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新しいエンブレムが生まれた日

2023年10月28日。

この日、FC東京が2024シーズンから使用する新たなエンブレムが発表されました。

クラブにとっての顔であり、象徴であり、魂とも言えるエンブレム。この世に姿を現した「お披露目」の日をスタンドから見届けた自分が、その時感じたこと、そして今考えていることを、備忘録代わりに残しておこうと思います。あくまでも主観です。

絶好の観戦日和

毎年恒例のテディベアDay、運動会シーズンも落ち着いた土曜日の15時キックオフ、という好条件も手伝ってか、秋晴れの味の素スタジアムに集まったのはこの節J1最多の30,981人。

FC東京にとって、クラブ設立25周年を祝う「F.C.TOKYO 25th Anniv. Month」のラストを飾るホームゲーム。この日の試合後に、新しいエンブレムが発表されることになっていました。

クラブの歴史を辿ったバナー

記念試合初戦にあたる9/23の鳥栖戦は、2点のビハインドから俵積田のプロ初ゴールを含む3得点で逆転勝ち。
続く10/1のG大阪戦は前半を原川・ディエゴの2ゴールで折り返すと、後半にはまたしても俵積田が2戦連発となるスーパーゴールを奪って3-0で快勝。流れは悪くなかったように思います。

直近のアウェイ三ツ沢では最下位の横浜FC相手に全く良いところなく敗れていたものの、是が非でもこのホームゲームを勝利で終えて、少しでもポジティブな雰囲気で試合後のエンブレム発表を見届けたいと願っていたサポーターは沢山いたことでしょう。

試合前の東京ゴール裏には、「TOKYO」の垂れ幕と「YOU'LL NEVER WALK ALONE」のビッグフラッグが。最近だと、2019年に優勝争いをしながら迎えたホーム最後の浦和戦や、今年7月の東京ダービーなど「ここぞ」という場面で掲出されていた印象があったためこの場面での登場はやや意外でしたが、過去の使い所を考えると「このゲームをただの1試合では終わらせない」というサポーターの強い意志を伝えようとしていたように感じました。

自席から眺めた東京ゴール裏

対戦相手のサンフレッチェ広島にとっても、上位争いの真っ最中で迎える重要な一戦。広島サポも多数詰めかけ、選手入場時にはコレオグラフィーを用いてビジター席を紫と白で鮮やかに染め上げました。

選手入場

いつも以上に良い雰囲気で試合開始を迎えたように思います。試合の入りも悪くありませんでした。前半は双方に決定機があったものの決めきれず、スコアレスで折り返し。

後半、ここからもう1段階ギアを上げて…と思っていた矢先の48分、加藤陸次樹に反転から抜け出されて広島に先制を許してしまいました。

東京も62分、原川のスルーパスに抜け出したアダイウトンがスピードを保ったままグラウンダーで折り返すと、広島DF荒木のオウンゴールを誘い同点に追いつきます。直前に広島がカウンターで押し込もうとしたところを、原川がファウルを貰いながらも喰い止め、そのリスタートから生まれた得点。
コールで原川を讃え「♪立ち上がってみんなで歌おう〜」とゴール裏が歌い始めてすぐの同点弾に、グッと高まる味スタのボルテージ。

同点弾に沸くスタジアム

ここから鳥栖戦のように一気に試合をひっくり返したかったものの、畳み掛けることはできず。逆に75分、満田に決められて広島が勝ち越し。自陣でのパスミスからの失点に、「またか…」という空気感が自席の周りに漂います。

決定機が作れないまま90分が経過し、アディショナルタイムの表示は7分。何かが起こりそうな雰囲気があったかというと、そんな迫力は正直なところ全く見られなかったのですが、それでも時間は残されています。折れそうな心を何とか保っていました。

AT3分が経過したところで、味方とのパス交換がずれてボールを奪い返しに行った仲川のスライディングが足裏でベンカリファに入ると、すぐに主審の笛が吹かれました。遠目から見ていてもカードの色は予想が付きます。まだ時間は残されているとはいえ、ピッチを後にする仲川の姿を呆然と見送るしかありませんでした。

180°変わった空気感

秋空は紫色に

試合はそのまま1-2で終了。最後のホイッスルが鳴った瞬間、ゴール裏からはブーイングが。上位争いでもなければ残留が懸かっているわけでもない試合を淡々と終えてしまうことに対して、悲しさと切なさを感じざるを得ません。

普段であればこういった試合の後はすぐに席を立つのですが、この日はエンブレムのお披露目が控えています。選手周回を見届けながら、その時を待ちました。

おそらく大型画面に映像が映し出される形で発表されるのだろう…と待っていると、全身黒づくめのスタッフ10数名が何やら大きな布を持って静かにピッチの中央へ入場してきました。ハーフウェーラインに沿って待機しています。あれが広がると新エンブレムが現れるのでしょうか。スタンドがざわつき始めました。

新エンブレム発表の時を待つ現エンブレム

程なくして川岸社長がピッチ上に登場。と同時に、かつて聞いたことのないような大ブーイングがスタジアム中を包み込みました。社長から新エンブレム発表を前にした説明が始まったものの、(いつものことながら)ただでさえ控えめな声量に、とてつもないボリュームのブーイングが覆い重なったことで、はっきり言って何を話しているのかが全く聞こえません。

それでも社長の挨拶は続きます。東京ゴール裏に身体を向けて喋っているので、真後ろに映るのは相対する広島のゴール裏。勝利で気を良くした広島サポが、社長の顔の真横にピッタリと収まるような位置で、自分たちのエンブレムをひらひらと掲げていました。絶妙なカメラワーク。単純にカメラに抜かれるのを楽しんでいただけかもしれませんが、皮肉にしてはこれ以上ない見事なものになりました。

もう少し声を張っていただけると…


YouTubeに上げられていた動画を見返したところ、話し始めてからエンブレム紹介動画に入るまで4分ほどだったようです。体感はもう少し長く感じました。

真後ろの席のオジさん(普段も割と野次が出る)から、試合中でも聞いたことのないような罵声が放たれ続ける。上からも下からも右からも左からも、容赦ないブーイングと野次が飛び交う。

試合前の雰囲気とは一変、控えめに言って地獄のような時間でした。せっかく語ってくれている社長には申し訳ないのですが、早く終わってくれ…と思ってしまったのが正直な感想です。東京を応援し始めてからもう少しで20年近くになりますが、あの騒々しさは初めての経験です。(ガーロ辞めろ、の時とかもなかなかだった記憶があるけど、それを余裕で上回った気がする)

場内が暗転し動画が始まっても、ブーイングは鳴り止まず。3つのコンセプトを持つストライプから構成されたデザインの全貌が明らかになると、その声量は一段と大きくなりました。

はじめまして

ついに姿を現した新エンブレム。ファーストインプレッションは「これかあ…」という何とも言えない感情でした。それ以上でもそれ以下でもありません。夏の時点で、「青赤を使用」「ストライプを継承」「盾のシルエット」と明言されていたこともあり、想定内と言えば想定内。なので良いか悪いかは別としてそこまでの絶望感はなし。

一方で、想像の更に上を超えてくるようなデザインを期待していた面も少なからずあり、可もなく不可もなくみたいなところに収まってしまったような印象も拭えず。デザインのコンセプトが一通り紹介されたところで、モヤっとした感情を抱えながらスタジアムを抜け出しました。

モヤモヤの根源

いずれにしても、デザインの好みは千差万別だし、全員が納得するモノは生まれないと思っています。今はコンセプトを持たされただけで無機質なこのデザインも、時間が経てば自分たちの目にも馴染み、身体に馴染み、そして心に馴染んでくるのでしょう。(と、考えるしかない)

もともと自分はいつかエンブレムが変わる日が来ることについて、そこまでネガティブな感想は持っていませんでした。世界的に見ても過去にエンブレムを変えたクラブが多々あり、いつかはそういう日が来るかもしれない、という覚悟はしていたつもりです。

ただ今回の問題は、エンブレムを変えるか変えないかとか、デザインがどうとか、そういう問題ではなかったように思います。どうにも今回の進め方にはクラブの誠意が感じられなかった、というのが正直な印象です。

遡ること半年前、2023年2月にSOCIO(年間チケット保持者)を対象としたクラブエンブレムに関するアンケートが実施され、以下のような結果だったことが公式YouTube上で明らかになりました。

FC東京公式YouTubeより

クラブが主張してきた「37%の方がアップデートに前向きでした」はもちろん数字上は事実であるものの、同じくらい否定的な人もいて、何なら厳密な賛否の割合で言ったら否の方が多い。にも関わらず、それに反してあたかも賛成多数のような見出しの付け方に大きな違和感を覚えました。

川岸社長からのメッセージとして、以下のような言葉も発信されていましたね。

「エンブレムのアップデートに関しては、賛成が多数に届かない結果となりましたが、FC東京VISION 2030に対して80%を超える方に共感して頂きましたので、このエンブレムをアップデートするプロジェクトに関しましては、さらに検討を進めたいと考えております。」

https://www.fctokyo.co.jp/news/14569

ビジョンを遂行するうえで、エンブレム変更はきっとマストだったのでしょう。アンケート回答の賛否を問わず、変えることが前提で動いていたことは想像がつきます。でもそれなら対話を装ったアンケートなんかで「聞いたフリ」で誤魔化すのではなく、もう少し上手いやり方があったんじゃないでしょうか。

自分がガッカリ感を余計に感じてしまっていたのは、以前清水エスパルスがエンブレムのリブランディングを実施した際に、デザイン案がいくつか示されながら進められていたのを見て「いつか東京が変わるならああいう進め方が良いなあ」と淡い期待を抱いてしまっていたから、というのもあるかもしれません。

試行錯誤の過程が共有されていた

ここ最近エンブレム変更に向けて動き始めた名古屋グランパスも、(人数は限られてしまうようだけど)サポーターとの話し合いの場を設けながら、検討を重ねていくようです。

どちらもある程度の既定路線があるかもしれないし、ミーティングの類も実はガス抜きでしかなかったりするのかもしれません。だとしても見せ方としては悪くないと思いますし、こうしたアプローチなら少なくともプロセスにそれなりの透明性があるように感じます。

いずれにしても全員が納得する結論がないことは誰だって頭の中では理解していたはずです。だからこそ「FC東京ファミリー」という言葉を使うのであれば、とことん腹を割って説明して欲しかった。

クラブの未来にとって必要なことなら、想定されるメリットからデメリットまで丁寧に説明してくれれば良いのに、自信があるのか無いのか分からないような口ぶりの社長から動画を通じて抽象的な言葉で語られる理由だけでは心からの納得はできなかったし、いざ発表されたタイミングで「意見交換をさせていただきながら進めてまいりました」とか言われても「???」となってしまうのです。

今のクラブにとって「対話」「意見交換」「コミュニケーション」とはどのようなものを指すのでしょうか。

例えば11/12に開催された「2023 F.C.TOKYO FAN COMMUNICATION DAY」はコミュニケーションと謳っておきながら設定されたのはアウェイ新潟戦の翌日。リーグでは6シーズンぶりの新潟、結果的に2000人近い東京サポーターがチームを後押しするために現地へ乗り込んでいたとのことで、この中には泊まりがけで新潟を満喫することにしていた人も多かったはずですが(自分達もそうだった)、旅程的にイベントへの参加を断念せざるを得なくなったとの声がSNS上でも数多く見受けられました。

恐らく会場確保の都合や契約のアレコレも絡んで、この日がベターと判断されたのでしょう。何事にも事情があると思うので仕方ないと思います。とはいえ、現地まで駆けつけたサポーターが置き去りにされてしまった感は否めません(もし自分が新潟に行かなかった/行きたくても行けなかった立場だとしても、この感想は変わらない)。

やや話が逸れてしまいましたが、様々な面でサポーターの立場に寄り添った運営がされているようには中々思えず、残念ながら抱きたくもないクラブへの不信感を募らせてしまっているのが現状かなと思います。

新エンブレムとともに

それでもこれからのFC東京は、新しいエンブレムを胸に戦っていくことになります。今はまだ生まれたばかりで歴史も魂も宿っていない「ただのロゴ」でしかないと感じていますが、そのデザイン自体に何も罪はありません。

FとCの間はまだやっぱり気になる


いまは無機質にも見えるこのロゴが、社長が言うようなクラブのブランドの象徴となるには、与えられたコンセプトに頼ることなく、とにかくこのクラブが勝利を積み重ね、Jリーグ、ACL、そして世界を舞台に戦いながら、強く逞しくなり続けることが必要不可欠でしょう。

新規顧客の取り込みや、そのための仕掛けとしてイベントへ積極的に取り組むことも勿論重要で、チーム強化とは分けて考えるべきではあるものの、プロのサッカークラブである以上やはり大前提としてとにかくフットボールで勝負できるクラブでないと話にならないと思うのです。

掲げられた「FC東京VISION 2030」にもある「観戦体験」の満足度も、どれだけ花火やライブの演出で盛り上げたところで、結局のところメインである試合そのものに懸かっているはずです。

例えば1シーズン制になってから初めて優勝争いに絡んだ2019年。それまで2万人台で推移していた平均観客動員数は31,540人と初めて3万人台に到達し、勝てば人が自ずと集まってくることを実感しました。もちろんこの年もクラブは様々な手で集客努力をしていたとは思いますが、やはり目に見える結果がついてきたことが大きかったように思います。

今シーズン、我がクラブは「東京が熱狂」というスローガンを掲げてシーズンをスタートさせました。幸先良く開幕戦で浦和相手に勝利を飾り、金曜日の国立に5万6千人を集めたりもしたものの、トータルで見ると熱狂とは程遠いサッカーになってしまっていると言わざるを得ません。

勝負の世界なので試合に勝敗はつきもの。だから負けていいとは思いませんが、結果的に敗者になることもあるでしょう。それでも、例えどんな結果であれピッチに熱量があれば、スタンドに伝播し、スタジアム全体の非日常的な空気感を創り出し、その試合を観ている全ての人々の心を揺さぶることができるはずです。スタジアムの主役はピッチ上にいる選手たちであるべきであって、ライブでも花火でもありません。ピッチ上で繰り広げられる目の前の1試合1試合への熱量を更に高めていくことが、本当の意味での「熱狂」に繋がるのではないでしょうか。

現在のエンブレムだって決して順風満帆ではなかったかもしれませんが、数々の激闘を繰り返しながらその歴史の中で重みを増し、愛されてきたものであるはずです。繰り返しにはなりますが、クラブに携わるたくさんの人々によって築き上げられてきた象徴に対して手をつけることは、本来であればもっと慎重に進められて然るべきだったと思います。

これからもエンブレムに留まらずクラブのあらゆる要素が変化を続けていくことでしょう。変化を恐れてはいけないし、必要なことであればどんどん取り組むべきだと思います。これはサポーターも理解しないといけない。一方で、変わらないもの、大切に守らなければいけないものもあるはずです。FC東京というクラブが、「ファミリー」を上手に巻き込みながら、いかなるときも「強く、愛されるチームをめざして」今後も成長を続けていくことを心から願います。

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