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パーツワークの前史 周辺概念について調べてみた (トラウマ治療)

パーツワークについて少し調べていた。

パーツワーク「的」なものはいつ頃からあるのだろう?が今回のテーマ。

めっちゃ殴り書きします。(マニア向けの記事です)


対話的自己 / ハーマンス

随分前にTwitter(意地でもXと呼ばない)で、誰かが触れていたのを思い出して、そういえばこれってパーツワークの前身なのでは?と思ったのだった。

原著は1993年。

本書自体はもはや値が高騰して手が届かないが(4万てなんとかして)、内容は興味深い。

翻訳者の溝上先生がオープンアクセスの論文で概説を紹介されている。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsyapp/16/0/16_16/_pdf


確かに、今のようにパーツワーク、という言葉が出始める前は、
「サブパーソナリティ」と心理臨床の界隈では呼ばれていた気がする。

ただ、どこから来ているものなのか、それが何を意味するのかまではわからなかった。

内的家族システム療法 / リチャード・シュワルツ博士

シュワルツ博士の内的家族システム療法は、
Wikipediaによると「1980年代から発展〜」と書かれているが、文献上はっきりと現れるのは1998年のように見える。

・Schwartz, Richard C. (1998). “Internal family systems family therapy”. In Dattilio, Frank M.; Goldfried, Marvin R.. Case studies in couple and family therapy: systemic and cognitive perspectives. The Guilford family therapy series. New York: Guilford Press. pp. 331–352. ISBN 1572302976. OCLC 37721397

「悪い私はいない」の中で述べられているようなクライエントとの発見がなされたのが、1980年ごろ、と著書には書かれているので、おそらくそのことなのだろう。

拙著による紹介記事はこちら


自我状態療法 / Watkins

今日、もうひとつ有名なパーツワークとして知られている
自我状態療法はどうだろう?

杉山登志郎先生の論文
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjh/73/1/73_62/_pdf)
を見てみると、

自我状態療法は Watkins ら (3) が自我状態モデルを, 臨床催眠の中に取り入れたのがはじまりである。催眠下で解離障壁が溶け、パーツに出会うことが出来る。だがそれだけでは治療にならない。パーツの抱えるトラウマ 治療をおこなって、はじめて治療が成立をする。

とある。

引用元は
・Watkins JG, Watkins HH. Ego states-theory and therapy. New York: W W Norton, 1997

なので自我状態療法はおおよそ1997年前後と思われる。

自我状態療法と内的家族システム療法は、文献上はだいたい同じくらいのタイミング。

内的家族システムの方が、少し先駆ける?くらい。

催眠療法

ちなみに催眠療法自体はメスメルの18世紀まで遡る。
(あるいシャルコーの19世紀)

しかし催眠療法は変性意識を用いたイメージワークなので、パーツワークではない。

パーツ的な発想で催眠が用いられたのは、なんといってもピエール・ジャネの存在によるところが大きい。

ジャネの催眠治療

ピエール・ジャネは、19世紀のフロイトと同時代を生きた、精神科医である。

ヒステリーという当時の流行した病を、解離の視点から論じ続けた。ヒステリーの原因論を外傷とする考えを退けて「性的要因」と考えたフロイトとは見解が異なる。

ジャネの先見性は、患者の問題を外傷(トラウマ)を背景とした、
Ep  (トラウマ感情を担当するパート)
Anp(日常を送るパート)
というパーソナリティの中のパーツ的な分割についてすでに指摘している点にある。
先見の名にもほどがある。

催眠を通しての解離性障害の治療論として残しているので、そうするとやはりパーツ的発想の源流はジャネ?となる。

「構造的解離」としてジャネの仕事が、トラウマセラピスト達に再発掘されるきっかけになったのは、本書と思われる。


また、パーツワークではないが解離の視点から、パトナムは脳内の神経状態による「水密区画化」「状態依存的記憶」として、解離について詳細に検討している。翻訳は2001年。

厚いがいい本。

ゲシュタルトセラピー / パールズ

もうひとつ興味深いのはゲシュタルトセラピー。

精神分析医のフレデリック・パールズが考案したのが1950年代だという。ジャネの次に早い。

代表的に知られるエンプティ・チェア技法(空の椅子技法)は、今日の視点からみれば、一種のパーツワークといってもいいだろう。

エンプティチェア(空の椅子)技法

興味深いことに、内的家族のシュワルツ博士はパーツワークを試みる過程でエンプティチェアをやっていたそうなのだが、クライエントから

「わざわざ椅子を移動しなくても、頭の中でできます」

との言を受けて、椅子に座ってパーツをスイッチするのをやめて、イメージ内のやり方に移行している。

私はゲシュタルトセラピーについては詳しく読めていないので、勝手な印象になるが、どちらかというとトランスパーソナル心理学的な発想を根拠として据えて考えている様子。

内的家族システム療法も、どちらかというとスピリチュアルな要素がたまに見え隠れするが…。

というよりおそらく、臨床的にみられるパーツという現象を考慮すると、私たちの自我や自己論のあり方をどう考えたらいいのか?という収束のさせ方は、整合性がむずかしいというか、今のところそうした超越論的にふわっとせざるを得ないのだろうなと思う。

「悪い私はいない」のシュワルツ博士はそこのところ、パーツワークを長年続けての見解も書かれているので、非常に刺激的ではある。

弁証法的行動療法

これを入れるのを忘れていた。

弁証法的行動療法は、認知行動療法から派生した第3世代の心理療法。
パーソナリティ障害の治療法として、生まれた背景があり、パーツ的な要素が入っている。

詳しくはないので、省略。

その他

・インナーチャイルド
・アダルトチルドレン

はどうなる?

インナーチャイルドは源流は交流分析からきているが、もしかしたら分類上はパーツワークかもしれない。(ただやっぱりスピリチュアル感が漂う)

賛否は両方ある。

アダルトチルドレンはベトナム戦争後の、アルコール依存症に陥った帰還兵による家庭内DVに遭った子供たちのことを指すための用語なので、治療論とは別。なので、一応除外。

ここらへんまで含みこむとそろそろ収集がつかない。

各古典的心理療法からの変遷

似たような概念が多すぎて、ちょっと書いていて自分でも混乱するのだが、
年代を経るにつれて、代表的な各療法から、パーツ的な発想は出てきていた?と考えるといいのだろうか。以下年代古い順に並べてみた。

・催眠療法 →自我状態療法
・精神分析(交流分析) →インナーチャイルド、ゲシュタルトセラピー
・家族療法 →内的家族システム療法
・認知行動療法 →弁証方的行動療法
・社会学 →対話的自己
・シャーマニズム →USPT(今回は未紹介)

時代に沿って、解離に対する理解が深まっていったのかもしれない。

自分がどういう系譜の中で仕事をしているのかを考えることは大事かな、と思う。


ともあれ、人のこころは、奥深く、奥深すぎて、簡単に知ったかぶりできない領域であることだけは確か。

(この文章にこれ以上のオチはない。)

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