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【「はじめに」を公開】新刊『HSP研究への招待:発達、性格、臨床心理学の領域から』(花伝社より2024年2月20日刊行)

2024年2月20日刊行『HSP研究への招待:発達、性格、臨床心理学の領域から』(花伝社)の「はじめに」を公開します。本書の目次と執筆者は以下のとおりです。


目次

はじめに…… 5

序章 環境感受性を研究する…… 7
 飯村周平(創価大学)

第1部 発達心理学からみた環境感受性の研究

第1章 人生早期の経験に対する差次感受性とその発達的帰結…… 32
 飯村周平(創価大学)
第2章 発達における環境感受性の役割…… 45
 岐部智恵子(お茶の水女子大学)
第3章 良くも悪くも学校環境から影響を受けやすい子どもたち…… 64
 飯村周平(創価大学)

第2部 パーソナリティ心理学からみた環境感受性の研究

第4章 環境感受性とパーソナリティ特性…… 78
 小塩真司(早稲田大学)
第5章 環境感受性と心身の健康…… 93
 矢野康介(国立青少年教育振興機構)
第6章 感覚処理感受性と年齢…… 117
 上野雄己(東京大学)

第3部 臨床心理学からみた環境感受性の研究

第7章 感受性に対する心理支援:回復を支える視点…… 140
 平野真理(お茶の水女子大学)
第8章 感覚処理感受性と共感…… 152
 串崎真志(関西大学)
第9章 HSP の基礎・臨床アセスメント…… 169
 髙橋亜希(中京大学)

おわりに…… 186


はじめに

2019年以降、日本では「ポップ化」された形でHSP(Highly Sensitive Person)が広く人々に知られるようになり、「HSPブーム」とも言える様相を呈している――マスメディアによるHSP特集。量産される自己啓発書やネット記事。それらの情報をもとに自己理解を試みる人々。心理学の専門家からみれば、「HSPブーム」のもとで発信される情報は科学的根拠がないもの、誤解や偏見、デマを含むものなど、玉石混交である(石がかなり多い)。

HSPは心理学をルーツとする言葉である。環境感受性あるいは感覚処理感受性という心理的特性が相対的に高い人に対して、必ずではないが、便宜上このラベルが使用される。1990年代から研究の俎上にのり、心理学の諸領域で30年以上にわたり知見を蓄積してきた。残念ながら日本で広まったHSPの考え方は、これまで得られた研究知見の範囲を超えて、あらゆる「生きづらさ」の原因を説明する言葉となってしまったように見える。

本書はHSPの学術書、より正確に言えば、環境感受性という構成概念を解説した初めての学術書である。2010年以降、日本でもHSPにかかわる心理学的研究が始まり、それから10年以上の歳月が経った。その最中で起きた社会的な「HSPブーム」も憂慮して、環境感受性という概念から、今ここで改めてHSPという言葉を整理したい。そうした思いのもと、本書は企画された。

本書は、序章と全3部で構成される。序章では、環境感受性がどのような概念であるのか、その成り立ちや理論、日本を含むこれまでの研究動向を解説した。第1部では発達心理学者の視点から、第2部ではパーソナリティ心理学者の視点から、第3部では臨床心理学者の視点から、環境感受性の個人差ないしはHSPについて整理した。それぞれの分野でこの概念がどのように扱われているのか、また、どのような現象を説明したり、どのような問題を解決したりすることが期待されているのか、本書を通じてその動向が理解できるだろう。

本書の執筆者陣は、この分野で一度はHSP関連の論文を執筆した経験のある8名の心理学者である。原稿を取りまとめる際、各章を担当された執筆者の先生方の原稿をできるだけ尊重し、内容については大きな修正を求めなかった。そのため、HSPという言葉をどのように解釈するか、良くも悪くも執筆者ごとの視点の違いが垣間見られる内容にもなっている。

本書は学術書であるため、すでに数多く出版されているHSP関連の自己啓発書と比べれば、専門性が高く内容は難しいだろう。とはいえ、だからこそ本書は次のような読者にとってとりわけ役に立つと考えている。

第一に、卒業論文や修士論文でHSPないしは環境感受性をテーマに研究したい学生たちである。その指導教員にもおすすめしたい。第二に、HSPブームによって今まさに影響を受けている心理臨床現場や教育現場の方々である。第三に、HSPに関する情報を発信する方々である。影響力の高いメディア関係者はもちろん、HSPに関して発信機会の多い精神科医や心理士などにとって、信頼できる情報源になることを期待している。本書はどの章から読み始めていただいても問題ないが、環境感受性の基礎知識がない読者には、まずは序章で理解を深めてから各章に進むことをおすすめしたい。序章では、現在までに蓄積された知見に基づいて、最新の研究動向をまとめている。

読者の方々にとって、本書がHSPや環境感受性を理解するための一助となれば、著者一同これ以上の喜びはない。

著者を代表して
編集者 飯村周平

「とても繊細な人」の、より適切な理解のために
環境感受性が相対的に高い人=HSP(Highly Sensitive Person)。心理学者8名が、発達心理学/パーソナリティ心理学/臨床心理学の各領域から、その最新の研究動向を包括的にまとめ、解説を試みる。HSP研究の現在地がわかる、関係者必読の一冊。
心理学者はHSPをこう捉える──!
30年の心理学研究を総括した、本邦初となるHSPの学術研究書

花伝社ホームページより


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