価値観の違い ―外科医との会話―

(読了目安3分)

たとえばいま、みなさんの体の中に悪性の腫瘍ができたとします。
それはまだ初期のもので、すぐに摘出してしまえば、ほぼ100%助かると予想されました。
しかし、放置すれば3年後の生存率は10%だとします。


つまり、「いま手術すれば生き残れるが、手術しなければ死んでしまう可能性が高い」ということです。


この状態で、もし全ての外科医が「失敗が怖い・失敗したら訴訟に巻き込まれる・オレは嫌だね」と言い、ことごとくオペをしてくれなかったら・・・


患者は自分でお腹を切るわけにはいきませんから、誰かに手術してもらいたいと願うはずです。


しかし、外科医が「怖いからイヤです」と言って手術をしてくれなかったら、命はありません。


実際、ドクターは外科医をやらなくてもいいんです。
医師免許をとっても、精神科医や内科医として働いてもよく、たった一回のミスで医師生命を絶たれるような外科医になる必要はありません。



しかし、外科医がいないと、国民の平均寿命が短くなるのは明白です。


マスターは胆石が胆管に詰まるときの発作で苦しみ、胆のうを摘出したことがあります。
手術が終わってしばらくたったとき、マスターのお腹を切ったKドクターに質問したんです。


マスター:「手術ありがとうございました。ところで、医者って自分がやりたい診療科目を選べるんですよね?」


Kドクター:「はい、今は選べますよ」


マスター:「Kさんは、好きで外科医をやってるんですか?」


Kドクター:「そうですね、好きなんでしょうね」


マスター:「ミスをしてトラウマになったこととかないんですか?」


Kドクター:「ないですよ。僕たちの世代はブラックジャックというマンガの影響を受けている人が多いですよ」


・・・こんな会話をしながら、マスターは思いました。


「Kドクターは、好きで人の身体を切ったり縫ったりしているんだなあ」って。
嫌いなのにムリしていたら、ストレスが溜まってミスも増えるでしょうから、「好きでやっている」ということに安心しました。



みなさんは、人の身体を切ることに抵抗はありませんか?
マスターは、「ミスをしても処罰されない」という保証があるとしても、人のお腹を切ったり縫ったりする精神力はありません。
マスターのお腹を切ったKドクターの思考(価値観)と、マスターの思考は、全く違うわけです。


もしKドクターがマスターと同じ価値観だったら、「お腹切るの嫌だよね、しょうがないよね、次に痛くなったらそのとき考えようね」などと言いながら、結局マスターは胆石発作に苦しみ続け、ほかの病気を併発し、生涯苦しみ続けたかもしれません。
Kドクターのように、人のお腹を切ることが好きな人がいてくれたおかげで、マスターはお腹を切っても普段の生活に戻ることができたんです。


「価値観の違いに感謝する」というのは、まさにそんなことだと思います。


みなさんも、価値観の違いで悩むことはあると思いますし、「あいつの行動はどう考えたってありえない」と感じることもあるかもしれません。
しかし、自分とは違う人がいるからこそ、自分にはできない手術をしてくれたり、ありえない発明や発見があったりして、そういう事実があなたを救うこともありえるということを忘れないでください。


「人と人は、価値観の違いがあるからこそ調和がとれている」と思うと、価値観の違いに感謝できます。
世の中には「自分に都合のいい価値観の違い」と、「自分に都合の悪い価値観の違い」があると思いますが、自分に都合のいい価値観の違いだけ認めるというのは、それこそ都合のいい話なのかもしれません。

・・・

投稿タイトル一覧は以下です。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?