刑事犬

 刑事犬と言いますとアラ還世代には懐かしい『刑事犬カール』というドラマがありまして、“刑事”というからには勿論警察犬の事でありまして犬種は当然の事ながらシェパードであります。
 主演は【木之内みどり】さんでしたけど、現在は竹中直人夫人ですわね。

 さて、数年前の事になりますが、いつものように出勤しまして勤務に入りました所、病院中が大騒ぎになってましてね。
 認知症を患っているお爺ちゃまが、付き添いの方がスタッフと話をしている間にフラフラと病院から出てしまって行方不明になりました、という話なんです。
 お年寄りな上に認知症…それもかなり症状が進んでいる方の脚ですから、居ないと気付いたタイミングから考えてもそう遠くは行ってなかろう、というので事務系スタッフを中心に結構な人数で探し回りましたが見つからない。
 ついに警察の登場となる訳です。

 お爺ちゃまが居なくなったのが午後5時頃の事で、8時頃の事。
 人海戦術で捜索にあたっていた警察が「もう1回防犯カメラの映像を見せて欲しい」とやって来まして。
 その映像というのが病院の受付窓口の天井に据え付けられたカメラで正面玄関を撮っているものでしてね。杖をついたヨタヨタ歩きのお爺ちゃまが玄関の自動ドアを潜って外に出た所までは映っているんですが、駅の方向へ進んだのか、それともS大学の方向へ進んだのかまでは判然としない。
 「やっぱりそこが分からんですな~、こうなったら予定通り警察犬に頼るしかないか」

 「警察犬、ですか」
 警官を玄関口まで見送りますと、玄関脇にうつ伏せで寛いでいる犬とトレーナーさんらしき男性がおりまして、男性の影で頭部はみえないのですが、前脚から尻尾までの身体の大半は見える。
 でもね、毛並みがど~見てもシェパードではありませんでね。
 どっからど~見ても『ゴールデンレッドリバー』なんです!
 
 『嘘やん』
 
 でもまぁ、能力さえあれば犬種を問わず警察犬になれるのかもしれませんし。
 とはいえ、警察犬って、勿論その優れた嗅覚を活かして探索捜査もしますが、時には容疑者に飛びかかって逮捕活動もする訳でしょ? 
 “ゴル”ちゃんじゃ犯人に飛びかかるなんて俊敏性は無くて、せいぜい持ち前の人懐っこさを活かして逃走を図る犯人にウザ絡みして時間を稼ぐ、ぐらいが関の山ですやん?

 『大丈夫かいな』

 まぁ、「ご苦労様です。くれぐれもよろしくお願いします」「では、行って参ります」で見送ったんけですけれど。
 忘れもしない、それから40分後、ですよ。
 ピンポーン!
言うてインターホンが鳴りまして、出てみるとさっきの警官が立っている。
 警官は私に深々と頭を下げまして、
 「駄目でした。見つかりませんでした」

 ……そらね~、ゴルちゃんに長時間臭いの探索に耐えられる集中力は無いとは思いますよ。
 でもたった40分で捜索断念っちゅ~のは諦めが早すぎないか?と。
 せやから刑事犬はシェパードやねん!て。

 あ、お爺ちゃんは午後11時過ぎに大学近くのコンビニエンスストアに現れた所を無事保護されましたそうですがね。

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