自分、不器用ですから

　私、メガネ(老眼鏡ではない)をかけ始めたのが50歳を過ぎてからとかなり“遅咲き”なんですがね。
　20代後半から視力の低下は自覚しておりましたけどケータイやらテレビゲームのやり過ぎで目が悪くなったんだろうと思い込んでおりまして、当時従事していた職業には障りが無かった事から眼科受診を見送っていたんです。
　しかし、50を過ぎて今の仕事に就きますとパソコンのモニター内の文字が滲んでしまって見難いったらありゃ～しない！
　そこで眼科に行き、眼鏡を作るための処方箋を取得せんと動いたんであります。

　大宮駅駅ビルの中にある小さな眼科医院でしたけど、受付で来意を告げると診察より先に視力検査をします、と。
　担当してくれたのが検査技師さんなのかお医者さんなのか分かりませんが、女性でありましてね。
　お世辞にも美人とは形容し辛いものの……あの～、『エンタの神様』でブレイクした【だいたひかる】さんておられましたわね？陰キャな感じで小声でボソボソ｢ど～でもいいですよ｣いうネタの。
　彼女を13倍陽キャにしたような、愛嬌のあるお姉さんなんですよ。

　分厚い枠だけの“眼鏡っぽい何か”をかけましてお姉さんがその枠に次から次へとレンズを入れては違うのに差し替えるを延々繰り返しまして、レンズを入れる度に視力検査みたいな事をする。
　アルファベットのCが色んな向きになっている奴を指して｢これは？｣
　で、“正解”しますとお姉さんが｢そうで～す｣とか｢当たりで～す｣とかリアクションしてくれるんですけど、何しろこれを1時間強も続けてましたんで途中からカチンとき始めましてね。
　『そうですはまだしも、当たりだの正解だのって、クイズじゃねェっての！』

　問題は1時間強続けた揚げ句にお姉さんが放った一言でありまして、

　｢あ～“らんし”入ってますねぇ｣

　……まぁ、長時間繰り返されたクイズもどきにカチンと来てた事もありますが、ここは一発、男としてジョン・マッケンローのリターン・エースばりのキレキレな一言を返してやらないかん！と。
　だから言うたりましたがな！！

　｢……男なのに？｣

　その瞬間、それまで【だいたひかる顔】だったお姉さんが一瞬にして顔をクワッと強張らせ、般若のようになって睨んでくるんです。

　……女性相手に気の利いたセリフを言うって、自分、そんな小器用じやないスから。