16:入院14日目

月曜日の朝、いつものように血圧と体温を測りに来た看護師さんに、「そろそろお風呂入りたい」とお願いしてみた。「わかった、調整してみるね」と答えてくれた。

すると、同室の女性も、「私も入りたいんだけど」と看護師さんに掛け合っていた。確かに、お互い同室になってから一度も入浴していない。いくら梅雨が長くて涼しい夏だとは言え、7月に1週間シャワーも浴びることができないのは、臭いももちろん、精神的にきつい。いくら髪がないとはいえ、頭も気持ち悪い。そろそろ限界だった。

朝食のあと、点滴を持ってきた看護師さんが、「ゆうなちゃん、今日お風呂はいろう、午後順番来たら呼ぶね、準備しておいて」と言ってくれた。嬉しい。同室女性も、今日は入れることになった。点滴をさし終わった後、カーテン越しに2人で「やっとだね、嬉しいね」と声を掛け合った。

そこからさっさと新しい下着を準備して、袋を点滴棒の持ち手にかけた。午後と言わず、今すぐにでも私は行ける。でもまあ、ほかにも入浴患者はいるし、看護師さんの都合もあるから、やっぱり私の順番が前倒しになることはなかった。昼食を食べてぼーっとしていると、病棟内で看護師さん2人がシーツ交換をして回り始めた。

私のベッドの番が来て、交換してもう間は車いすに移乗して待った。このタイミングでお風呂に呼ばれれば、綺麗な身体で清潔なシーツに寝られるのに、と思っていたが、さすがベテラン、シーツ交換があっという間に終わった。素足をなるべくベッドに乗せないようにして、頭もどこにもつけないようにして、ベッドに座ってお風呂の順番を待った。

そのあとすぐに呼ばれて、看護師さん1人と病衣を持って3階の浴室に歩いて移動した。浴室ではまだ着替えている人がいたようで、浴室の前で少し待った。浴室があるフロアはリハビリ専用病棟で、私の坊主頭を褒めてくれたおばあちゃんにちょうど遭遇して、立ち話をした。ちょっと釣り目で、いつもニコニコしていて、なかなか可愛いおばあちゃんである。数分後、浴室から小さいおじいさんが車いすで出てきて、私の番が来た。ほかに応援の看護師さんが来ないから、今回の付き添いは1人らしい。

看護師さんが長靴を履いてエプロンをつけている間に、私は自分でどんどん服を脱ぐ。今回はもう生理ではないから、面倒なことは無い。点滴のルートをビニールで覆ってもらい、シャワーの前に座った。頭は洗っていいのだが、このステープラまみれの右半分を自分で洗うのは怖い。視界に入っていればまだいいのだが。看護師さんに頼んで右側だけ洗ってもらった。結構強めにガシガシ洗われた。少し痛かったけれど、看護師さんがやってるんだから大丈夫だろうと我慢した。

頭の左側と顔、体は難なく自分で洗って、しばらくシャワーを浴びて温まってから浴室を出た。転ばないように服を着て、さっぱりして病室に戻った。髪の毛を乾かす手間が無いのは、楽でいいものだ。そのままベッドで横になって、意味があるかわからないが、夫に化粧水を持ってきてくれるよう連絡をした。仕事終わりに持ってきてくれるから、あと5時間はかかるが、仕方がない。洗濯物をまとめて、そのまま全身でベッドに横たわり、昼寝をした。

夕食を食べ終えてスマホをいじっていると、着替えと化粧水が届いた。病院のお風呂は、シャンプー兼ボディーソープという、なかなか洗浄力のつよいボディーウォッシュしかない。もちろんそれで顔まで洗っているから、顔が突っ張って仕方がない。とりあえずたっぷり化粧水をつけておいた。吸収されたかはよくわからない。

夜の8時、夜勤の看護師さんが「最後の点滴ですよ」と言って、カートを押してきた。食事もしっかり摂っているし、術前続いていた微熱も今はもうすっかり良くなっている。とうとうこの点滴地獄から抜け出せるのはとても嬉しい。この時点で、針を刺した痕が13か所もある。これから14か所目をさして、やっと終わる。とは言え、もう刺せるところは刺しつくしてあって、今夜刺す場所を見つけるのになかなか苦労していた。ここだ!と刺しても血管が見当たらず、皮膚に刺さったまま腕の中でグリグリ針を動かして、やっと血管にたどり着いた。そんなふうに針で探られたら、痛い。看護師さんが頑張っているから、口には出さなかったけど。

点滴が落ち始めたのを確認して、寝ることにした。この日は、誰も夜中に騒がなかった。


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