文芸のある暮らし
チョコレートが好きです。とくに疲れているときに甘いものをとると身体に染み渡ります。忙しい毎日を癒やしてくれるのは、甘いものと、そして文芸です。
近所の洋菓子屋さんで、ヴァローナのパールショコラが散りばめられたスコーンを見つけました。ふだんはプレーンなスコーンしかなかったように思います。きっとバレンタインが近いからでしょう。
トーストすると外側の食感が良くなり、また香ばしくなります。日曜午後の日を浴びたスコーン・ショコラは、1987年に刊行を終えた旺文社文庫のグリーンの装丁となぜかよく似合う気がしました。
長谷川四郎の「シベリヤ物語」はシベリヤに抑留された経験のある作者がその体験をもとに書いた小説集です。捕虜として暮らしているはずなのに、どこか飄々としたフラットな筆致で、ある意味では素朴な風味のスコーンに味わいが似ています。
最近、本を読んでいるときや小説を書いているときに、よくお香を焚きます。近所の器のお店で買った小皿を線香立てとして使っています。どこか旺文社文庫のやさしい緑色と似ていますね。
以前、かついで持って帰ってきた小さなベンチに文庫を返します。ほとんどの本は電子書籍で読みますが、小説や随筆だけは紙の本で読みます。古書の香りと頁の乾いた手ざわりを贅沢に思います。
窓辺に飾っている南天はまだ元気です。紅い実のひとつひとつに日の光が宿ります。お正月飾りとして買ったのに、気づけばもう二月も中旬ですね。
いつの日か買ったフルーツのハーブティセットのラズベリー味が残っていたので、執筆のおともにしようと決めました。
寒い日に温かい飲み物を飲みながら小説を書くのが好きです。今年から書きはじめた私としては長い小説も、完成が近づいてきました。身体と心が温まるハーブティと疲れを癒やしてくれるチョコレートのおかげかもしれません。
忙しいときほど毎日のひとつひとつの暮らしの欠片をたいせつに拾います。一文字一文字、小説の世界を広げていくように、ひと呼吸ひと呼吸、今日を味わいます。
ちょっと大げさかもしれませんが、あたかも今日はじめて生まれたかのように、今日を生きます。
長谷川四郎の「シベリヤ物語」のアンナ・ガールキナという短編にはこんな台詞があります。
甘いものを食べて、小説を書くことのできる今日をありがたく思いながら、明日もまた新しく生まれたかのように、暮らしていこうと思います。
みなさんもご一緒に、「シベリヤ物語」のような、あるいはスコーンのような、素朴でフラットな文芸ライフを楽しみましょう!
では、また!
いただいたサポートで牛乳を買って金曜夜に一杯やります。