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次年度大学入学共通テスト「国語」の問題作成方針に関する見解


 2020年2月6日、先日(1月29日)の文科省発表「令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱の見直し」を受けて、本発起人会としての「見解」を文科大臣宛に提出いたしました。その後、本会から島村が記者会見に参加、「見解」を発表いたしました。

 1月に発足した「大学入試のあり方をめぐる検討会議」での徹底した議論を俟たずに「問題作成の基本的な考え方」を固定化させてしまうことには、強い違和感を覚えます。
 一連の議論で問われたことは、いたずらに理念ばかりが先行し、現実性を欠いたプランを強行してきた「本末転倒」の政策決定プロセスそれ自体に他なりません。新学習指導要領を先取るような出題傾向をあらため、いったん2017年以前の試験に立ち戻って考え直すことを改めて強く要望します。

 以下、「見解」の全文です。

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2020 年2 月6日
文部科学大臣 萩生田光一殿

  次年度大学入学共通テスト「国語」の問題作成方針に関する見解

 1月29日に文科省より「令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱の見直しについて」が発表されました。それによれば「国語」について記述式問題の出題が削られ、試験時間も100分から80分に改められました。これは旧来のセンター試験とほぼ同じ形式です。少なくとも、これは当然の判断であり、計画されていた大学入学共通テストの形式に固執しなかったことは高く評価します。

 しかし、内容については依然として疑問が残りました。同日、大学入試センターより「令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト問題作成方針」が発表され、そこには「問題作成の基本的な考え方」として、「「どのように学ぶか」を踏まえた問題の場面設定」が要求されています。より具体的には「高等学校における「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善のメッセージ性も考慮し,授業において生徒が学習する場面や,社会生活や 日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面,資料やデータ等を基に考察する場面など,学習の過程を意識した問題の場面設定を重視する」ことが謳われていました。

 さらに別添資料「出題教科・科目の問題作成の方針」では、「国語」について、「言語を手掛かりとしながら,文章から得られた情報を多面的・多角的な視点から解釈したり,目的や場面等に応じて文章を書いたりする力などを求める。近代以降の文章(論理的な文章,文学的な文章,実用的な文章),古典(古文,漢文)といった題材を対象とし,言語活動の過程を重視する。問題の作成に当たっては,大問ごとに一つの題材で問題を作成するだけでなく,異なる種類や分野の文章などを組み合わせた,複数の題材による問題を含めて検討する」と書かれています。

 少なくとも、こうした発表をみるかぎりでは、「学習の過程を意識した問題の場面設定」という名目のもと、親子や教師・生徒の会話の場面や異なる種類や分野からの複数の題材による出題が依然として続くようです。こうした傾向は、明らかに2018年度より導入され、それまでのセンター試験に新たに付加された特色でした。これは大学入学共通テストを先取りした出題であり、実際に共通テストのサンプル問題や試行調査問題でとりわけ強調されていました。つまり、形式においてはセンター試験を継承することになったにもかかわらず、あえて大学入学共通テストと名乗り続ける根拠の1つになっていると判断されます。
 しかし、長年、センター試験の「国語」の問題をチェックし、「国語」の入学試験はどうあるべきかを考えてきた私たちからすれば、こうした出題傾向こそが試験問題の内容的な劣化の原因となり、受験生の思考力や判断力を真に問うレベルに到達するのを妨げていると言わざるをえません。

 「学習の過程を意識した問題の場面設定」という課題は、あらゆる教科に退屈な会話場面を用意させ、問題を解くことに専念するよりも、受験生に煩雑さや冗長さに耐えることを強いる結果となっています。また「複数の題材による問題」は、1つ1つの素材文を読み通すことよりも、結果的に要領の良い情報処理力のみを求めることになっています。さらに、「実用的な文章」を題材とすることが大学入試の国語としてそもそも適切かどうかという点にも疑問があります。問題作成にあたる委員たちもその教科に必要な知識や能力を問う試験問題の作成に専念できず、与えられた課題に応えることに余分な力を割かれているように見受けます。少なくとも作成の実務にあたっている人たちを、無理な条件設定や適切ではない課題から解放すべきです。
 これは、理念ばかりを先行させ、しかも、その目的のために用意されたはずの手段があたかも目的そのもののようになっている事態だと言えます。入学者選抜という重要な局面で、この本末転倒は避けなければなりません。

 私たちは、昨年の12月17日、記述式問題の導入が見送られたときにも、それ以外の疑問点として「問題内容を冗長にし、無意味な負荷を受験生にかける」出題傾向に危惧を表明しました。この1月に「大学入試のあり方をめぐる検討会議」が設置され、検討がスタートした以上、その議論の結果を待つべきです。この間、文科省や大学入試センターの強引な「改革」が多くの反発を招いたことは日本国民の知るところとなっています。同じ轍を踏むべきではありません。試験形式だけでなく、内容においても、2017年以前のセンター試験に準拠した出題に則ることを強く要望いたします。

共通テスト「国語」における記述問題の導入中止を求める緊急声明・発起人
               木村小夜(福井県立大学教授)
               紅野謙介(日本大学教授)
               五味渕典嗣(早稲田大学教授)
               島村輝(フェリス女学院大学教授)
               竹内栄美子(明治大学教授)
                           *五十音順


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