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一言目で本音が言えない

 本当は、本当にゲームなんてしたくない、小説を書いていたい。
 ただ、東京の暖房というのは本当に雑魚で部屋が一向に温まる気配が無いのだ。かといってエアコンを動かしすぎると喉を傷めてしまう。なので僕はPS5でゲームをしないといけないのだ。PS5はすごい、ハイスペックを要求するようなゲームもサクサク動く。その代償に、石油ストーブみたいな熱を出すのだ。だから仕方が無いのだ、僕はペルソナ5をやらないと凍えて死んでしまう。寒すぎる部屋では良い作品を生めるはずがない。蛍雪の功とは言うが、孫康だって喫茶店でコーヒーを啜りたかったはずだ。
 冗談っぽく言ったけど、半分ガチだ。本当にPS5をやるか、喉を傷めてエアコンを付けるしか部屋を暖める方法が無い。

 ……などと考えていたのは昔の話だ、なんと、マスクを付けると暖房全開でも喉が痛くならないのだ!
 これは世紀の発見だった、この発見をしてからは毎日が快適だ。ほどよく暖かい部屋でプレイするペルソナ5は本当に楽しい。

 そんな寒い部屋なのに、僕の寝床は平安時代みたいなクオリティだ。本当は素敵なマットレスがあるのだけれど、寝る時に毎回ロフトに上がるのが嫌で封印している。起きてすぐPCに触れないと夢日記が付けづらいのだ、咄嗟のアイデアを執筆できない環境は創作に害がある。
 仕方がないので底冷えする床にダンボールと薄い布団を敷いて、タオルと上着を適当に体の上に乗せる。あんまりにも悲しいから、プラスでぬいぐるみを抱いて寝る。クレーンゲームで400円だった。僕も人である以上、やわらかさを求める。
 人はやわらかさに支配されている、触るなら岩肌より人肌、あるいは犬畜生や猫畜生を摘まみたがったり、誰もが愛なんてふわふわした言葉に、その身をあずけようとしたがるじゃあないか。近頃は貴様を廃人にするソファやらクッションやらなんかも市場に出回っている。
 筋トレをする人間は狭量だ、その身をがちがちと硬くして、相対的に柔らかい人間を増やそうとするばかり、抱きしめた相手の事を考えるべきだ。

 小学校の夢をみた。
 やさしい茜の差す図書館だった。どこだってだれかの目がある小学校で、唯一しずかで、その日は本当に僕たち以外の一人だっていなかった。それで、君は目隠しをしながら、言ったんだ。「私のこと、好きなんでしょ」って。そんなはずはないよ、だって僕はどこかに行くんだから。
 目が覚めると、職員室にいた。くたびれた女性が僕に話しかけた。まさかあなたが小学校の教員になるなんてね。僕も驚いた、教員なんて青春を消化し損ねた亡霊の居場所だと思っていたから。
 へえ、あなたも不満が? いいえ、満足のいく人生です。希望に起き、感謝に眠る毎日です。
 じゃああなた、どうしてここに戻ってきたんです?
 ぼくは瓦礫の上に立っていた。

 目が覚めると、余りの寒さに絶望する。この夢を見たのは999999回目だ。
 懐かしい。それで、嘘をつけるようになろうと思ったんだった。あの頃と比べたら、ずいぶん上手になった。それも出来るだけ楽しいものにしようと頑張ったから、今更、どれが自分の思い出かもわからない。僕には8000人の部下がいる。

 他人より自分が分からない。他人は直接みることが出来ても、自分は鏡越しにしかみることはできない。そんなの傲慢だ、なんて思ったお前の事なんか真珠の価値よりよくわかる。
 一言目で本音が言えない。他人のフリをするのに忙しくって、いろいろ言ってみて、十幾つ並べた内に、もっとも丸いものを自分とする。でもそれって、誰?
 自己は毎日変化するけれど、それは留まることに耐えられないからだ。次へ次へと畑を食いつくさないと生きていけない業の深い生き物だからだ。黒歴史なんてかっこいい言葉がある。昔の自分を恥ずかしいと思えたのなら、今の自分は成長しているの。でもそうかな、僕は芋虫のように地を這っているだけで、ちっとも空に近づいていないのかもしれない。自らの抜け殻をみて、不細工だと笑っているにすぎないのかもしれない。
 キャラクターが自然に喋り始めるなんて嘘なんだ。キャラが嬉しいなら、僕も嬉しいをやらないといけない。悲しいなら、悲しいをやらないといけない。制作過程では逆が多くって、かつての嬉しいをキャラに押し込めて、悲しいをキャラに押し込めて……そうやって、いつしか小説に懺悔が含まれ始めた。罪なんて踏み倒してしまえばいい。わかっているけど、脱ぎ捨てた抜け殻に繋がる神経が、鈍い痛みを僕に贈ってくるから、罰が欲しくなってしまう。もうどうしようもなく、誰も愛せないくらいに。
 小学生の絵をみた。クレヨンで潰された夜空に五芒星が浮いている。
 そんなものは宇宙のどこにもないのに。
 なんて不自由なのだろう。

 ワサビを効率的に消費したい。辛い物を食べるのはストレスの発散になることに気が付いたからだ。創作が上手くいかなくて、少しでも文学的な行動をしようと中原中也を筆写していたら幻覚と胃痛が増えた。僕の精神がいくら落ち込もうと知ったことではないのだが、体調にまで影響を及ぼすので、少しは慰めてやらないといけない。僕は魔法少女だ、古傷を抉って変身する。蛍光色の口紅をする。
 何故ワサビかって問われたら、ワサビの風味が好きだというのもあるが、辣油やタバスコみたいな、唐辛子系の辛味はあとを引くからというのが大きい。
 しかし、ワサビを単体で舐めるのはあまりに寂しい。何か付け合わせが欲しい。特に、効率的に消費できるようなものがいい。
 まあ、実は、わりと結論は出ていて、ロースハムだ。
 チューブから出したワサビをロースハムで巻いて食うのが、今の所いちばん良い。
 豆知識だが、全力で鼻呼吸をするとツーンとなるアレは回避できる。摂取量が多いほど頑張って呼吸をしなければならない。たくさんのワサビを食べた僕は鼻血を出して、ズボンを洗濯機へ入れた。ああ胃が痛い。

 映画でも行こうか?

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