鈍く、刺さる─ハケンアニメのちから─

   ハケンアニメが日刊スポーツ映画大賞で作品賞、柄本佑さんが助演男優賞を受賞。一年の締めくくりに素晴らしいニュースを聞けたので、自分なりにハケンアニメの魅力を語りたくなりました。


   原作は辻村深月さんの小説。アニメ制作を取り巻く人々の闘いと矜持を描いたお仕事小説の傑作。もともと作者のファンでもあったので、小説も読みとても胸を打たれたのを記憶していました。


   なので映画化制作のニュースを聞いた時はすごく嬉しくて、キャストも信頼できる方々ばかりだったので期待しかしておらず。けれど映画公開時すぐに見に行くことはできず、あっという間に数日経過。このまま映画館に行けなくてもいずれ配信されるだろうし、その時を待てば良いかなと諦めそうになっていた頃。ハケンアニメがすごく面白い、絶対に映画館で見た方がいいというツイートをよく見かけるようになり、早く見に行かなければと気持ちが高まりました(他人の感想で見に行く気になるのは自分の主軸がないようでちょっと情けないんですが)


   そこで慌てて最寄りの映画館で上映スケジュールを調べて滑り込みました。この時には小さいスクリーンで一日一回の上映に縮小されてました。それでも期待を込めながら鑑賞すると、終わった時には目を真っ赤にさせて劇場を後にする自分がいました。


   ハケンアニメ良い部分はたくさんあって書ききれないほどなんですが、私がいちばん刺さったのはこの映画に出てくる人たちは、なにかしら物語に救われている人たちという点です。主人公の斎藤監督もライバルである王子監督もプロデューサーである有科さんも(行城さんもわかりにくいけど多分)出てくる人たちは、大なり小なり物語に救われた経験があって、そして今度は誰かにそれを届けようとしている。そのことが同じように物語に救われ続けてきた自分と重なってどうしようもなく泣けてしまいました。

   

   これはハケンアニメの数ある名シーンの中でも特にキャッチーで多くの人に刺さった箇所だと思います。王子監督が自分の作品と見る人への思いを熱く語る場面。この映像にある台詞が私は特に大好きです。


「この現実を生き抜くための力の一部として、俺の作品を必要としてくれるんだったら、俺はその人のことが兄弟みたいに愛おしい」



   全ての人がそうとは言わないけど、生きていくためには物語が必要な人は一定数いて、私もその中の一人です。もちろん現実が物語のように綺麗にうまく運ぶことなんてあり得ないことはわかってる。絵空事だと笑われてしまえば、それまでだとしか言い返せないです。



   でも王子監督がいうようにあくまで現実を生き抜くための力の一部としてなら、物語の有効性は確実にある気がします。映画でもドラマでも小説でも漫画でも演劇でもなんでも良い。そこに登場する誰かの生き様や悩みに共感したら勇気づけられたり泣いたり笑ったりして、そうすることで自分の心がほんの少し上向きになったり、ちょっとだけ日常が生きやすくなったり、近くにいる人を愛おしく思えるようになったり。そんなささやかだけどたしかに人生を豊かにしてくれる力が物語には備わっている。ハケンアニメを見ていると、素直にそう信じられます。だって、物語の裏側には、それを届けようとしてくれる人の想いが存在してるから。物語の持つ力を心から信頼させてくれる、それが私にとってのハケンアニメの魅力でありちからです。



   興行的には苦しい状況が続いたように感じますが、口コミで作品の魅力が徐々に伝わり始め、各地でロングランや公開が決まりイベントも行われていたりして、ハケンアニメはたくさんの人に伝わったように思えます。そして映画賞などに名を連ねることもよく見かけるようになり、ファンの一人としてとても嬉しく感じています。


   映画の終盤で斎藤監督は夜明けの屋上で自分のつくったアニメが誰かに刺されと祈るように呼びかけるシーン。あの言葉通りに多くの人にハケンアニメが刺さっている。それは大ヒットとか華々しく鋭く世間に刺さるようなものではなかったかもしれない。けれど見た人ひとりひとりの心には刺さって、それが少しずつ世間に浸透していった。最初は鈍い刺さりだったかもしれない。けれどそのぶん深く、確実に刺さっていった。

   そんな作品のファンでいることができて幸せな2022年でした。これからも繰り返し映画を観て、物語の持つ力に助けられて、来年以降も自分の生活を大切に生きてこうと思います。


  作品の魅力を語るというよりは個人的な鑑賞記録&自分語りになってしまいましたが、それでも最後まで目を通してくださりありがとうございました!

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