氷河期
大規模な新しい事業所を立ち上げることになり、準備に奮闘していたジン。
立ち上げる日も決まっている。
立派な建物もできあがっている。
…が…働き手が足りないらしい……。
立ち上げ当日、朝早くから夜中まで帰れず…。
帰ってきて、お風呂入って2~3時間寝たらまた仕事…。
しばらくしたら落ち着くかと思っていたのに、人手が足りないから、立ち上げ当初とあまり労働環境は変わらない。
もちろんLINEなんてこない。
(この5G時代に、3Gしか入らないという劣悪な電波状況だし笑)
わたしも週に1通くらい、気を遣ってLINEをする。
📲『今日は早く帰れるかも』
夕方そんなLINEがきた日も
📲『今終わった…』
『ダメだこりゃ…』
と、0時にLINEが入ってドタキャンになる。
📲『無理しなくていいよ。気持ちが嬉しかった』
📲『鬱になりそう』
お風呂で気絶するように寝ちゃったり、とにかく文面からもかなりまいってるようだった。
ようやく会えたのは、お土産をもらってから1ヶ月後だった。
しかも、日付が変わる頃にようやく帰ってきて。
後にも先にも、1ヶ月会えなかったのはこの時だけだ。
『会いたいなぁ会いたいなぁと思ってたんだけど。5分でも…と思ったんだけど、なかなか…』
ぎゅーっと抱きしめられたまま、言われる。
ジンから『会いたかった』と聞くのは初めてだった。
もうその言葉だけで、十分に気持ちが伝わる。
この頃からかな。
『大変だったねぇ…』と言いながら、ジンの頭をなでるようになったのは。
ジンも黙ってなでられてる。
なんならわたしの肩に頭を乗せてくる。
わたしの前では頑張らなくていいよ。
わたしには甘えてもいいよ。
自分から甘えることはできないだろうから、わたしから甘えさせてあげる。
ジンの家庭がどんな雰囲気なのか。
奥さんがどんな人なのか。
何も知らないけど、結婚して子どもがいる夫婦の雰囲気は、経験してるからそこそこ分かっているつもりだ。
子育てに忙しい妻は、夫に構う時間はない。
ちゃっちゃと稼いでこい!とすら思っていた。
そんな雰囲気の中で、奥さんに甘えることはできないだろう。
ジンの娘さんは保育園に行っていて、小学校からは学童に行っている。
共働きの夫婦だし、ジンは自ら甘えるタイプじゃないだろう。
わたしは元旦那を甘えさせてあげられなかった妻だった。
特に2人目が生まれてからは、顕著だったと思う。
いろいろあって離婚したけど、元旦那が若い女に走ったのも、男としての自信とか尊厳を取り戻したかったのだろう。
気づけばレスになっていたし。
4月から異動が決まっていたジン。
ただ、この新しい事業所が落ち着かず、籍だけ異動したものの、この事業所でも仕事をする日が多かった。
ここから4ヶ月くらい、掛け持ちで事業所へ行っているものだから…3週間に1回くらいしか会えなくなった。
会えても夜中の23時半とか、0時を回ることもしばしば。
📲『今日早く帰れれば寄るよ』
📲『期待しすぎないで待ってるね』
📲『今から帰るよ~寝ててもいいからね』
📲『起きてるけど、無理しなくてもいいよ?』
📲『メンタルやられちゃうから大丈夫』
この頃のジンにとって、わたしと会うことでメンタルを保っていた面もあるみたいだ。
新年度になり、わたしも仕事が忙しかったが、0時にはさすがに家事も終わっている。
うたた寝しそうになりながら、ジンの帰りを待っていた。
寂しくて寂しくて、泣くこともしばしばだったけど。
それでも会えば幸せだった。
よく耐えたなぁ…この頃のわたし。