明晰夢

夢を見た。
仕事が成功する夢を見た。
同期や先輩も自分の成功を一緒に喜んでくれた。
目が覚めて、夢であることに肩を落とした。

夢を見た。
好きな人に振られる夢を見た。
人生で一番大好きな人だった。意を決して告白をしたが願いは叶わなかった。
目が覚めて、夢であることに胸を撫で下ろした。

夢とは不思議なものだ。
突拍子もない設定で始まるものもあれば、現実世界に沿った形で始まるものもある。
だからこそ、夢から醒めて初めて
今まで見ていた"もの"が"夢'であることを認識するのだ。

夢を見ている。
今まで上手くできていたことが、上手くできなくなっていく。
仕事も、プライベートも、全て。
「前はもっと上手くできていたのに」
階段から転げ落ちるように、連鎖的にできなくなっていく。
周りと同じようにできない自分に腹が立つ。
一つ、また一つと傷が増えていく。
「早く夢から醒めないかな」

夢を見ている。
誰にも必要とされなくなり、気づいたら周りには誰もいなくなっている。
僕の生活がどんどん廃れていく。
脱ぎっぱなしの服、
溜まった洗い物、
埃の被った家具、
一日中ベッドにいる人。
存在を主張する傷は、役割を果たさなくなった後も増え続ける。
「早く夢から醒めないかな」

昔からよく明晰夢を見る。
夢の中で「これは夢である」と自覚できることを明晰夢という。
夢と知っていながらも、夢の世界を楽しむことができたので明晰夢を見ることは好きだった。

これは夢だ。
そう言い聞かせて僕は会社に行く。
まだ夢から醒めていないことに肩を落とす。

これは夢だ。
そう言い聞かせて僕は眠りにつく。
まだ夢から醒めていないことに肩を落とす。

早く現実に戻りたい。
なぜならこれは"夢"なのだから。
夢から醒めて「夢でよかった」と言わせてほしい。
これが"現実"な訳がないのだから。

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