悪漢④
昼間の内に食料だの道具だの、“作業”に必要な物を買い揃えたAさんはビニールバックに詰め込んだ衣類を携え、チェックイン開始の午後4時きっかりに駅前通りの外れにあるビジネスホテルに籠もりました。
ベッドやテーブルなんぞに目もくれず、カーペットタイル敷の床に新聞紙を敷き詰め、昨夜まで自分が着ていた着衣やスーツの上下、男の下着類等をその上にぶちまけますというと、ただひたすらに細かく細かく、それらを切り刻み、それら衣類の端布達をごちゃ混ぜにしながらゴミ袋5つに小分けに詰めていったんであります。
全ての“作業”を終えた頃には午前1時を廻っていた。
「ふーッ」
Aさんは大きな息を吐くと、昼間買い込んでおいた食料を貪り食って、シャワーも浴びずにベッドに倒れ込んで服を脱ぐでもなく眠りに落ちた。
チェックアウトの午前10時ぎりぎりにホテルを出ると、コインロッカーの中のリュックと手にしていたビニールバックを入れ替え扉を閉める。
リュックを背負いながら、さて今日は何処で暇を潰そうか、と思案した。
まだ作業の工程としては最後となる『廃棄』が残っているのだけれど、今日一日は『休養日』と決めていた。
“せんべろ”でお馴染みの赤羽一番街の入り口の並びにあるたばこ屋の店先に新聞スタンドがあって、Aさんはそこでローカル紙を引き抜くと「これとセブンスター1つ!」。
駅前の喫煙スペースで煙草を咥えながら新聞を読む。貨物列車専用鉄橋の人身事故は、やはり乗客を運ぶ路線に較べるとニュースバリューが低いらしく記事の扱いも小さなものだった。
目を皿にして記事の隅々まで読み込んでも、男の身元は判明していないようである。
まぁ、着衣すら剥ぎ取って所持品無しで“ミンチ”にしてしまったのだからそれも当然で、しかし安定の為に手足をはみ出たせていた訳だから、指の一本でも見つかれば指紋を辿って早晩男の身元は割れるだろうとAさんは考えている。
北本通り沿いの本屋で地図本を買い、この日の宿と定めたカプセルホテルの寝床の中で『廃棄』の場所をひたすら吟味した。
大きな川の人気の無い場所
これをキーワードに、5等分した小分けの端布を捨てるべき5ヶ所を選定する。
あくまで細かく、ごちゃ混ぜにした端布達を、全く別の場所で廃棄する事で捜査の網をかいくぐる算段である。
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