生き残りたいなら雑学だけじゃダメだってさ

 僕に第三の親がいるとしたら、それはインターネットでした。
 親というのは、子供にとって最も多くの時間を共有する存在で、親からどのような教育を受けるかによって、今後の人格が決まると言っても過言ではないと思います。僕の両親は、主観的ではあるけれど、とても良い親です。興味を持ったことには何でもチャレンジさせてくれたし、生きるにおいて重要なことを山ほど教えてくれました。何かをやらかした時にも必ず味方になってくれたので、子供の身としては安心して過ごせました。じゃあ今こんな人間になってしまったのは、どうしてなんですかね。
 そんな僕には、小学一年生の時点でスマートフォンが買い与えられました。今では当たり前のことかもしれませんが、日本に上陸したてのiPhoneは当時では珍しいものでした。小学一年生の僕にとって、インターネットは極端に広い世界でした。当時のメディアといえば、テレビと新聞くらいだったので。初めに触れたのはYoutubeだったはずです、タイピングしなくてもオススメ動画が出てくるし、子供にはわかりやすかったわけです。
 学校では教えてくれないような知識が得られたのが楽しかったのですね。小学校の図書館にはないような刺激的でマニアックな情報が気持ち良くて仕方ない。僕は色々なことを学べました、生き物のことや、パソコンのことや、えっちな動画を見たら視聴履歴は消さないといけないということが、さ!

 そんな僕は、同級生より多くの雑学、薀蓄を知っていました。教室の中ではちょっとした知識人になったようで、鼻が高かったのを覚えています。でもウンチクを言うからって”うんちくん”って渾名付けた貴様を俺はまだ許していない。同窓会で殺してやる……
 そうしたら、学年お楽しみ会でクイズ大会を開くとのことです。おいおい時代が来ちまったなァ~! 小学生の僕はテンションが上がりました。
 ルールは、体育館がA~Dの四つの場所に区切られていて、出題された四択問題の答えだと思った場所に移動するといったものでした。回答時間が終わるとスズランテープでエリアが閉鎖されるというシステムです。なんと、全問正解すると給食のデザートが貰える賞品つき。
 案の定というか、僕はどんどん勝ち進んでいきました。簡単ななぞなぞクイズや、ごくごく簡単な雑学クイズばかりだったので余裕だったのです。場外で体育座りをしている連中が増えるにつれ、高揚感も増していきます。
 不正解のエリアから、バレないようにテープをくぐってきたやつもいました。おやおやそんなに頭を低くしてまでデザートが欲しいのかい? 言いつけてやろうとは思いませんでした、だって僕のランチョンマットにカラメルソースのかかった美味しそうなプリンが足されることは確定しているのですから。
 難なく勝ち進んで、最終問題まで辿り着きました、正直レベルが低すぎて話にならないなといった感じでしたね。いよいよプロジェクターで壁に問題が出されます。最終問題は、「校長先生の好きな食べ物は何?」
 あー校長先生の好きな食べ物ね、はいはい……

は?



 いや、知らんが。知ってるわけないだろ。何いきなり問題の傾向それ。カウントダウンが始まった。マジでわからない、今まで実力で上がってきたのに最後の最後でとんでもない運ゲーだ。いや! 周りを見るんだ、わかってそうな素振りの奴がAへ移動している、いやでもあいつもわかってそうだけどB行ってるぞ! おい!
 ……正解はCのエビフライ、僕は不正解でした。こっそりテープをくぐろうとしましたが、人数が減っているので一瞬でバレました。「あいつも!! あいつもテープくぐってました!!!」声高に主張しましたが、何かが覆ったりすることもなく、情けない児童として説教を食らいました。本当に悔しかった。
 後から知ったのですが、校長室に遊びに行ったりしていた生徒からすれば、校長がエビフライ好きなのは結構有名な話だったそうです。要するに、最後の最後で重要だったのはコネと社交性だったてワケ。はァ~~! わかったらイキってないで外出て人と話しましょう。インターネットなんかやめて、さ!

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