広辞苑

本日広辞苑が届きました。かねてより欲しかったものなので居ても立っても居られずに早速ページを捲ってみます。
開けば言葉、言葉。私の知らない単語が目の前に広がっており知らない知識に触れられる喜びを噛みしめつつページを進めているといつの間にか私は蛇に睨まれた蛙のような、鷹の前の雉のような、そんな恐ろしいものを前にした心地へと連れていかれました。畏怖の念すら訪れる、広辞苑を前にした感動。私の拙い言葉で表しきれるかは不明ですが、お話していきたいと思います。

伝えたいのはその存在の大きさ。“言語”というありとあらゆる語の中で体系づけられた小宇宙がそこに存在しているのです。圧倒的な言語の、人間の知の結晶がそこにあるのです。
ある、ある、言葉が、私の知っている全ての語がそこにあり、それどころか私が見えているものに限らず意識下、無意識化のどちらにおいても感ぜられている全ての事象には名前がついていたことに気付かされました。

きっと今私が感じているこの感動、感情、状態にも“感動”だけではない名前が付いているのでしょう。あるのに、あるはずなのに私は“言葉”という灯りが無いためにそれらを認識できないのです。この恐ろしさが分るでしょうか。きっと私に知識がなければ、夜の暗闇を幽霊として片付けてしまっていたでしょう。幽霊の裏には地球と太陽の関係、影、光が複雑に絡み合ったものが存在しているはずなのに“幽霊”という曖昧な概念一つで簡単に事象に蓋をしたはずです。浅い理解で満足し、その本質や真実に対して目を凝らさずに見ないふりをしてしまう。きっと私はその行為を何百も、何千回もしてきたのです。その自分の愚かな行為がこの『広辞苑』という強烈な灯りによって赤裸々にされてしまったのです。

またこの広辞苑によって、この世界には大量の語が存在していながら、私はごくわずかな言葉しか使用していなかったことに気付き、そしてまたその真実に気付きながらも、自分はこれからの生涯でこれらの語のごく少数しか使えないのではないかと思えたのです。大量の言葉が存在しているにも関わらず！
目の前に存在するはずなのに私は自分の無知のせいでなにも掴めない、私の粗い知のフィルターは世界の1パーセントもふるいにかけられず“何か”として流れてしまうことをこの衝撃の中に気付かされたのです。

自分の無知が、恥ずかしいです。このたった1冊の内のごく1部で私の全てを収めてしまうであろう広辞苑という圧倒的な宇宙を前にした私の矮小さが。為す術なく言語の宇宙、海に吞まれながら何も掴めない愚かさがとてつもなく恥ずかしくて不甲斐ないのです。自分には知があるんじゃないかと妄信していた自分の傲慢さが面目なくて、広辞苑の前に跪いて懺悔したくなる衝動に駆られるのです。

全ての感動で涙が出そうです。この感動が、熱が、きっとこの広辞苑の中に名前を付けられて存在するのでしょう。かたじけないのです。広辞苑が、言語が有難いです。私の全ての気付きがこの中に内包されていて結局私も限りなく存在する人間の内のちっぽけな1存在でしょう。でもそれに気付かせてくれたのです。私はきっと今この瞬間に私の人生を変える衝撃と、その存在に出会えたのです。感無量です。広辞苑に、広辞苑の製作に携わった全ての方々に感謝し敬服します。広辞苑、誕生してくれてありがとう。皆様も興味があれば是非、広辞苑を！