セクシーヴォイス論

 私、実は“声フェチ”でありまして、そうなった原点は十代から二十代序盤にかけて夢
中になって聴いていたラジオの深夜放送なんですが、その副作用としてテレビやラジオ、音楽を聴く際には必ずイヤホンを使うようになりましてね。
 ま、これは壁の薄い安普請のアパート住まいであるが故に隣人との騒音トラブルを避ける為、という意味合いも多分に含まれてはおりますが。

 さて、セクシーヴォイスと言いますと古くは【マリリン・モンロー】さんですとかが代表格でありますけれど。
 個人的に声がセクシーな女優さんとなりますと【名取裕子】さん一択であります。
 イヤホンで聴きますと彼女の声は耳から入って来て鼓膜に絡み付くような、ある種の粘着性を持っておりましてね。

 声といいますと声優さんが専門分野でありましょうが、最近の若い声優さんには魅力的な声の持ち主が居ないように感じます。
 勿論、綺麗な声や可愛い声の持ち主は多数いらっしゃいますが、色(艶)っぽい声の持ち主は……

 これは何故か?という答えをベテラン声優でバラエティー番組の“影ナレ”としても活躍されている【若本規夫】さんが明解に説明されております。

 「“息”なんだよ。声に息を混ぜる事で立体感が出るし、声と息を混ぜる配分を調節する事で“幅”が拡がるんだ。ヒーローから悪役まで、子供から年寄りまで演じ分ける事が出来るようになる」

 例えば『ルパン三世』の峰不二子といえばセクシーな悪女という役柄ですが、現在の【沢城みゆき】さんは確かに綺麗な声をされていて演技も素晴らしい声優さんですが、前任の【増山江威子】さんが演じた峰不二子と比べると大人の色気が足りない気がします。
 増山さんは『天才バカボン』のママさんの声の方でもあります。
 良妻賢母の象徴でもあり貞淑なしっかり者のママさんとセクシーな悪女とを演じ分ける際に増山さんが用いたのが“息の混ぜ具合”というテクニック。
 バカボンやパパを𠮟る時、或いは家族との日常会話の際、ママさんと家族の誰かは最低でも1m程度の距離は空いている訳ですから大声は出さないとしても“声を張る”必要がある。
 声を張った状態では息を混ぜるにしてもそれは目立たないし、目立つほど息を混ぜる必要がない。
 対して不二子がルパンを始めとする男達を色香で誑(たぶら)かそうとする時には密着するか至近距離での会話が必要なので声を張る必要が無い。小声でも充分相手に伝わるからですがね。
 人間は呼吸をしてますから、その気は無くとも発声時に息は混ざってしまうものですが、それを意識的に“吐息”という形で混ぜてやるとどんな声の持ち主でも色っぽくはなるのです。

 ちなみに、若本さんによれば声優学校や養成所ではこうした事を教えていないのだ、といいます。

 更にセクシーヴォイスの演技論としましては『相手の耳との距離によって声と息のバランスを変える』というのがあります。
 動画配信の1ジャンルとして“癒し”に特化したAMSRというカテゴリーがありますが、その中でお芝居をする“ロールプレイ”という分野があって、個人的に最も癒され尚且つエロティックだなと思わせてくれるのがmariko(marikoAMSR)さんです。
 ロールプレイとは簡単に言えば『ごっこ遊び』でありまして、耳そうじ屋さんとかお医者さん(脳神経検査など)とかが定番です。
 他の方が単なる小声や囁きであるのに対し、marikoさんは息の混ぜ具合を調整する事で医者である彼女と患者さんの距離感を描くのです。患者さんに近寄った、離れた、真面目に話しているとかイタズラ半分に揶揄(からか)っている等。

 同様に、マッサージ動画の中で根強い人気を誇っているアンリグールというお店に勤務されている【千葉さん】というセラピストの方は、やはり患者さんの足を施術している時と腰や背中の時、そして首や頭の時で声と息の配分を、おそらく自然に変えていらっしゃる。
 「声でも癒す事が出来るのか」
と、初めて彼女の施術動画を観た時には感動すら覚えたものです。
 しばらく新作動画が発表されていないのは寂しい限りでありますが。


若本規夫
峰不二子
増山江威子
沢城みゆき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?