」にいたっては、ときどき動かし方を間違える。正しく動かせたときは、なんだか将棋に詳しくなったつもりでいた。


そんな駒の動きさえ怪しい僕だったのだけれど、祖父の前で生意気に長考する。なかなか次の一手を指さず、読めるはずもない二手先を読んでいた。


勝負は毎回、なぜだか僕が勝っていた。というより、勝たせてもらっていた。遊んでいるとき、祖父は生意気な僕の長考を見守っていた。たぶんその間、自分が勝つためではなくて、僕に勝たせるための一手を考えてくれていたのだろう。


祖父母の家から東京に帰るときは必ず、近所のイトーヨーカドーで欲しいものを買ってもらっていた。新作のゲームソフトを頼むことが多かったのだけれど、祖父に勝って嬉しくなった僕は、一度だけ木製の将棋セットをお願いしたことがある。

家に帰りさっそく封を開け、駒を並べたり動かしたりしてしばらく遊んだ。けれども以降いままで、それを使って友達や家族と将棋をしたことはない。


いまも自室の引き出しの奥に、木製の将棋盤と駒はひっそりとしまわれている。



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