世俗の垢(あか)

 人間というのは生きてる限り、老いも若きも男も女もお金持ちもそうでない人も、垢に塗れてしまうもんであります。
 で、この垢というのも文字通り皮膚や皮脂の老廃物を指す事もあれば、『世俗の垢』なんぞと言って職業や身を置いている“世界”に慣れすぎて感覚や倫理観が麻痺してしまう事を指す場合もございます。

 まぁ、自民党の裏金や政治資金収支報告書不記載に関する騒ぎとて、言ってみれば政界の、それも政権与党中枢にドップリと浸かり過ぎたが故の【垢】なんだろうな、と。
 彼らの根底には「政治には裏も表も色々あって何かと金がかかるものなんだよ」とか「素人には分からねえよ(だから俺ら玄人に任せとけばいいんだよ)」なんて意識があって、これも【垢】のなせる業(わざ)ですわね。
 だって彼らは衆議院なら4年、参議院なら6年に1度否応なしに選挙があって、そこで当選し続けなくちゃならん訳ですけど、その当選を果たす為に必要なのは彼らが言うところの“素人”さん達が投じる『票』なんですから。
 「な~に、選挙戦の期間だけ清廉潔白な事、国民が喜びそうな甘~い事言って、米つきバッタよろしく土下座しまくっときゃ~国民なんて素人はコロ~ッと騙されるもんよ」
 なんて考えてる事自体が【垢塗れ】そのものだと思いますけどね。
 何故なら“素人”たる我々が一票を投じるのは、分かり易い表舞台で国民の為に働いてくれる事を期待しての事な訳で、そこを見誤ってふんぞり返ってる時点で【垢塗れ】、「風呂ぐらいちゃんと入れよ!」って話なんですから。

 でも、これは政治家に限った話でもありませんで、どの職業や集まりでも大なり小なり【垢】はあるんじゃないでしょうか?
 
 病院に勤めてますと、特にこの高齢化社会の世の中ですから、入院患者さんがお亡くなりになるというのも日常的な事なんですな。
 亡くなられる患者様やその御家族にしてみればそれは青天の霹靂、非日常な事なんですが、それを患者様やその御家族と同じテンションで受け止めてしまうと身が持ちませんし冷静で的確な判断が出来なくなってしまう……これもまた事実ではあります。
 命を救う事が出来なかったのは無念ではありますが、さてそうなると病院側として患者様サイドにして差し上げるべき事は何か?
 それは、御身内を亡くされて動揺しきっておられる御家族を的確に誘導してスムーズに“ご退院”まで導いて差し上げる事、です。
 ……ただここで問題なのは、日常的に患者様がお亡くなりになる事と向き合っている者達が患者様サイドへのホスピタリティをなおざりにして自分達のやりやすさや自己都合を優先させてしまう事。
 これが【垢】です。
 「自分が患者様家族の側だったらどう感じるだろうか?哀しみの涙が引っ込むほど不快な想いをしないだろうか?」
 この行動規範を忘れた時点で『患者様ファースト』というどの病院にも掲げられているスローガンは【何の意味も無いガラクタ】となってしまいます。

 似たような業態で言えば、介護施設……特に病院に於ける入院よろしく利用者さんを入所受け入れしている所はこの問題、特に深刻です。
 業界全体が何処もかしくも人手不足なもんですから、ついついそれを言い訳にサービスとかそもそもの介護福祉に対する意識が決定的におざなりにされておる。
 病院の夜間救急に携わっておりますとその現実を目の当たりします。
 正直に申し上げて、「何処の施設、どこの福祉法人が」ではなくて良い施設、まともにやっている施設の方が稀なのが現状です。
 「人手が無いから仕方ない」
 で、何でも通ると思っているのが【垢】ですわね。「利用者さんの為に何とかしよう。出来ないか?」の意識が無いのが【垢】です。

 まぁ、他の業界でも企業さんでもこうした【垢】はあるんじゃないでしょうか?


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