『Foreign Affairs』誌で学ぶ英語(1)

 英語学習の観点から、『フォーリン・アフェアーズ』の2023年5/6月号に掲載された論考「多極性という神話」を取り上げる。
 ハイレベルとされる英単語(例えば『英検1級出る順パス単』に所収のもの)が普通に使われていることを確認したい。慣用表現やコロケーションもピックアップした、また、解釈に困りそうな部分を「文法上の注意事項」で扱った。

単語

 主な単語を以下で確認(ハイレベル単語集に見られるものが中心)。並びは出現順。

simultaneously [sàiməltéiniəsli]

 副詞で「同時に」の意味。発音に注意したい。同時通訳はsimultaneous interpretation。ちなみに「サイマル・インターナショナル」の社名はここから取られた。

proclaim [proukléim]

 他動詞で「公式に発表する」や「宣言する」の意味。「明確に示す、強調する」の意味もあり、本文はこの意味を使っている。that節やOC(OをCと宣言する=declaire)の形をとる。Many who proclaim multipolarity seem to think of power as influence(世界の多極性を主張する多くの人々は、力を影響力と見做しているようだ)。

devoid [divɔ́id]

 形容詞。devoid ofの形で「(性質や物質的に)〜を全く持っていない」と事物の不在を強調する硬い言葉。the world is still largely devoid of a force that shaped great-power politics in times of multipolarity and bipolarity(依然として世界には、多極化及び二極化の時代の大国外交を形成した力がほとんど存在していない)。

barring [bɑ́riŋ]

 前置詞で、「〜がなければ」の意味。barが多義語であることはよく知られていて、barだけでも前置詞「〜を除いて」の意味になる。barring an outright collapse of either the United States or China, the gap between those countries and any of the also-rans will not close anytime soon(米国および中国の完全な下落がなければ、これら2カ国とその他の圏外の国々の差が埋まることは当分ない)。
 also-ranはレースで勝ちそうもない者や負けた人のこと。anytime soonは強い語結合なので覚えておいて損はなく、主に否定文で「すぐには〜しない、当分〜ない」と訳せる。

abrogate [ǽbrəgèit]

 他動詞で「(政府等が条約や法律)を破棄/廃止する」こと。unless it(=the United States) abrogates its own alliances wholesale, the fate of great-power politics does not hinge on any country's choice of partners(米国が自らの同盟関係を大規模に破棄しない限り、どの国がどことパートナーシップを結ぼうが、大国政治の運命を左右したりしない)。
 動詞的にパラフレーズして訳した。このようにこれまでの議論を前提にして名詞にニュアンスを詰め込むことがあるので文脈の把握は重要である。アメリカの単極性を前提とした主張であり、かつ過去の本当の多極性の時代=同盟の組み替えが情勢を一夜にして(overnight)国際情勢を変えてしまっていた状況も想定されている。なお、anyの譲歩性については文法上の注意事項も参照のこと。

fraught [frɔt]

 形容詞で、withを伴い「(危険や問題等)で満たされた、一杯の」という意味で使われる。また、「(状況や行動が)危険だ、困難だ」の意味があり、本文では後者。「文法上の注意事項」の「形 though SV」も参照。

ravage [rǽvidʒ]

 他動詞で「〜を破壊する、荒廃させる」の意味。主に国や経済等を目的語に取り、本文ではSuch a blockade would ravage the country's economy(そうした封鎖により中国経済は崩壊する)となっている。

promulgate [prɑ́məlgèit]

 他動詞で「(政府が法律等)を公布、公表する」、「〜を広く知らしめる、広報する」こと。Washington promulgated the proscription against the use of force to alter international boundaries(アメリカ政府は力による国境変更の禁止を広く知らしめた)。

慣用表現・コロケーション

conduct foreign policy

 「外交政策を実施する」。conductは硬いがcarry outで言い換え可能。

all the while

 「その間ずっと」。In the intervening two decades, the United States has suffered costly, ---. All the while, China continued its remarkable economic ascent.(20年間アメリカは莫大なコストに苦しんだ。その間、中国は顕著な経済成長を続けていた)という対比になる。

sound the death knell for 

 「終焉を告げる」。knell [nél]は弔鐘のこと。

to one's liking

 「Aの好みに」have the power to shape the system to their liking(その体系を自らの好みに形成する力をもつ)

chart the course

 「進路/方針を決める」free to chart their own chart(自らの進む方向を決められる自由)。
 ちなみに、フランク・シナトラの「My Way」には「I planned each charted course」という歌詞が出てくる。日本語にパッと訳せない言い方だが、歌の全体の意味合いからしても(私の計画した一つ一つの方針は明確だった)というニュアンス。

cast a large shadow across the globe

 cast a shadow over Aが基本形だが、ここではacross the globeという強い語結合により変わっている。一般に、悪いニュアンスでAに影を落とす(overshadow A)こと。本文は特にアメリカを批判する文脈ではないので、中立的に「アメリカは依然として世界に対して広く影響力を有している」と読むのが良いと思われる。

take A down a peg

 昔の英国海軍の旗の掲げ方に由来する慣用句で、「Aを侮辱する」や「Aの高慢な鼻をへし折る」という意味がある。
 バリエーションとして、動詞はtake / knock /pullが用いられ、pegはnotchに置き換わることがある。このnotchもイメージが湧きにくい単語だが、もともとスポーツの点数を記録するためにV字が刻まれていて、その刻み目をnotchと呼んだらしい、そこから「(達成度合い等を示す)段階、水準 」の意味が出てきて、しばしば新聞でも見かけるtop-notchは「トップクラス」の意味。

guns over butter

 gunsは国防、butterは国内経済の暗喩である。a large commitment to guns over butter in a command economy geared toward the production of military power(軍事力の増強に牽引された計画経済における国内経済に優先された国防への全般的なコミットメント)。Nor has Xi shown the same willingness as Soviet leaders to trade butter for guns(習近平はまた、ソ連の指導者らが国防のために国内政治を犠牲にしたのと同じ意欲も示してない)。
 ちなみに、apples and orangesと言えば、「(比較の対象にならない)全く別のもの」という意味になる。

scratch an itch

 「痒みを掻く」こと。本文では、これを比喩的に用いて、For now, there is effectively only one place where China could scratch its revisionist itch: in Taiwan(今のところ、中国が自身の修正主義的痒みを事実上唯一掻ける場所は、台湾である)としている。

cold comfort

 「意味のない慰め」のこと。All this might seem cold comfort, given that even the limited revisionist quests of China and Russia could still spark a great-power war, with its frightening potential to go nuclear(中国とロシアの限定的な修正主義的野心でさえも、核使用の恐れのある大国間戦争を巻き起こしたかもしれないと考えれば、これは意味のない慰めにしか過ぎないのかもしれない)。

文法上の注意事項

CVS倒置

Allied with the United States, meanwhile, were the vast majority of the world's richest countries

p.76

Gone are the days when the United States' across-the-board primacy was unambiguous.

p.85

 SVCが情報の流れに応じてCVSの形になり、倒置が生じている箇所。

As 形 as SV

And as dissatisfied as China, Russia, and other aspiring powers were with their status in the system, they realized they could do nothing to overturn it.

p.76

 <as 形/副 as S V>の形で譲歩を示す。 「中国、ロシアその他の野心的な強国はこの体系における自らの地位に満足していなかったが、それを覆すことはできないと理解した」。
 最初のasはなくても良く、Poor as he was(彼は貧しかったが)などあるが、米語では冒頭のasが用いられることがある。

形 though SV

Fraught though the current international environment may be compared with the halcyon days of the 1990s, it lacks these inducements to conflict and so bears no meaningful resemblance to the age of multipolarity.

p.82

 fraughtは単語のセクションで確認済み。Poor as he wasのasをthoughにしてPoor though he wasとすることがあり、同じく譲歩節を作るが、asよりも硬く響く。ここを書き直すと、Though the current international environment may be fraught compared with ---, it lacks ---となっていて、compared withは「〜と比較して」という意味の付帯状況の分詞である。コンマがないので勘違いしてしまうかもしれないが、ここをA may be compared with Bと続けて取ってしまうと、fraughtの収まる場所がなくなる。「1990年代の平和な日々と比べて現在の国際環境は緊迫したものかもしれないが、これらの紛争要因を欠いており、したがって多極性の時代との有意な類似性は存在しない」。

as dose A

Even many Americans take it for granted that the world is now multipolar. Successive reports from the U.S. National Intelligence Council have proclaimed as much, as have figures on the left and right who favor a more modest U.S. foreign policy.

p.78

 第一センテンスで「多くのアメリカ人でさえ、世界が今や多極的であることを当然のように考えている」とした後で、この次の文のas muchは「米国家情報会議(NIC)の一連の報告書もそのように述べている」と受ける。そして次のasも、前文を受ける形で「より中庸なアメリカの外交政策を好む左派・右派の人々でさえもそうである」となる。
 ここで、S V, as dose Aは「SはVである。Aもそうである」という意味である。前文が現在分詞なので、as内もhave (proclaimedが省略)で受けている。as much as構文と混同しないように注意したい。

譲歩のany

No longer can one pick any metric to see this reality, but it becomes clear when the right ones are used.

p.78

 No longer(昔はそうだったが今ではそうではないというニュアンスの否定詞)が冒頭にくることによって倒置が生じている。続くanyは譲歩のニュアンスを生じさせる。直訳的に「今や、この現実を見るためにすべての物差しを選ぶことはできない」とすると微妙だが、「今となっては、この現実を測るためにどんな物差しを選んでもよいというわけではない」とすると譲歩の意味で取れていることがはっきりするが、まだ翻訳文学っぽい。より意訳的には「今やすべての指標がこの現実を反映しているわけではない」という感じ。

譲歩構文(Indeed, but)のバリエーション

 「Aなのだが、しかしBである」として自説のBを主張するレトリックが本文には散見されるのでピックアップする。

(1) Yes, the United States has become less dominant over the past 20 years, but it remains at the top of the global power hierarchy—safely above China and far, far above every other country.

p.78

Yes ---, but---のシンプルな譲歩表現。

(2) it is admittedly smaller than before. Yet this development should be put in perspective.

p.78

 admittedlyは、主張のマイナス面を認めて「確かに〜である」とするもの。後にYetが続く。そもそも、admit to A/doingが悪いことをしたことを認めるというニュアンスである。
 ちなみに、この唐突に思えるthis developmentが何を指しているのかというと、直前のsmaller than before(以前より小さい)という比較に現れている時間の推移を伴う「アメリカの影響力の変化」と考えられる。「確かに、アメリカの影響力は以前より小さい。しかし、そうなった推移についてはより広い視野から検討されるべきだ」。

(3) There is no denying that the outcome of the war in Ukraine matters greatly for the future of that country’s sovereignty and the strength of the global norm against forceful land grabs. But in the narrow, cold-hearted calculus of global material power, Ukraine’s small economy—about the same size as that of Kansas—means that it ultimately matters little whether Ukraine is aligned with NATO, Russia, or neither side.

p.86

 there is no -ingは「〜できない」と不可能を意味し、ここでは〜ということは否定できないが、しかし、と主張をぶつける。「ウクライナ戦争の結末は、同国の主権の将来及び力による領土侵略に対する国際規範の強靭性にとって極めて重要であることは否定できない。しかしながら、国際的な物質的な力を入念に、冷静に計算してみれば、ウクライナの小規模な経済(カンザス州と同じサイズ)が意味するところは、ウクライナがNATO側に付こうが、ロシア側に付こうが、いずれの側に付かなくとも、それは究極的には些細なことだ、ということなのである」。

文末の同格

To many, Russia's 2022 invasion of Ukraine sounded the death knell for U.S. primacy, a sign that the United States ---.

p.78

 the death knellは慣用表現で確認済み。a sign that ---は、前文を受けた言い換え。新聞記事等でもしばしば使われる表現。「多くの人々にとって、2022年のロシアによるウクライナ侵略は、米国首位の終焉を告げるものだった。つまり、アメリカはもはや修正主義勢力を抑制できず、自らが作り上げた国際秩序を突き付けることはできないと予感させるものだった」と文脈に合わせて動詞的に訳してみるのも良いかもしれない。

China, Iran, and Russia all endorse this view, one in which they, the leading anti-American revisionists, finally have the power to shape the system to their liking.

p.78

 こちらは、「中国、イラン、ロシアは皆この見方を歓迎している。つまり、主要な反アメリカ修正主義国である自らが世界を思い通りに作り上げる力をついに手に入れるという見方である」というふうに、this viewをoneで受けている。SVO, one in which SVOという構造。to one's likingは上記で確認済み。

saveの用法/Henceの用法

World War II left the Soviet Union in a position to dominate Eurasia, and with all the other major powers save the United States battered from World War II, only Washington had the wherewithal to assemble a balancing coalition to contain Moscow. Hence the intense rivalry of the Cold War

p.84

 saveの用法として、レベル1が「〜を救う(from)」や「(お金)を貯める(for / to do)」、「(時間やお金)を節約する」の意味を持つことを知っているとすれば、レベル2は、seve me the troubleのような第四文型「AからBの手間を省く」の意味を知っていることだろう。そして、レベル3は、「〜を除く」という前置詞の意味を知っていることと言えるかもしれない。exceptよりも硬い表現。
 ここは、「アメリカを除くその他全ての主要国が第二次世界大戦により壊滅的な被害を受けており、」と訳せる。with S battered という付帯状況も見逃せない。batterは「〜を打つ、打ち壊す、叩きのめす」などの意味で名詞だと「野球のバッター」である。
 また、Henceの後ろは名詞句だけになっているが、これはS V, hence S.で「SはVだ。したがってSがある/Sということになる」という意味になる用法。辞書には、His grandfather was Greek; hence the surname(彼の祖父はギリシャ人だったので、そのような苗字だ)というような例が出ている。本文は「アメリカだけにロシアを封じ込めるだけのバランスを持つ同盟を組み立てる資金があった。そうして、冷戦という激しい競争が生まれた」ということになる。


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