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噺家にとって寄席興行が不要不急ではない3つの理由


昨年の緊急事態宣言発出で寄席は前代未聞の長期休席
解除され客足も回復してきた矢先、今回の発出で再び激減

寄席は戦後最大の危機的状況にあります
芸人にとって寄席は職場以上の意味のある場所

不要不急の外出を控える世の中ですが
噺家にとって寄席興行が不要不急ではない理由が3つあります

それは

1.収入源だから
2.芸の継承、向上に必要だから
3.ベテランの師匠方の健康と芸を維持しているから

の3つです。では、それぞれ見ていきましょう

1. 収入源だから

いきなり出ました。身も蓋もない理由
まず、基本的に噺家は寄席や落語会が無くなれば収入が無くなります
演者にとっては仕事で必要不可欠なんだけど、お客様にとっては不要不急
という相反する状態
飲食業は休業補償が出ているところもありますが、今回、興行関係は宙ぶらりん
正直、

対策したらやってもいいよ〜
みんなには外に出るなって言ってあるけどね〜
それに人いっぱい集めちゃだめよ〜
あ、お休みしてってお願いしてないから補償はしないよ〜
なんとかがんばってね〜

と言われている感じ
The 無理問答
悟りを開けと仰ってるのでしょうか
Let’s 出家!

お金が無ければ働けばいいじゃない!

という当たり前の事を封じられたのが今の僕たちの状態です
芸人を商品としている寄席は、さらに厳しい状況に置かれています

そもそも、なぜ寄席が休まず、毎日開いているかと云うと

”ご来場くださるお客様がいらっしゃるから!”

はもちろんですが、

毎日やることによって、リスクを減らせる面があるんです
1年の中でいっぱい入る時期もあれば、どうしても入らない時期もある
同じ番組でも
曜日や、夜席か昼席かによっても、お客様の入りは増減します

それを均すことでリスクを分散し、全体を生かすわけです
まるで投資のドル・コスト平均法のようなリスク分散法!

演者側には多くの高座数を保証してくれるメリットが生まれます

この効果は毎日やることで生まれるので
長期に渡って休むと成り立たなくなります
寄席がこんなに長く休んだのは史上初めてでしょう

楽屋の話では戦時中も震災のときもやっていたと聞いています

毎日やることによって続けていくことができる
自粛による長期休業をキッカケに老舗の名店が閉店してしまう
なんて報道を耳にしませんか?

寄席も他人事ではありません

また、何組も芸人が出る寄席はショーケース、見本市の役割もあります

寄席でご覧になったお客様から落語会のお話を頂いたり
楽屋内で先輩からお仕事を頂いたり
寄席がなくなれば、こういった広がりが無くなります

特にメディアに出ていない芸人には致命的

2. 芸の継承、向上に必要だから

寄席は職場以上の意味を持つ場所と言いました
実は噺家にとって寄席は

芸を育てる場

という側面もあるのです
前座の時分は、楽屋仕事をしながら師匠方の高座を聴き、勉強をします
また、芸人としての立ち居振る舞いを学びます
究極のOJT!
どんな人間も楽屋で前座修行をすると自然とカタギらしく無くなってくる…
いえ、芸人らしくなってきます

師匠方から噺を教わる時は、楽屋でお願いして
寄席の部屋をお借りしてお稽古をつけてもらうのがほとんど
寄席が閉まれば、稽古をつけてもらえる機会が激減します

また、寄席の興行は基本5〜10日間連続で同じ出番に出演します
これが大事なんです!
何事も上達するには、数こなすのが重要

じゃあ、家で稽古やってりゃ上手くなるんじゃないの?

と思ったそこの貴方!
そうは行かないのが我々の世界

百遍の稽古より、一回の高座

お客様があっての芸。いくら自分で上手くなったと思っても
お客様にウケなければ意味がありません
場数がものを言うのです

そして、高速でDCAPサイクルを回せるのが寄席

〜DCAPサイクル〜
PDCAサイクルを、変化の早い時代に合わせ、順番を変え
Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)→Plan(計画)を繰り返すことで、業務を改善していく手法

高座を務めて(Do)
お客様からの反応を受け、なぜウケなかったかを考え(Check)
改善し(Action)
次の高座をどうするか計画を建てる(Plan)

これが毎日できるのが寄席
また、同じ出番というのもポイント
なるべく条件を揃えることでデータを比較検証できます

寄席に出演することで、かなりの経験値を得ることが出来るんです

3. ベテランの師匠方の健康と芸の維持しているから

寄席演芸の世界は

80、90現役バリバリ 50、60ハナタレ小僧

なところです

そんな師匠方の若さの秘訣が寄席にあります

まず、
家から寄席に歩いて通うことで有酸素運動になります

 楽屋で、会話することでストレス解消ができ

お茶を飲んでカテキンの摂取をします
(多い方は緑茶を3杯以上、お飲みになります!)

そして、前座さん達から若さを吸収する!

寄席が年配の師匠方の健康を保つのに役に立っているのです

また、使わないと衰えていくのが人間
芸もそうです
高座にかけてない噺はドンドン忘れていく
僕も自粛明けには

なにしゃべってたっけ?

となりました。30代の僕がこれですから
寄席の長期休席は年配の師匠方にとっては死活問題
年配の師匠方は高座を務め続けることや、後輩に稽古をつけることで芸を維持し
さらに円熟味を増していく
寄席が至芸を支えているとも言えます

もし寄席がなくなったら

名人が自粛明けにボケ老人になっていた

なんて、洒落にならない事態になり得ます

まとめ

以上、噺家にとって寄席の興行が不要不急でない理由をお伝えしました

いま、世の中が大きく変わろうとしている中、落語界も変化を求められています
しかし、急激な変化は断絶を生みます
変化についていけないものを切り捨てて行くと言うのはもったいなすぎる
というか、
世の中としては捨ててしまうものが演芸の中身だったりします
先人の培ってきたものをロストテクノロジーにしてはいけません

大衆と共にあるならば、寄席演芸は必ず生き残ります
スペイン風邪も、大戦も乗り越えてきたのだから

芸人だけじゃない、お席亭だけじゃない、お客様だけじゃない
みんなが寄り集まって存在する場、それが”寄席”

どれが欠けても成り立ちません
僕たちも一所懸命に頑張ります

これからの寄席を、一緒に創って下さいませんか?



よろしければご助力頂けたら幸いです。頂いた種は大事に育てて、大きな実にしてお返し致しますので、何卒!