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キャン・アイ・サンキュー・ウィズ・ア・バレット?

 どこまで話したっけか。

 そう、ジジイね。最初は気狂いかと思ったぜ。何せこのご時世でダスターコートとウェスタンハットだぞ? しかもその下は真っ黒のボディスーツ。気狂いと変態以外の選択肢が思いつくか? ア?

 そいつは言ったんだ。カウンターにこう腕を乗せてな。「アレグロはいるか?」俺ぁ言ってやったさ。「酒場は酒を頼むとこだ、ジジイ」そうだよ。俺ンとこの店もアレグロ・ファミリーにケツモチしてもらってンだ。怪しい奴に繋ぐわけねェだろうが。

 けどな、誰にだって犬の糞を踏んづけちまう時はある。

 俺とそのジジイが顔を突き合わせてる時に、スイングドアが軋んだ。俺ぁカウンターにいたから、面倒なことになると思ったさ。だってそうだろ。酒場の中にはアレグロ・ファミリーの聖歌隊、そんでクローム製の教主様がご入店ときたもんだ。店ン中の音がよ、ほんの一瞬だけシーンと静まり返ったんだ。

 そんで気づけば、この有様さ。おいそこ気ぃつけな! 漏電してッからよ!

 ……話を戻すぜ。そう、俺が次に目を開いた時にゃ、店内はブルドーザーが五十台転がってきたみてぇな有様で、生きてるのが不思議なくれェだったんだ。兵隊はみんな折り曲げちゃいけねぇ方向に身体を曲げてるし、あのアレグロの旦那も、上半身が三分の一になってやがった。

 その隣に立ってたんだよ。そいつは。真っ黒ボディースーツのイカれジジイがアレグロ・ファミリーの主戦力を叩き潰したんだ。

 ジジイはアレグロの旦那の口ン中にコインを突っ込んでどこかに消えた。今日起きたことで、俺が覚えてるのはここまでだ。あとはアンタ方が来るまで現場の保存ってやつをやってたンだからな。……ア? そいつは何か言っていたかって?

 ……アァ、確かに、アレグロの旦那にコインを突っ込むときだ。「俺の正義を喰らえ」だか、そんなことを言ってたぜ。もういいかい? 謝礼はそこに……オイちょっと待て、話しがちが−−

【続く】


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