お試し体験(サービスの"お試し")

[はじめに] [目次]

なにも「試」という字がついていないと”お試し”ではないということではない。これから述べていくけれど、手を変え品を変え、暮らしの中には様々なかたちで隠れた"お試し"の機会や手法は存在している。

お試し体験

その代表例が、たとえば「体験レッスン」や「一日体験」といった「体験」という”お試し”だ。決まった用語があるものでもないので、似たような言葉がたくさんある。

例:一日体験、1dayレッスン、1日体験コース、"お試し"プラン、トライアル、無料体験、ワンコイン体験、"お試し"キャンペーン、"お試し"プログラム、"お試し"サービス、初回、1か月、ワークショップ、体験講座、体験教室

多いのは体験〇〇とか、お試し〇〇とかで、〇〇のところに対象の用語がつく。〇〇が体験の先にくることもある。習い事なら体験レッスンとか体験教室、スキューバダイビングなら体験ダイビング、エステならエステ体験といった感じだ。体験の替わりに「お試し」がつくことも多い。「トライアル」のこともある。結局、”試〇”ではある。1日体験、1か月お試し会員などとお試しの期間が頭に付くこともある。

お試しがついていない名称も多いけれど、付けたほうがしっくりくるので、ここでは「お試し体験」としようと思う。それに「体験」だけだと、お試しではない体験サービスもあるからだ。これは後で述べたいと思っている。畏まって言うならば「試行」だと思う。

"お試し"体験は、サービス分野に多い。習い事、レジャー、マッサージ、エステ、家事代行、クリーニング、結婚相談所など、サービス業の列挙には枚挙にいとまがない。サービス業は多岐にわたるから、お試し体験の様態も多岐にわたるし、”体験〇〇”とつくものも幅が広い。

一方、モノが対象の場合は、試着、試食、試乗、試供品などの様に、個別の”試〇”のことの方が多い。ただし、体験が付くこともある。きものの試着であれば、きもの体験と呼ぶこともあるし、車だと「試乗体験」と二重に”お試し”であることを強調するものも見受けられる。試住の宿泊体験も、お試し体験でもある。

実際のところ、様々な試〇のほとんどは、お試し体験といっても過言ではない。広義の”お試し”体験だ。言葉の使い方にルールがあるわけではないのだ。今のところ、なんとなくでだ。

「体験レッスン」は習い事やスクールを実際にやってみるチャンスだ。「体験エステ」なら、施術がどんなものか一度やってもらえる機会だ。本来のサービスを知り、確かめてもらう場として、サービスの提供者側から設けられている。

体験は文字取り、身体で経験するものなので、体感で知り、理解し、評価することに重きが置かれる。その体感には、サービスの直接の対象だけではなくて、場の空間やコミュニティ、提供者とのコミュニケーションなど触れるものすべてに及ぶ。そもそも、モノの試〇も体験や体感が前提でもあるが、サービスには形がない分、なおさら体験と体感が重要だ。

お試し体験は、試着や試食以上に、利用方法についてレクチャーを受ける機会が多いし、比重が高い。商品の価値が一次的にモノにあるのではなく、サービスを享受する買い手の動きに依存するものが多いからだ。

もちろん、エステやマッサージなどはなされるがままだけれど、習い事などは生徒の能動性が重要になる。そのため、体験講座、体験セミナー、体験教室と銘打つことが多い。体験学習もその延長かもしれない。小売でもホームセンターなどでDIY体験教室を提供しているが、材料に価値があるのではなくて、材料を形にしてもらうことに意味があるからだ。

「体験」には"お試し"体験とは別の体験があると別の記事で言った。それは、その体験がゴールであって反復利用や再体験を前提していないものだ。非日常の世界だ。旅先や観光地でのレジャー体験、たとえば忍者体験、和菓子づくり体験といったものは、それが目当てであって、2回目にサービスを利用するためのお試しを前提とはしていない。もちろん、それが高じて、本当に忍者になるということはあるかもしれないけれど、それは例外だ。

なので、体験という言葉の使い分けに気を付けないといけない。「体験型」とか「コト消費」と呼ばれるものでの体験も、どちらかというと非日常体験の方が多いように見えて、実際は日常使いの”お試し”ということもある。

ほかにも、ココロミル論では、体験施設とか体験型ギフト、体験記、体験マーケティング、体験ツアー、体験コーナーなど、色々な「体験」が出てくる。その場合も、その体験はゴールなのか、次があるのかがひとつの基準といえる。

残念ながら、”お試し”の目的だけでは体験できないものもある。性質的に無理なもの、ちょっと齧ってみるだけではコスト的に合わないもの、提供者の主義・ポリシーで拒まれるものなどだ。それを補完する形で見学説明会相談という別の機会が設けられる。また、疑似体験も”お試し”体験とはちょっと距離のある関係だ。

疑似体験

現実のそれは危険だったり、"お試し"で提供するにはコストも高すぎたりして実体験できないので、それに似た体験をしてもらうということがある。疑似体験だ。しかし、売り手が疑似体験などと言うことはほぼなくて、お試し体験のくくりの中で片づけられる。

疑似体験も、シミュレーションの一種である。これは試算と同様である。ただし、実際に近い状況をつくり出したうえでの模擬実験において、モデルに基づいた計算処理の結果ではなく、プロセスにウェイトを置いたものの方である。

自治体などの防災施設で地震を体験できる装置がある。テレビなどでも見たことがあるかもしれないが、家具の置かれた茶の間のセットに座ると、装置が揺れて震度6とか7を体感できるというものだ。神様でもない限り、実際に地震を起こすことはできないし、本当の家で震度7を再現したら命にかかわる危険だ。なので、似た環境を作って、似た経験をする

職業訓練や職業体験にもある。仕事の研修で訓練をするケースがある。営業や接客のロールプレイング(ロープレ)だ。二人一組になり、片方が客に扮して、もう片方が営業トークやプレゼンを試しにして、その良し悪しを検証する。本当の商談で練習はできないからだ。キッザニアの様な職業体験施設も同様だ。フライトシミュレータは、試算でもあり、疑似体験でもある。VRも疑似体験に一役買っている。

見学

売り手側が店舗や施設などの空間を構えている場合は見学ができることが多い。ただし、買い物するときに、洋服屋や八百屋を“見学する”ということはあまりないし、本質的ではない。見学が有効なのは、あくまでもその空間の利用に価値と意味がある場合だけだ。

スポーツクラブなどをはじめ、お試し体験も見学も両方用意している場合がある。"お試し"体験だと、まず手続きをして、それから着替えて、機械やプログラムを利用して、シャワーを浴びて、着替えて、とかなり労力がかかることもある。経験者であれば、機械やプログラムは改めて体験する必要がない人もいる。提供者側の手間暇やコストだけではなく、利用者側の手間暇が負担になる場合は、見学の方が好まれることもある。

住居やレンタルスペースの内覧も見学の一種だ。VRやAR内覧もその延長だ。なので、本来なら空間を必要としないサービスでもバーチャル見学と称して立体感を持たせて見学の場を提供することもできる。

ところで、工場見学というものがある。たとえば、ビール工場の見学なら製造工程を見て、そのあと工場で試飲や食事をして、場合によってはお土産でビールをもらって帰るというものだ。この場合、見学をさせてもらってもこのメーカーのビール造りに参加できるわけではない。あくまでも一消費者としての、商品の勉強であり、ひとつのアトラクションであり、これは非日常体験の部類だ。メーカーはもちろん、PRとして取り組んでいる。

相談

今の世の中には空間を前提としないサービスも多い。それでいて体験や体感が難しいものも多い。そういった時に行える"お試し"の一手段であり最後の砦なのが、相談だ。

もちろん、相談は単純には会話であり、多くの場合は対象のサービスや価値に触れることはできない。たとえば、靴を修理に出そうとする。お試し体験しようにも、部分的に修繕をしてもらってしまってはもう後戻りはできない。見学しようにも、工房を見たところで、どう直すかどうかとは直接関係はない。

相談すること自体が"お試し"になっていることもある。相談自体がサービスの対象であったり価値であったりする場合だ。たとえば弁護士さんや税理士さんに相談する場合、初回30分無料相談といったものを用意している場合がある。相談なので基本的には会話だけれど、信頼できる相手だと見込んで続きの相談をしたいと思えば、その先は有償で時間単位にて相談対応してもらったり、月ベースで顧問契約したりする。

相談も会話だけでなくてはならない、ということはないから、他の"お試し"手段や、補足的な手段も活用することによって、より知ってもらう機会と確かめてもらう機会とを提供する。靴の修理であれば、他の修理品を完成予想の参考・見本として見せてもらったり、修理工程を動画で見せてくれるところもある。修理費用の見積もり(試算)もそうだ。そういうことで"お試し"本来の「知る」や「確かめる」を固めていく。

スポーツジムでも、お試し体験や見学でなくても、相談で済ますことはできる。カウンターに行って、スタッフの人に聞いたり、教えてもらったり、アドバイスを受けたり。洋服の場合も、試着しないでも店員さんにあれこれ相談して、Tシャツくらいなら試着しないで決めてしまうこともある。

この相談を集団化したのが説明会と考えてよいかもしれない。売り手側は同じ説明を繰り返さないでいいから効率的だ。大勢集まることによってスケールメリットというのか、一人相手じゃ割に合わないこともできることもある。参加者側も1対1ではないから、気が楽だということもある。もちろん、大勢の前だと込み入った相談やじっくり時間をかけることがしにくい。そこで、説明会のあとに個別相談会をセットする場合もある。

「相談」はココロミル論では、色々な角度から出てくる。体験を補完する相談もあれば、接触ポイントとしての相談、意思決定のための相談などだ。特に言葉を使い分けることはしないけれど、様々な相談の役割があることは伝わるのではないかと思う。

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