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期待をせず、ただ信じるままに。

七夕の日。
一人の男の子がここのねに入学を決めてくれた。

彼のお母さん、じゅんさんと出会ったのは、去年の6月。「豊後大野にこんな学校あったらいいな。」のイベントに来てくれたのがじゅんさんとの最初の出会いだった。ここのねとしてはじめてのイベントに来てくれたじゅんさんは、愛媛県で「大分県にオルタナティブスクールができる予定」という話を聞き、家族で一大決心をして去年の5月に大分に移住してきたばかりだった。

じゅんさんの子どもたち、小学生の姉弟二人は「学校には行かない」と決めていた。自然いっぱいに囲まれた家で、自分の好きなこと、やりたいことをしながら学ぶ「ホームスクーリング」という形をとり、家族で家で豊かな時間を過ごしていた。

「家で生き生きと過ごしている子どもたち。でも、いつかは親と離れて暮らすことを考えると、家とは違うところにも居場所があったらいいな。」

そう考えて、じゅんさんは子どもたちに合う場所を探していた。幼い頃に「自閉症」と判断され、療育園に通い、小学校に入学して一週間で「学校には二度と行かない」と決めた彼。

息子のことを少しでも理解してほしいとじゅんさんの得意な絵を使って、息子の特性をわかりやすく描き、何度も学校に話をしに行ったというじゅんさん。傷ついたり、悩んだり…色んなことがある中で、大分に移住を決意し、「ホームスクーリング」を選んでいた。


去年の9月。ここのねは学校の場所がなかなか決まらず、「青空教室」で活動してみようと、我が家で活動をしていた。その時に初めてじゅんさんが子どもたちを連れてきてくれた。彼の得意なゲームで楽しもうとしていた矢先、小さな行き違いがあり、彼が大声で泣き叫んだ。「もうここのねには二度と来ない」そう言って帰って行った。

あれから半年と少し。学校の場所が決まり、大掃除、大片付けが始まったときもじゅんさんは手伝いに来てくれた。ここのねの初めてのチラシを作った時もチラシの裏に得意なイラストでわかりやすく私達が伝えたいことを書いてくれた。

「息子たちが来なくてもここのねの力にはなりたい」

そう言ってくれるじゅんさんの気持ちがすごく嬉しかった。

6月のプレ開校を間近に控えた5月末。ここのねで集まることがあり、じゅんさんが子どもたちに「ここのね行ってみない?」と声をかけたところ、出発ギリギリまで迷っていたけれど、「行く」と彼が言って初めてここのねに来てくれた。

大好きなけん玉を持ってきて、スタッフももちゃんと楽しく遊んだ彼。「またここのねに行ってみたい」家に帰って、そう、じゅんさんに話してくれた。

6月になり、いよいよプレ開校。緊張した面持ちでここのねに来てくれた彼。一緒に遊んでくれたスタッフももちゃんに信頼を寄せ、ももちゃんを通して少しずつ少しずつみんなとコミュニケーションをとっていった。

朝のミーティング。「参加したくない」という彼の気持ちを尊重し、個別で「今日したい事があったら教えてね」と言って、ある日はももちゃんがみんなにそれを伝えた。

お弁当を食べる時間、食べる場所、1日の時間の過ごし方、そしてミーティングに参加するかしないか。ここのねでは、それをすべて自分で決めることができる。「参加しなくてもいい」そういう選択肢があることが彼にとっての安心につながったのではないかと思う。

公園に遊びに行ったり、ボードゲームをしたり、けん玉をしたり。少しずつ彼の笑顔が見え始めた頃だった。ここのねに子猫の「あんこ」がやってきた。捨てられそうになっていて、「誰か飼ってくれる人はいませんか」と大家さんの息子さん。すぐに「私達が引き取ります」と言ったのは、スタッフのこうちゃんももちゃんだった。それと同時に「ここのねの猫にしたい!」と言った子どもたち。


こうして看板猫となった「あんこ」だったが、彼は動物が苦手だった。あんこから逃げるように避け、「こっちに来ないで」と怯えている様子だった。家に帰ってからも「あんな猫!可愛くないんよ!!」と怒っていたという彼。

そこでお母さんのじゅんさんは、「あの猫はね、捨てられてガリガリに痩せててね。このままだったら殺処分されてしまうところだったんよ。」と彼に話してくれた。それを聞いた彼は、「かわいそうやね。なんか可愛くなってきた。」と話したという。

その次の日。あんこに恐る恐る近づき、仲良くなろうとしている彼の姿があった。猫じゃらしをもち、近づき、自然と笑顔になり、楽しそう。

それまであまり自分から関わろうとしなかった他の子たちとも話し始め、一緒に「あんこ部屋を作ろう」というプロジェクトに入り、一緒になって楽しく過ごす姿があった。スタッフはもちろん、そばでいつも見守っているじゅんさんもとても嬉しそうだった。


それを機に、彼は日に日に明るくなったように思う。話しかけてもあまり応答がなかった初めの頃とは違い、朝「おはよう」と声をかけると「おはよう」とはっきりした声で返してくれた。

じゅんさん曰く、「こだわりが強く、こうだと思ったら融通が効きにくく、人の気持ちや動物の気持ちを想像するのが苦手」という彼。もちろん他の子とぶつかったり、スタッフとぶつかったりする日もあった。泣いた日もあった。怒った日もあった。

だけど、そうやって少しずつ彼の中で何かが変わっていくのを感じた。


七夕の日。

一ヶ月のここのね体験期間が終わり、これから正式にここのねの生徒になるかどうかを決める三者面談があった。

「ここのねで体験して何が楽しかった?」私の周りくどい質問に「いや、この面談、何のためにしてるの?」と彼。その言葉に「確かに。では、シンプルに聞きます。これからもここのねに通いたいと思いますか?」と私。


「うん。」

にっこり頷いてくれた彼が、ここのね第一号の生徒になった。じゅんさんも私もウルウル。これまでのことを振り返り、「まさか彼がここのねの生徒第一号になるなんて‥」「いい意味で”ここのねに通ってほしい”という期待を捨て、スタッフも親も、本人の意思ときっと良いタイミングがあると信じたことが良かったんだね。」そんな話をした。「これから末長くよろしくお願いします」そう言って三者面談が終わった。


彼は一ヶ月という短い期間でみるみる変わっていった。そこには、息子の意思を尊重し、信じ、支え続けた彼の家族の姿があった。そして、「自閉症」というフィルターを外し、彼自身と一人の人間として向き合い、彼のことをわかりたい、仲良くなりたいと関わるスタッフももちゃんこうちゃんの姿があった。そして、それを温かく見守るみんながいた。


ここのねは、誰かが少しだけ元気になる場所でありたい。

ここのねは、誰かが少しだけ自分のことを好きになれる場所でありたい。


そのために私たちにできることを楽しみながら続けていこう。そうすればきっと、ここから幸せの連鎖が生まれるはずだから。


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【7月の活動スケジュール】



ここのね自由な学校は日本の法律上、公的な支援が受けられません。それは回り回って子どもたちの経済負担に重くのしかかっています。ここのねを「誰でも通える学校」にするため、ご支援をよろしくお願いいたします!ご支援いただいたお金は、給付型奨学金や施設設備の充実等に利用させていただきます!