針穴にニンジンを通す ―糸ニンジンー

(読了目安5分)

マスターの店がある地域は観光地のため、雨天の時は来客数が減ります。
ペンキ塗りや日曜大工の仕事もできない雨の日、マスターは、あえてじっくりと包丁と向き合うことがあります。


今回は、針穴にニンジンを通す作業を例に、「細心の愛をそそぐ努力をすれば、普段からあたりまえのように愛をそそげます」という話をしたいと思います。



◎糸ニンジン


みなさんは「針しょうが」って知っていますよね?
針のように細く切ったしょうがのことです。


しかし今回のタイトルは、「糸ニンジン」です。
文字通り、針穴にニンジンを通してみたいと思います。
当然、針より細く切らないと、針穴は通りませんよね・・・


ということで、「糸ニンジン」を作ってみましょう。


糸ニンジンを作ることだけを目的にすると「そんなことできてどうなるの?意味ないじゃん、食べたらみんな同じよ」と思う人もいるかもしれません。


マスターもそれだけが目的なら「糸ニンジン?そんなの作っても意味ないじゃん」なんて思います。


・・・しかし・・・


マスターの本当の目的は、糸ニンジンを作ることではないんです。
糸ニンジンを作るのは、自分の身体のコンディションのチェック、包丁のコンディションのチェック、技術のスキルアップ、またはスキル維持のためです。


糸ニンジンを作る作業は、集中力が必要な細かい作業ですから、練習できるときにしっかり練習しておくと、日常の包丁の動作に余裕を持たせることができます。
同じ作業なら、より速くでき、同じ時間をかけるなら、より丁寧な仕事ができるということになり、結局のところ「お客様に対する愛」と言えます。


ところで、実際に千切りしたニンジンを針の穴に通せるかどうか、みなさんもちょっと考えてみてください。


「できるわけない」と思ったらできません。
なぜかというと、挑戦しようとしないからです。
なにごとも、どうやったらできるか本気で考えて実行した人が、努力を重ね、工夫を重ね、ついにできるようになるんです。


さて、それでは実際にやってみましょうか。
よかったらみなさんも挑戦してみてください。
用意するのは、「よく研いだ包丁(マスターの包丁は片刃のシェフナイフです)「硬めのニンジン」「針」、そして「やる気」です。



手持ちの針から一番細いものを一本取り出します。
この針にニンジンの千切りを通しましょう。

一番細い針を取り出しました





針をよく見てモチベーションを上げます。

拡大



よく研いだ包丁でできるだけ薄くニンジンを切ります。
一番薄いところで0.2ミリぐらいです。

透けて見えます



まな板の上はこんな感じです。






できるだけ細く千切りをして、さらにその中から細いニンジンを選びます。

平均の太さ0.5ミリ以下の千切り




すると・・・



ほら、針の穴を通ります。





一番細い針の穴に通っています。

一番細い針穴にニンジンが通りました


やってみると、不可能なことではないとわかると思います。
針穴は楕円なので、断面が0.5ミリ四方の千切りでは穴を通りませんが、一方が0.3ミリなら、もう一方が0.6ミリでも入ります。
千切りの中から細いのを選べば、通すことができます。


細い針に通すのは「高度な技術」のうちに入りますが、たとえ高度なことでも、多くの人は、練習すればできるようになります。


そして、人生も全く同じなんです。
「愛」とはなにか判断し、さらにそれを「そそぎ続ける」ことは、たしかに高度なことかもしれません。
しかし、「私にはできない、そんなこと面倒」と思って挑戦しなかったら、本当にできないままです。
どうやったら愛をそそぎ続けられるか、本気で考え、工夫し、挑戦してみてください。
そそいだものが愛なら、必ず返ってきます。


以前マスターは、料理のプロであろうお客様から、食後の会計の時「ここのマスターはどこかで修行をしたんですか?仕事がとても丁寧なので」と言われたことがあります。
もちろん嬉しかったんですが、これが、「そそいだ愛が返ってきた瞬間」です。
それまでの練習の成果がお客様に伝わり、「褒め言葉」という愛になって返ってきたわけです。
この喜びは、そそいだ愛があればこそ味わえるものです。
また、お客様が「おいしかったです!」と言ってくれることもありますが、これがそそいだ愛が返ってきた一番の例かもしれません。


包丁でなにかを切る練習をするときは、糸ニンジンのように、できるだけ細く切る練習の他に、「できるだけ薄く」「できるだけ速く」などの練習もします。
そうすることで普段の作業に「余裕」が生まれ、忙しいときの作業でも、ゆとりをもって仕事ができるわけです。


◎まとめ


できるだけ細く切る練習をしておけば、普段の仕事にゆとりが出ます。
そのゆとりが、ケガがなく、精度が高く、安定した仕事につながります。


同じように、できるだけ細心の愛をそそぐ努力をしておけば、普段の生活で、愛をそそぐことにゆとりが出ます。
なにか起こってから考えるのではなく、普段から「これは愛なの?」と考え、愛する努力を続けてください。
そのゆとりが、的確に愛をそそぐことにつながり、トラブルのない安定した人間関係を生み出します。


ちなみに、「糸ニンジン」をお客様に出すことはありません。
食感がほとんどなく、色も薄くなってしまい、存在感がないからです。
「糸ニンジン」は、マスターが密かに楽しむ「愛する努力」のひとつです。



今回は以上です。
次回は「料理教室の本質」というタイトルで書く予定です。
調理師専門学校や料理教室に行こうか迷っている人だけでなく、なにか資格を取ろうとしている人にも参考になると思います。

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