悪漢⑥

 それから一週間はAさん、ひたすら遊び呆けておりまして……遊びって言いましても退屈しのぎにあちこち歩き回ったり、昼間っから水飲む代わりにお酒飲むとか、その程度の事だったそうですが。
 その間、カプセルホテルを根城に、チェックアウトする前には新しい下着類と靴下を買って古いのをリュックに詰めて溜め込んでおりましたが、これが彼曰く「次のステップへ向けた準備」だったそうな。

 自分で「遊び呆けるのは今日で最後」と見定めた日にAさん、それまで溜め込んでいた下着や靴下をまとめてコインランドリーで洗濯をし、コインロッカーに預けていた荷物を整理して、その日は夜になってもいつものカプセルホテルには戻らずに公園で夜を明かしたといいます。

 その公園というのは勿論子供達が遊ぶための遊具も設置されていますがそれはほんの一角でありまして、敷地の中心に噴水があって、それを中心にベンチが円を描くように多数置かれた人々の憩いの場という趣の強い所だったそうで。
 人々と言っても色んな種類の人が居て、中には職を失って働く気も失せ、日がな一日ボ~っとしてるなんて人も少なくは無かった。
 また、そういった人を目当てに“スカウトマン”もウロウロしておりましてね。
 良いように“スカウトマン”って言いましたけどこうした人種は概ね二種類。土木や建築の会社の所謂“タコ部屋”へ放り込む為の『手配師』か、ホームレスを施設に囲い込んで生活保護を受給させ、なんだかんだ名目をつけてそれを吸い取るのが目的の、世に言う『貧困ビジネス』な人々。

 Aさんは家無人になってから人づてに色んな情報を得ていて、それを元に社会復帰への道を構築していたそうであります。
 その手始めにこの公園で“待ち人”を待ち受ける事にした。二日でも三日でも。
 そして夜を明かした早朝、“待ち人”は向こうからやって来た。

 「お兄さん、行く所が無いなら飯食わしてくれてキチンと個室の寝る部屋もある“いい所”があるんだけど、来ないかい?」

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