最期の奇跡
私だけ、かもしれませんが“ちょっと感動した話”なんて~のも、たまには良いのじゃないかと思いましてね。
まぁ職務上の守秘義務ですとか患者様のプライバシーにも関わりますんでかなりボヤかせてのお話になりますけれど。
とある御高齢のおばあちゃまがお亡くなりになりまして、病院に駆け付けて来られたのがお孫さん(男性)で、即座に死亡確認が行われ、死亡診断書の作成と病棟スタッフによりますエンゼルケア(死後処置)が執り行われます。
ま、お孫さんと言いましてもしっかりした大人の男性でしたから葬儀社の手配なども大変スムーズに行って頂けましてね。
で、葬儀社が決まりまして到着予定時刻が22時30分頃である、と。
ここで心配になりましたのが、いの一番に駆け付けたのはお孫さんでしたけれど、病院に到着された時に「後でもう二人親族が来ます。神奈川県から」とお聞きしていたのですよ。
その御親族が到着される予定時刻も22時30分頃だという“最新情報”が。
これはマズイ!
私の生来の心配性withネガティブシンキングが発動した訳です。
と言うのも、特に皆さんでもコマーシャル等で耳馴染みのある大手の葬儀社さんはそうなんですが、御家族や病院を待たせるという事を極度に嫌いますもんですから、彼らの言う到着予定時刻には、
「多少の渋滞があったとしてもこれくらいの時間には必ず着きます!」
という意味で普通に何事も無く車を走らせれば到着するであろう時間に予備として“ふかし”が入っているのです。
私の経験則からしますと予定時刻が22時30分という事は高確率で22時10分から20分…事によったら22時ジャストだって有り得る…タイミングで来るだろう、と。
そうなりますと最悪の場合、葬儀社さんが患者様を葬儀会場へとお連れした後で神奈川県の御親族が病院に着いてしまう、なんて事が起こり得る訳です。
そして、この場合は私の経験則が外れてしまう事を願っていたにもかかわらず、22時20分に葬儀社が到着。
さすが天下のSがみTんれいさん、時間を外さないね~!……言うとる場合か!?
葬儀社さんが到着しますとまず夜間事務員の私にコンタクトがありまして、それを内線電話で病棟スタッフに伝える事になりますが、この時点で所謂“神奈川県組”の御親族は到着されておりません。
そこで内線電話で病棟スタッフと“次善の一手”を手早く打ち合わせます。
もしも“お見送り”が済むまでに御親族が到着出来なかった時はお孫さんにご連絡をお願いして、神奈川県組の御親族には病院から葬儀会場へと目的地変更をして頂きましょう、と。
遠路はるばる大急ぎで参られた御親族に無駄足を踏ませる訳にはいきませんのでね。
さてここで、後の奇跡への布石となる事態が起こります。
その夜は結構な雨降りでありまして、この病院の霊安室というのが屋根こそ張り巡らせておりますものの病院本体の“外”にあります。それで「少しでも患者様を濡らしたくない」という想いから病棟スタッフが霊安室への移送を葬儀社が到着するギリギリまで待って、霊安室は病棟のストレッチャー(移動寝台)から葬儀社の物へ移し替える為だけに使用しましょう、という事にしたんですな。
これが功を奏した!
22時25分…即ち葬儀社さんが到着してから5分後、まるで計ったようなタイミングで、待望の神奈川県組の御親族が病院に到着なさったんです。
葬儀社さんは私に到着を告げた後で所定の位置まで車を移動します。一方その頃病棟では「それではそろそろ霊安室へと下がりましょうか」と言う最終準備に入る。
その、決してスムーズとは言えない、むしろ若干モタついていたからこそ、神奈川県組の御親族様方も病室で“最後の御対面”を果たす事が出来た訳です。
結果論で言うなら、これは病棟スタッフの気遣いが生んだファインプレーかもしれません。
でもね。こんな絶妙なタイミングで神奈川県組の御親族が到着されるなんて予見は出来なかった訳で。
私には、亡くなられたおばあちゃまが最後の最期に仕組んだ奇跡、だったように思えてならんのですがね。