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「ラジオといるじかん」Vol.9 『ハライチのターン!』組の恋バナ

夕方、スマホが2回鳴った。ほぼ同時に、友人からメッセージが来ていた。二通とも同じ内容について知らせるもので、一通には「事件です」というコメントとともに、あるニュースのURLがついていた。仕事の疲れでうたた寝をしていて、薄目で見た先には「ハライチ岩井、結婚」とあった。寝ぼけ眼で見た「19歳」「年の差電撃婚」のキーワードも睡魔に勝ることはなく、数時間後目を覚ましてから改めてニュースを見ても、驚きはあれど妙に落ち着いた気持ちだった。

Xで岩井さんのアカウントを見ると、「発表がありました結婚についてはラジオで話しています。今週のTBSラジオ『ハライチのターン!』を聴いてください」というツイートが。うん。そうだよね。今日は月曜日。木曜日まで待つしか、リスナーにできることはない。

待ちわびた木曜日の放送は、いつも通り「今週のネコちゃんニュース」からはじまる。いつにも増してどうでもいいネコちゃんニュースを数分引っ張った後、「はい、はじめます」というぶつ切りを澤部さんが入れ、タイトルコールと共に番組がはじまる。

「……結婚、したんですけどもねぇ」
「結婚、してたねぇ」
この会話のトーンが、幼馴染の距離感だ。

岩井「澤部さんにはね、発表の前日に電話しましたもんね」
澤部「発表の前日だよね。びっくりした。若〜!ってまずなったよね、そりゃあさ」
岩井「いつも新ネタは当日に教えるじゃないですか。前日に教えたくらいでもう感謝してほしい俺は」
澤部「俺も嬉しかったよ。早ぁ〜!知らせんの早!とはなったよね」

(『ハライチのターン!』2023年11月16日放送より)

岩井さんと奥森皐月さんはもともと子ども番組『おはスタ』(テレビ東京)のレギュラーとして共演。ただし曜日が違ったためたまに会うくらいで、同じく共演のサンシャイン池崎さんを介して会うことがあったと、順を追って説明していく。大事なエピソードに相槌を打ちながら、澤部さんが疑問をはさむ。

澤部「皐月って呼んでんの?」
岩井「え、皐月って呼んでる。よくない?」
澤部「いやいいよ。続けて?」

私も、冒頭では「皐月ちゃん」と呼んでいた岩井さんが、エピソードが進むにつれ「皐月」と自然に呼んでいたのが気になっていた。幼馴染の男子が恋バナをし、聞いているこの感じ。二人もラジオじゃなきゃきっとこんな会話はしていない。澤部さんの率直な反応で、二人の間にある照れが炙り出される。

岩井「未成年と二人でごはん行ったりは、俺はさすがにしないよって(皐月に)言ったの。そしたらそこからあんまり連絡がこなくなったのね。それでしばらく経ってあるときに成人しましたっていう連絡がくるわけよ。18になって、自分が成人するまで皐月は待ってたんだよね。成人したら二人で会ってもいいって言いましたよね?みたいな」
澤部「ちょっとそれ漫画みたいじゃん!!ブースの外が盛り上がってる!(笑)おじさんたちが」
岩井「言いましたよねって言われたから。成人してない子と二人では行かないよって言ったことが、成人したらいいってとらえてくれてたんだよね。俺が言ったことだこれ、ってなって、だったらごはんでも行こうかってなるんですよ」

 その後関係性は進展し、ご両親にも挨拶したり、一緒に家族で「焼肉きんぐ」に行くほど仲良くなったと話し、その後結婚に至るまでの話を岩井さんは続ける。

岩井「今年の半ばくらいに言い合いになったことがあるんだよね。皐月が、岩井さんは、岩井さんのことが大好きな私のことが好きなんですよね? だったら私の好きがなくなったら岩井さんも好きじゃなくなるってことだよね?って言ってきたのね。俺は、あ、その通りだったってちょっと思ったの。確かにいう通りだ、自分のことが好きな皐月が俺は好きだと思って付き合ってた。じゃあ皐月が俺のことを好きじゃなくなったら俺ってどうなんだろう?って本気でその時に考えて……はっとなってさ。でも皐月が俺のこと好きだろうが好きじゃなかろうが、好きになってるなと思ったの。真剣にね。それと同時に、皐月は俺のこと人として対等に向き合ってたのに俺はそうじゃなかったんだって思って。なんだよと、俺の方がよっぽど子どもなんじゃんと思ったんだよね。だから、ごめんと。一人の女性として、俺皐月のことが好きだわって言ったの、その時」
澤部「前までの岩井だったら考えられないんだろうな」
岩井「理屈で考えてた。理屈じゃないんだ、ってそのときなったんだよな。理屈じゃなく好きなんだって、なったんだ。よなぁ」
澤部「なんだよなぁ。みつをみたいな(笑)」
岩井「理屈じゃなく、好きなんだなぁ」
澤部「いわをゆうき(笑)ダサい書を書かないでください急に」

その後のプロポーズの局面でも、しっかりとダサ坊を発動させた岩井さん。正直な心情の表現と面白さがちゃんと同居していて、岩井さんのトークと澤部さんの受けの上手さに舌を巻く。

澤部「今もなんかずっと、うわぁ(相方が)結婚してるじゃん、って俺は思って聞いてるからね。ドラマ見てるみたいな感じだったな」
岩井「色々気付かされたね」
澤部「それすごいね。奥さんがさ。がっつりもう固まってたじゃん、岩井勇気という人間は。それを溶かす、変える人っていうのはなかなか現れないと思っちゃってたからね」
岩井「何回もハッとさせられることってあるんだって思って。すごいなって」
澤部「それを一昨日、俺は聞いたわけか。電話もらったとき、仕事終わりで。俺その日、ドッキリ六発くらいかけられてさぁ。帰りスタッフさんに、もうないんで!って言われてタクシー乗せられて、岩井から電話かかってきたから、絶対ドッキリじゃん!って思ったんだよ(笑)。やっぱり最初俺は色々聞かされた時はさ、やっぱりなんていうのかな、一瞬、一言でいうと『引いてた』瞬間もあって(笑)。でも岩井は道を外れるような段階は踏んでないというのを聞いたしさ。そういうのをやる人間じゃないというのはね、幼稚園からの付き合いでわかってるつもりでいたから。電話切る時には『おめでとう』とスッとは言えたかな」
岩井「俺、年上としか付き合ったことないからね」
澤部「そもそも年とかで見る人じゃないんだな、岩井はと思ったし。俺は前、妻から『はじめて顔以外で選んだわ』って言われたことがあって(笑)。結婚っていうのは今までの流れとか関係なくぐっと変わる何かがあるんだよね、多分ね」

ここ何年も『ハライチのターン!』を聞いてきて、岩井さんも澤部さんのことも私はとても好きで、妄信していると言われたら否定はできない。だけど不思議と、「この人たちはラジオで話せなくなるようなことはしないだろうな」とは思っていた。スキャンダルに厳しい世の中、危機意識は昨今の芸能人の誰しもが持っているだろう。だけど中でもラジオに軸足のある人ほど、「これをラジオで話せるかどうか」ということは意識して行動しているのではないだろうか。他でもない自分が、リスナーに対して気まずい思いをすることは、よくわかっているだろうから。

翌週の『パンサー向井の #ふらっと』では、向井さんがオープニングトークで「この間、どういう男がモテるのかを調べてたんですよ。特に意味はないんですけど。焦ってるとかじゃないんですけど。その結果、モテる男はクッション言葉を使わないっていうのがあったんですよ……」と話していた。向井さんは岩井さんと仲が良く、他の番組でも、同期の独身が減ったことを憂いながら、か細い声で祝福していた。それを受けた滝沢カレンさんが「クッション言葉ってなんでしたっけ。あ、枕詞のこと?」と言い、「ひさかたの……じゃないんですよ!」とツッコむ向井さん。

ラジオは、点ではなく「面」で聞きたい。一回の放送ではわからない、いくつもの点を重ねて、少しずつ線が見えるようになってきた頃、それぞれを走る線が交差するのを聞くのが楽しい。向井さんを含む各所の反応を聞くまでがAMラジオなのだ。でもあの日の『ハライチのターン!』の1時間は、あの日限りの点で聞いた人にも伝わる回だった。

点に見える出来事だけで誰かを解釈しようなんてできない。ラジオで見える点も面もうわべのものだけれど、声にはその人自身が出てしまうから、取り繕いは透けて見えてしまう。骨の髄までAMラジオが染み付いている私は、やや下世話に隣のクラスの噂話に耳を澄ますように、『ハライチのターン!』組の話をニヤニヤと聞いた。

 「え、皐月って呼んでんの?」
 
あの日、私もこっそりとクラスの輪に参加していた。こと、この二人の結婚話については、そんな聞き方以外にどうするべきものか私には到底分かりそうにない。

文・イラスト:あまのさくや

【著者プロフィール】
あまのさくや

絵はんこ作家、エッセイスト。チェコ親善アンバサダー。カリフォルニア生まれ、東京育ち。現在は岩手県・紫波町に移住。「ZINEづくり部」を発足し、自分にしか作れないものを創作し続ける楽しさを伝えるワークショップも行う。著書に『32歳。いきなり介護がやってきたー時をかける認知症の父と、がんの母と』(佼成出版社)、『チェコに学ぶ「作る」の魔力』(かもがわ出版)ほか。
SNSは、Twitterアカウント(@sakuhanjyo)、Instagram(https://www.instagram.com/sakuhanjyo/)、また、noteで自身のマガジンも展開中。


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