7:入院5日目

土曜日、この日も嫌々ながらウィッグ探しを始めた。モデルをしている友達に連絡してみたり、伯母の行きつけの美容師さんと連絡をとってみたり。

しかし、もともとヘアセットのしてあるフルウィッグというものはなく、ロングのウィッグを美容師さんにセットしてもらうしか手段がないのだと判明した。しかも、毛の色やサイズなど、結局実物を見ないことには選べない。あとで美容室に置いてあるカタログを差し入れてくれると言うので、もう自分でネットで探すことは諦めた。


この頃から、忘れっぽさに拍車がかかっているように感じることが多くなった。点滴棒を転がしながら、車椅子の入れる大きなトイレに入り、鍵を閉めるのを忘れたまま便座に座ってしまったり。トイレが広いのでドアまで手が届くはずもなく、途中で看護師さんにドアを開けられて、そこで初めて気づくさまだった。

食事の時間には、完食した後にベッドに寝ていると、「もうこれ食べないの?」と看護師さんから声をかけられる。え?と思ってよく見ると、お盆の手前側にあるおかずが蓋も開けずに残っていた。しかし、私は完食したと思っていて、そのお皿があるという認識すら無かった。半側空間無視なのかな?とも思ったが、普通は右半分、左半分が失認されるものだと知っていたので、視界の下だけの失認は関係あるのか少し疑問だった。

この指摘を受けたあとは、食事が届いたら、まずはお皿やお碗の蓋を全て取り、なんのおかずがあるかをを1つずつ確認してから食べ始めるように心がけてみた。

そこで私は、『うめびしお』と書いてある謎の袋を発見した。25年の人生で、一度も見たことがないし、聞いたこともない。これは、ご飯にかけるのか?それともこの、ほうれん草のおひたしにかけるのか?でも、おかずだけで十分ご飯は食べられる。同室者が居れば、この物体の用途を聴けるのだが、あいにくこの6人部屋に居るのは私1人。結局この得体の知れない『うめびしお』を食べることは諦めた。

うめびしおってどんな味がするんだろう

そしてこの日は、ピルを飲むのを止めてから4日目。私が飲んでいたヤーズ配合錠は一相性で、1シート28日分のうち、最後の4日分は偽薬であり、いつもは偽薬4錠目を飲んだ日に出血があった。まさに今日が4日目であり、出血が始まった。しかしナプキンの差し入れを頼んでいなかったため、手持ちは1枚も無い。しかも気づいたのが、トイレで用を足した時だった。

このまま下着を履いて、ナースステーションまで歩いて報告に行こうか、でも、その間に下着に血がついてしまったら、洗濯するのは夫だし、さすがに迷惑になってしまう。悩んだ挙句、トイレの呼び出しボタンを押した。すぐに看護師さんがすっ飛んできたが、この日はちゃんとトイレの鍵をかけていてドアが開かない。仕方なくズボンも下着も下ろしたまま鍵を開けにいき、生理きちゃった、と報告すると、急いで尿取りパッドを1枚持ってきてくれた。人生初の尿取りパッドを装着し、やっとトイレから出られた。

ベッドに戻り、夫に連絡をし、家にある使いかけの昼用ナプキンの差し入れをお願いした。


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