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『DIY葬儀ハンドブック』スピンオフ企画VOL.3 葬儀業界の実態や葬儀場をめぐる人と場所の問題などに迫る!

駒草出版

弊社で2019年10月に刊行した『DIY葬儀ハンドブック』の著者、松本祐貴さんが、葬儀に関する単純な疑問や知りたいことを教えてくれる企画。第3回のテーマは「葬儀業界」です。

死亡者数は2040年まで増加、葬儀業界は今後も伸びる


 人の一生で、確実に何度かは関わることになる葬儀社。そんな葬儀業界とはどのようなもので、そこで働くスタッフたち、経営者は、どんな人たちなのでしょう。今回は葬儀業界を分析します。

 最初に葬儀社とはどんな業界なのかをデータで見てみましょう。
 少し前のデータですが、平成26年の経済産業省の資料によれば、冠婚葬祭業の事業者は全国で9862社、従業員数12万9000人、売上は2兆2852億円です。これには結婚式業なども入っているので、実際は葬儀社が5-6000社、売上が1兆8000億円ほどとされています。2019年の死亡者数は137万6000人、今後も2040年までは死亡者数も増加します。葬儀の平均費用は下がりつつありますが、売上規模だけでみるならば、有望な業界と言えます。

ここ10年ほどで葬儀業界で働く女性が増えた


 葬儀業界では、どんな働き方をしているのか、中堅葬儀社に入社し、現在は独立して葬儀社を経営するAさんに聞いてみました。

「業界内では、新卒を取る葬儀社もありますよ。大手葬儀社では社員の年齢も20代〜60代までまんべんなくいます。葬儀、ご遺体を扱うので合わない人はすぐに辞めますが、定年まで勤める人もたくさんいます。私の周りでは、独立を目指した人もいますが、廃業してしまう人も多くいますね。2000年ごろはまだ葬儀単価も高かったですが、やはり看板や営業力がないと集客が続かないんですかね」

男女比はどうでしょうか?
「ここ15年ほどは、葬儀社の社員にも女性が増えましたね。それでも男性の方がまだ多いかもしれません。葬儀の現場での派遣も含めると、男6:女4ぐらいの比率になってきます。葬儀の派遣とは、案内や司会進行の方などです。派遣は女性スタッフがかなりを占めます。
 それこそひと昔前の葬儀屋はキツイ、汚い、危険の3Kで男の職場でした。私が入ったころはおじさんが多かったですが、今や若いお兄ちゃん、若い女のコも増えてきて、うれしいですね」

葬儀の仕事とは大事な人を亡くした遺族のケア


Aさんが葬儀の仕事を目指した個人的な理由を教えてください。
「人の役に立つ仕事がしたいと考えていました。当初、私はお葬式の花を提供する花屋として、関わっていました。そこで葬儀屋さんの仕事ぶりを見て、感心したんです。
 喪主や遺族の方は葬儀に対してなにも知識がありません。葬儀社の人は、その遺族ができないことを優しく、的確にフォローしていました。これは困っている人の役に立つ仕事だ、この仕事がしたいと思ったんです」

毎日のように死と向き合うとメンタル面でも苦労があるかと思います。
「葬儀屋は職業ですし、仕事が使命だと考えると精神的に落ち込むことはないですね。打ち合わせのときから最後まで『ボッタクられたくない』とずっと言ってくるようなお客さんが来ると大変ですが(笑)。たしかにご遺体を扱う葬儀業界に合わない人も多いので、料理、花、返礼品のお店など間接的に関わる方でも、メンタルをやられて辞める人たちが周りにいますね」

これから先、この業界はどうなるのでしょう。
「葬儀業界はアナログな世界なんですよ。1回きりのお客さまも多く、ITを活用した顧客管理とか、デジタル化もなかなか進まないですし、変化が少ないのです。装備品、道具もモデルチェンジはしますが基本的に変わりません。葬儀のスタイルは徐々に変化していますけどね。やはりお客さまあっての仕事なので、目の前のお客さまに喜んでもらえる葬儀社が生き残るのではないでしょうか」

 葬儀の仕事というと、難しく考えてしまいがちですが、葬儀社とは大事な人を亡くしてしまった遺族をケアし、葬儀を円滑に進めるプロフェッショナルなのです。

葬儀場の建設には周辺住民の理解が不可欠


 葬儀業界の拡大に伴い、葬儀の式場が新しく建つのを目にすることもあります。後半では、葬儀社にふさわしい土地はどこかという話をお届けします。Aさんが語ります。

「たしかに式場は増えている気もしますね。新しく式場を建てる場合は、周辺住民の反対もあります。もともとあった式場の近くに新規の住民が引っ越してきて、『線香臭い』などの文句をいうケースがあるそうです。大手の葬儀社が幹線道路沿いなどに作る式場は、周りに住民がいないことも多く、それほどクレームはありません。
 式場の建設は、法律に則って進めるので、基本的に行政・自治体からなにか問題といわれることはありません。ただし、行政から周辺住民への説明会を開くようにお願いされることはあります。複数回開き、除菌設備もあり、感染症などの心配がない、排煙設備があるので線香の臭い漏れることはない、などの説明を行います。一般の方からは『お葬式は夜中もやりますか?』『ご遺体を焼く煙が一日中出ますか?』などとんでもない質問が出ることもあります。今は式場で夜中までのお通夜は行われませんし、式場での火葬など、あるはずもありません。ご遺体を焼くのは火葬場です。なかには明らかなクレーマーや補償金を求めるような人物もいると聞きますね」

住宅街に遺体安置所ができた!?

 
 ここで葬儀の流れをもう一度整理してみます。葬儀には火葬場、式場、安置所が欠かせません。人が亡くなってから、通常24時間以内は火葬することはできず、病院からは数時間ほどでご遺体の退去を要請されます。そのご遺体は、昔はご自宅に安置したものですが、近年は遺体安置所や斎場、葬儀社に安置することが多くなっています。
 この遺体安置所(遺体ホテル)の建設には、建築の法律があるのみで、許可は各自治体の指導要綱に委ねられています。Aさんによると、こんなこともあるそうです。
「これは式場の話ではないのですが、安置所が住宅密集地にできたこともあります。ある業者が、住宅街の真ん中の20坪ほどの敷地で安置所を建設しようとしたんですが、住民の反対運動はかなり激しいものでした。反対されながらも安置所は完成。営業が開始されました。しかし、ご遺体を乗せた寝台車が着くと、周辺住民から『出て行け』の声が投げかけられ、これではとても安置所として営業が続けられないと、この安置所は半年ほどで潰れてしまったんです」

 安置所と式場は明らかに用途が違います。安置所はご遺体を預かるだけの場所です。式場は通夜、告別式が行われ、多くの人が出入りします。ですが、一般人にはその違いがわかりません。
「私は小規模式場と安置所を持っていますが、一般の方から火葬場と間違われることもあります」
 火葬場は、ご遺体を焼く場所で、公営の式場である斎場が併設されている火葬場もあります。

広がる? 式場を多目的に活用?


 葬儀社の式場は常に稼働しているわけではありません。ほかのことに式場を使えないのでしょうか。Aさんに聞いてみました。
「思いつくのは、お稽古場ですね。ダンスの教室や歌の会をやっているところもあります。地域住民のサークル活動、町内会、会議室などにも開放できそうです。
 物販はどうでしょうね。私は花を売ったことがありますが、定期的でないと、知ってもらうまでが大変ですね。ほかにもドラマの撮影に貸したこともあります。私のところは小規模なので、小回りがきいて、多様な要望や問い合わせにも対応できるのが利点です。葬儀会館専門の造作になっていると、葬儀の印象が強くなってしまいますね。葬式の事前相談やお墓、お坊さん関係に利用するならいいでしょうけど、ほかへの転用は難しいと思います」
 式場活用の幅は意外に広いことがわかった。
「大手葬儀社はもっと大きな式場を持っていますが、それほど稼働していないところも多いので使い道はありそうですね。そこにインターネットの葬儀紹介会社が目をつけて、式場の斡旋をしているようです」
 広く、多くの人数を集めることもできる式場は地域住民の憩いの場ともなってくれそうです。

火葬場、式場に適した立地は?


 最後に火葬場や式場、安置所の立地条件としては何が求められるのでしょう。
「式場や安置所は利便性と周辺住民のバランスを考えなければいけません。利用者も近くに住んでいながら、幹線道路沿いで駐車場が確保できる広い土地があるなら理想ですね。利便性を求めて鉄道駅の周辺にもセレモニーホールなどという名前で建てられています。
 今後の死者数増加を考えると、式場や安置所も必要ですから、自治体の条例に則り、地域住民と一緒に作っていってほしいと思います。
 火葬場はご遺体を焼く場所なので、特別です。行政の作る火葬場は、クレームを避けるために人けのない山の中や海の近くに建てられるケースが多いですね。民間火葬場は、住宅街に面したところにもあります」

 ご遺族や参列している方は、最後のお別れをしにきていることを、近隣の方にご理解いただければ嬉しいですね。

文・構成:松本祐貴

著者プロフィール
松本祐貴(まつもと・ゆうき)
1977年、大阪府生まれ。ライター&フリー編集者。雑誌記者、出版社勤務を経て、雑誌、ムックなどに寄稿する。テーマは旅、サブカル、趣味系が多い。著書『泥酔夫婦世界一周』(オークラ出版)。

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-遺体搬送から遺骨の供養まで- DIY葬儀ハンドブック』(駒草出版) 
四六変型判/並製 176ページ
ISBN 978-4-909646-25-5
定価(税込み) 1,540円
好評発売中!

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