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僕たちは飛行機内で飼われてるペット。

11:20-21:30

約10時間。
2食も機内食が出るような空の旅は人生で初めてだった。
普段は行き帰りの快適さは欲せず格安航空を使いがちだが、今回は直行便がANAしか無かったのもあり天下のANA利用、といった気分だ。
(特に私は出身地柄、北海道⇆東京の利用が圧倒的に多いのでLCCとの値段差は倍以上だと思っている)

今回同行するのは、私が生きてきた中でとても濃厚な、しかし人生史で並べるととてもか細い、公務員時代の同期である。
現地に留学している別の友人(彼女も同期だったが、私が辞めた後に退職した。安定職なはずなのに離職率が高い話はまた今度することにする)に会いに行くため、着いてからは女子3人旅だ。

昼頃発の便だったので、飛んで直ぐに機内食が出るだろうと踏んでお昼は食べなかった。乗る前からお腹空いたねと話す私と友人はまるで有名レストランに並ぶ腹を空かせた客のようである。10時間のフライトに備えスッピンにメガネ、そのまま寝に行くかの如く楽な格好の女2人ほど気の抜けた生き物はなかなかいない。

機内横並びで9列のうち、端の3列のひと席を空席として座った私たちは搭乗後、通路側に私を置くように席を換えた。
何を隠そう私は高所恐怖症なので、できれば窓側の席には座りたくない。揺れだって怖い。離陸中にアニソンのライオンを聴きながら生き残りたいと連呼して耐えた自分は、なるべく一生かけても多くの人の目には触れないようにしたいものだ。

機体が安定した頃に飲み物とお菓子(小さい煎餅)の配給が始まった。
そもそもLCCではジュース一杯でさえ有料プラン。え?ワインとかスパークリングも飲めるの?ビール???無料??!?
ジュースにコーンスープも飲み放題と聞いて、お酒は全く飲めないくせにスパークリング飲もうかなと口走り始める興奮具合だ。

二つの意味で酔った怖さを想像し、大人しくカボスジュースを頼む。はちみつ割りらしく、ゆずはちみつみたいで美味しい。

その後ほどなくして食事のワゴンが運ばれてくるのが見えた。離陸から1時間半後くらいかな。

「江戸東京味噌チキンカレー(和食)」
「デミグラスハンバーグオムライス(洋食)」

ナイスチョイスすぎる2択で迷ったが、カレーは現地で食べないだろうと踏んで、昨日カレーを食べておいたのを思い出した。和食には無いパンがついてたので洋食にした。

ハンバーグは肉汁ジューシーだし、
卵はふわふわだし、きんぴらごぼうも美味しくてびっくりした。機内食のクオリティがちょっとしたファミレスを超えている気がした。お腹が空いてたからだろうか。

もうひとセット食べたい、と思いながら完食する。
途中、再度ドリンクと食後のアイスクリーム(ハーゲンダッツバニラ味)が配られて、甘いものは別腹とは言いたいものの、メインの胃袋にすら大歓迎な女二人は歓喜する。

(ただ、個人的にバニラ味が苦手なのでアイスは遠慮しておいたのだが、長澤まさみ系のCAさんが、ハーゲンダッツやで?本当にいらんの?!って顔で対応してくれた時の表情が忘れられない)

何から何まで至れり尽くせりの食後、
前の方でバナナが配られているのが見えた。

すでにお分かりだろうがこの女二人、よく食べる。

隣の彼女は私が公務員時代、同期で同い年、社宅(公宅)も真下の部屋、ということでたくさんの時を一緒に過ごしたのだが、彼女は私が出会った女の子の中で一番よく食べるかも知れない。
私もその頃は自分でも驚くほどよく食べる女だったが、唯一彼女の胃袋だけには勝てなかった。

(身内ネタすぎる話題をひとつ)
大食いメニューとして定評のある、小平すみれのトンカツ丼1300円、食べきれたのは彼女だけだよ本当に。私4回くらいチャレンジしてるけど1度も食べきれたことないもん。テイクアウトできます。味が美味しいトンカツなので数日は食べられる。

今は2人とも食べれなくなったよね〜、と話しつつ、普通の女の子の何倍も食べられてしまうのである。

バナナは後部座席のこちらまでは配りに来なかったので直接聞いてみると数が足りなくなってしまったんです、とのこと。
二人して信じられないほどショックを受けたのだが、よく考えると食後にアイスクリームを食べ、さらにバナナまで食べる大食らいが全乗客だとはとても思うまい。数に限りがあるのにも頷ける。

大人気ないのはわかっているのだが、これがどうにも悔しくて、余っているクラッカーはないかとたまたま通りかかったCAさんに催促して後から貰った。
バナナの念は強い。
笑顔で対応してくれた長澤まさみ似のお姉さん、忘れません。(小並感)

なんだかんだ時間は経って、
約10時間中、私は動画編集をしながら一瞬寝落ちをした以外は一睡もすることなく終わった。
映画は二本観た。話題作が観れる機内最高。

13:00頃の昼ごはんを終え、21:00の到着前にもう一食あることは事前サーチで知っていたのだが、途中やはりお腹が空いてサツマイモを食べた。
筒状の液体と間違われて手荷物検査で驚かれてしまったけれど、リュックに忍ばせておいてよかった。

そして19:30頃、2度目の食事のために機内が明るくなった。というより、機内が明るくなったので食事の時間だと察した。
飼い主が仕事から帰ってきて、部屋の電気が付くと、ご飯だー!と喜んで駆け出してしまうペットの気分そのものだった。

運ばれたのは某ランドでありそうなコーンパン?みたいなものと、ヨーグルト、フルーツのセットだ。
朝食みたいだね、物足りないね、と言いながら瞬く間に無くなった。
後から知ったけど機内食とドリンクだけでおそらく2000キロカロリーくらい摂取してる。成人男性の1日の摂取量かな。私らの胃袋がどうかしてるのか、美味しい機内食サービスが罪なのかは、満足感ゆえもはや言及する余地もない。

さすがに2度目の食事、着陸前にはアイスもバナナもなかった。代わりに温かくて濃厚なコーンスープを食後に飲んだ。

着陸前に2度ほど、現地の天候が荒れていた理由でアトラクションかなと思うほどの揺れがあったが、飯が旨かったので良いか。と謎の納得をしてしまうほどだった。

最後の最後でCAさんが機内販売の雑誌を持って購入を促していたのを見て、ここか?!これまでのサービスを受けた私たちがお返しできるとするならばこれか?!!と思ってしまったが、大したゴリ押し感はない。
買いたい人が買えば良い、私共はこの雑誌に載ってあることをお知らせしているだけです。本当にその通りに見える促しである。

何から何まで至れり尽くせりで、長時間のフライトも惜しくなるほどだ。もっとこの時間が続けば良い、卒業間近にして学生生活を惜しむ高校生のように思えた。
ANAはこれほどまで乗客を満足させて一体私たちに何を求めているのだろう?何も出ないぞ??と言いたくなるくらい。
もちろん航空会社として求めていることはリピーターの獲得だということはわかった上でなお、そう思ってしまうサービスの充実ぶりである。

いつもLCCを利用していたわたしはいわば機内という地域に生息して、思い思いの時間を過ごす野良犬。

しかし今回、長時間フライトという身も心も預ける場において圧倒的に胃袋を掴まれ、望む限り最大限のサービスを提供してもらった私は完全なる飼い犬だ。

今回の旅を受けてこれから先、空の移動に関して必ずしもANAを使うとは限らないかもしれない。

ただ、選べるならば、ANAを使っていこうと、
またあの贅沢な小屋に帰ろうと、ここで誓うことにする。

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