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相続放棄者の責任(対第三者)※法改正あり(末尾追記)

【問 題】
建物の所有者が死亡し、法定相続人が相続の放棄をしたことによって相続人不在となった後に、建物の倒壊が発生し、近隣住民が損害を被った場合、被害者は、最後に相続の放棄をした者に対し、損害賠償を請求することができるか。

【参考文献】
川口市・空家問題対策プロジェクトチーム(埼玉弁護士会が推薦した弁護士14名)『所有者所在不明・相続人不存在の空家対応マニュアル~財産管理人制度の利用の手引き~』(2017・3)
川口市・所有者不明等の空き家の解消に向けた財産管理人制度活用モデル事業(国土交通省のホームページ)
②秋山一弘(弁護士、元町田市法務担当課長)「最後の相続放棄者は特定空家等の管理責任を負うか」(判例地方自治423-99、2017・9)
田村泰俊(明治学院大学法学部教授、行政法)「空家対策特別措置法と最後の相続放棄者への助言・勧告―民法239条, 940条, 951条以下への公法学か
らのアプローチ―」(明治学院大学法学研究107-43、2019・8)

④帖佐直美(弁護士、流山市政策法務室長)「空き家対策――相続に全員が相続放棄をした場合の対応――」(自治実務セミナー2018年3月号40頁)※③は④に対する反論

【参照条文】
○民法
(相続の放棄をした者による管理)
第940条① 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
② 第645条、第646条、第650条第1項及び第2項並びに第918条第2項及び第3項の規定は、前項の場合について準用する。
○空家等対策の推進に関する特別措置法
(空家等の所有者等の責務)
第3条 空家等の所有者又は管理者(以下「所有者等」という。)は、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努めるものとする。

【学 説 等】
参考文献①は両説(厳密には3説)を挙げる。(同28頁「Q3-1 相続放棄者の責任」)
第一説「相続放棄者は、民法940条により相続財産である空家を管理する
義務を負うが、この義務は後に相続人となる者等に対する義務であり、地域住民などの第三者に対する義務ではない」
第二説「相続放棄者は、民法940条により相続財産である空家を管理する
義務を負い、この義務は地域住民などの第三者に対しても負う」
A 相続放棄者一般が空家の管理義務を負う
B 現実に空家を管理している相続放棄者(のみ)が空家の管理義務を負う

国土交通省住宅局住宅総合整備課及び総務省地域創造グループ地域振興室は、2015(平成27)年12月25日付け事務連絡において、第一説に立つことを明らかにしている(愛知県建設部建築局住宅計画課『空家等対策計画の作成に関するガイドライン』参考6「空家等対策Q&A」参考185頁)。

参考文献②③も第一説。参考文献④は未検討、第二説か?
自治体の空き家対策ホームページで「倒壊等により人的・物的損害が発生した場合には、損害賠償の責任を問われる可能性がある」と述べるものがあり(愛媛県土木部道路都市局建築住宅課『空家等対策の推進に関する特別措置法(H26法律第127号)等の解説について』47頁Q22)、第二説に立つものと思われるが、第一説について検討した結果かどうかは分からない。

【検 討】
民法940条の文言からは、相続人に対する責任と読むのが自然。相続放棄により相続人不存在となれば相続財産は法人となるから、被害を受けた近隣住民が請求する先は相続財産法人となるのではないか。
近隣住民が相続財産管理人の選任を申し立てて、相続財産法人を相手方として請求するのが法の想定する建て付けと思われる。
近隣住民がそのような手立てを講じずに、最後の相続放棄者を探し出して請求するという実務は考えにくい。
第一説に与したい(最後に相続の放棄をした者に対し、損害賠償を請求することはできない。)。

【法改正の状況】※2021.4.29追記 ※2022.12.3追記
民法940条1項は、次のとおり、改正されました(【】内が改正部分です)。
2021年4月28日に公布されました。施行日は2023年4月1日です。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00179.html
「相続の放棄をした者は、その放棄【の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間】、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産【を保存しなければ】ならない。」
https://kanpou.npb.go.jp/old/20211217/20211217g00282/20211217g002820002f.html(民法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令。令和3年12月17日政令第332号)



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