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【聖園ミカ 絆ストーリー】先生からの贈り物

愛とは、持っていないものを与えることである

――― ジャック・ラカン

スマホゲーム「ブルーアーカイブ」聖園ミカの絆ストーリーおよび、その背景である「エデン条約編」「最終編一章【日常の亀裂(2)】」のネタバレを含みます。
また画像は「© NEXON Games Co., Ltd. & Yostar, Inc.」になります。

2023年1月24日聖園ミカが実装された。ミカの絆ストーリーは実質的に「エデン条約編」の後日談と言っていいだろう。聴講会にて特権的な地位から一般生徒へ落とされる裁定を受けたミカは、一般生徒として寮に住み、学校に通うようになる。かつて(結果的に)ティーパーティにクーデターを起こしてしまったミカに対する世間の目線はとても冷たい。「エデン条約編」などで見かけたトリニティの生徒たちの姿から、ミカの学園生活の悲惨な面は容易に想像できる。しかし、ミカは先生にそのことは伝えずに気丈に振る舞い、先生も必要がなければ聞かない。ミカは先生に敬愛の眼差しを向け、彼女にとって先生が大きな心の拠り所になっているのはわかるが、先生はミカ第一で動くことはなく、ミカから見て気まぐれに来ては去っていく。でも本当に大事なときは駆けつけてくれるし、ミカの言葉を疑ったりはしない。

ミカの絆ストーリーは先生がちゃんと先生してる話で、その駆け引き/贈り物から、先生のミカへの愛を強く感じるシナリオだった。先生の意図は一言で言うと、ミカが先生のための人生を歩まないようにすること、またミカがミカの人生を自分の足で歩めるようにすること、だろう。そのために贈り物は厳選されねばならなかった。

ミカのアプローチ

絆ストーリーでは、ミカの(半ば無意識的な)先生へのアプローチが見られる。女性に多いタイプのアプローチの仕方で、自分から禁止を犯すよりはむしろ相手が禁止を破るように仕向ける。象徴的な台詞は「まぁ、私は別にいいんだけどさ☆」。少女の欲動は求心的に働く。しかし、先生は常に当てを外れさせ、また良い雰囲気になる前にミカの前から去る行動を徹底する。

EP1 ふたたび穏やかな日常へ

プレゼントを贈った形になったあと、先生は良い雰囲気になる前に帰る

EP2 ボランティア活動

ミカは明らかに「かわいい」「似合っている」という類の言葉を誘っている
が、先生は誘いには乗らない


”一緒に”ルールを破る類の誘い
先生はムードが良くなりすぎる前に退散する

EP3 屋根裏部屋のお姫様

ミカは押し倒すよりも押し倒される形のシチュエーションを作り上げる
が、先生は乗らない

直った水着、綺麗になったプール、〇〇になるミカ

話が展開を見せるのは、EP4「きずあと」。ミカの水着が盗まれ、ズタズタにされる出来事が発生する。結果的に暴力沙汰扱いになり、ミカは謹慎処分となる。先生が身柄を引き継ぎ、ミカに嫌がらせとかされてないかと聞く。ズタズタになっていたのは水着だけではない。

そんなミカを見て先生は水泳の授業をしようと言う。破れた水着を直しに行き、お互いに知っている、かつて「手の施しようのないくらいにめちゃくちゃだった」プールに連れていく。そのプールは綺麗に生まれ変わっていた。

先生がミカに贈ったもの。それは未来に綺麗に生まれ変わって行くという自己像、あるいはそのような解釈。ズタボロにされた自己像を上書きし、彼女自身が自分で自分を支える。素敵な贈り物。そして、逆にここまで来ると、先生のこれまでの態度も何となく分かってくる。

ミカの要請に気まぐれに(見える形で)応答し、ミカの誘いには決して乗らない。そうすることで先生が避けていたもの。それはミカが甘えん坊で子供じみた自己像を獲得してしまうことだろう。「エデン条約編」で見てきたようにミカは本当に周りに左右されやすい子だから……。

好き嫌いが意識的に操作できるものではないように、ミカの誘うかのようなアプローチは先生への好意の無意識的な表れ方の一つでしかない。彼女自身アプローチ中に我に返ったこともあるように。それに乗ってしまう軽率な行為はミカにそういう甘えた自己像を与えかねない。またドルト曰く、乗ってしまうと、相手を誘惑してしまった誇らしさと同時に罪悪感に苛まれるらしい。その状態は本当にミカにとって良いものなのだろうか。

追記:
また、ミカのアプローチは「私(ミカ)が先生を欲す」ではなく、「先生は私(ミカ)を欲す」を望んでいて、その欲望の対象は――実は先生自身ではなく――「孤独のうちにあって」苦しんでいるミカ自分自身(を救うこと)である。ミカが求めたものを上では甘えた自己像と言ったけど、それは同時に「先生から愛される自己像」でもある。この像をミカは欲しがっている。このようなアプローチは知らず知らずにやってしまう、(結果的に)自分本位な行為であって、先生が一度手を差し伸べれば、「前は手を差し伸べてくれたのになんで?」となってしまうことは容易に想像できる。先生がミカに答えなかったのは、ミカのためであると同時に自己防衛でもあると言ってもいいだろう。そこには、ミカがこういう愛され方を求めてしまうことから離れられるように、という意図もあるように思う。
:追記ここまで

プールの贈り物の後、ミカの先生への愛着はMAXに近いものになるが、一方で先生は「さんづけ・敬語」でより距離を置く。そののち、ミカはプールに飛び込み、先生も入る?と誘うが、先生は断る。

ここでは、直った水着、綺麗になったプールはメタファー的にミカ自身を指し表している。プールに入らないという先生の断りはそういうことだよね。

ミカが失ったもの、負ったものはとても大きい。今後彼女はそれを背負って生きていかなければならない。それに耐えられるほどの大きなものを先生は贈ったように見える。自身の欲望をちゃんと抑えて、相手にとって一番良い事を選択できるのは、やっぱり愛だよなぁと思う。

備考
絆ストーリーでの一挙一動の機微は、公式の案件として名取さんが実況している。とても機微の分かる方なのでおすすめ。



蛇足
最初の邂逅時に、綺麗になったプールについて話し合っていたから、その時点でこのシナリオまで見越していたんだな。いやそんな伏線わからんて。

リンク
「エデン条約編」のミカについて




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