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「共通テスト記述問題導入延期に伴う声明」を発表します

 萩生田光一文部科学大臣による「大学入学共通テスト」記述問題導入中止の記者会見(2019年12月17日)を受け、「共通テスト「国語」における記述問題の導入中止を求める緊急声明」発起人会としての声明をとりまとめました。
 これからも、この問題に関心を持ってくださった多くの方々と力を合わせ、より公平・公正な入学試験のあり方について、「国語」教育の理念やあるべき姿をめぐって、議論と取り組みを進めてまいります。
 本声明に関する問い合わせは、下記の発起人会メールアドレスまでお寄せください。

 kokugostop2019[*]protonmail.com →[*]を@に変えてください 
 

共通テスト記述問題導入延期に伴う声明


 12 月 6 日、私たちは喫緊の要求として「共通テスト「国語」における記述問題の導入中止を求める緊急声明」を出しました。この声明では、新テストにおける「国語」の記述問題の致命的な欠陥として、

 1 採点の公正さを担保できない
 2 採点体制が信頼できない
 3 自己採点に混乱が生じる
 4 記述問題の悪しきモデルとなる


 という四点をあげ、これらを中止要求の理由としました。この声明には、国語教育に深い関心と憂慮を抱く方々2139 名からの賛同を得、現場からの切実な声を多数頂戴しました。

 12 月 17 日、ようやく萩生田光一文部科学省大臣はこの記述問題の導入を見送ることを正式に発表しました。延期見送りの理由を見るかぎり、先に指摘した欠陥が事実そのとおりだったことが改めて明らかになりました。大臣からは、今後について「期限を区切った延期ではない。まっさらな状態から対応したい」との発言がありましたが、とはいえ見送りであって中止と決定されたわけではありません。また、こうした無理のある政策決定の経緯は必ずしも明らかにされておらず、受験生に不安を与えて高校の教育現場を著しく混乱させた原因も検証されないままです。かかる責任の所在が曖昧な状況で、現文科相の下に設置された「検討会議」での議論が始まるとなれば、この体制が何らかの形で復活してしまう懸念を払拭できません。

 私たちが求めるのは、公正・公平に学力を測ることのできる質の高い入試です。よって、この出題形式に制度的な破綻が認められた以上、多少の変更によってもその復活はあり得ないと考えます。今後、もし制度変更をするのであれば、これまでのセンター試験をどのように評価するかにまで遡って、専門家によって一から見直しがなされるべきです。

 さらに、共通テスト「国語」には、記述式部分を外すだけでは解決しない、より本質的な問題が残されています。
 問題例や試行調査(プレテスト)には、従来のセンター試験にはなかった出題傾向が頻出していました。「言語活動の場」を仮想した話題設定・複数資料の提示・会話文の挿入などです(例えば2017年実施のプレテストでは、記述問題に部活動規約・生徒達と教員の会話文・図表も含めた校内新聞など架空の資料が多数並びました)。それ以前の問題例にも同種の傾向が見られ、これらは記述式・マークシート式の区別なく繰り返し出題されています。
 
 複数の文章や資料を比較する力は重要ですが、それらを短時間で行われる入試の全問において同じ形式を取り、受験生に読ませることには大きな無理があります。しかも、実際には複数資料にわたって解答を要する小問はごく一部でしかなく、比較対照という本来の趣旨は見かけだけのものになっていました。また、会話形式の文章や教室で出される課題になぞらえた設定なども、出題上、特に必要とは思われません。むしろこれらの要素は、問題内容を冗長にし、無意味な負荷を受験生にかけるばかりです。
 架空の状況設定や無駄な要素の付加と引き換えに奪われてしまったのは、読むに値するまとまった文章の読解です。かくして共通テストの問題は、国語にとって最も基本的で重要な、「読む」力を測ることをなおざりにし、内容の薄く断片的な資料を慌ただしくつまみ食いする方向に偏ってしまい、従来のセンター試験に比して問題の質が著しく劣化したと言わざるを得ません。

 そこで次の三点について、文部科学大臣より、国語教育関係者の大多数が納得できる明快な説明がなされることを要望します。

・すでに多くの大学で記述問題が出題されている状況で、なお共通テストで記述式導入が進められた理由とその決定過程

・いくつもの欠陥が専門家によって早くから指摘されてきたにもかかわらず、導入を強行しようとしたために、受験生の不安を募らせ、教育現場を混乱させた責任の所在

・共通テスト「国語」全体にわたる出題内容と形式に関する大幅な変更の目的、またその変更が学力を測る上でなぜ適切であるのかの理由

 これらの点が明らかにされ、納得がいく説明がない限り、私たちは引き続き「国語」に関して、今回の入試改革の中止と抜本的な再検討を訴えていきます。

「共通テスト「国語」における記述問題の導入中止を求める緊急声明」発起人
                   木村小夜(福井県立大学教授)
                   紅野謙介(日本大学教授)
                   五味渕典嗣(早稲田大学教授)
                   島村輝(フェリス女学院大学教授)
                   竹内栄美子(明治大学教授)
                              *五十音順


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