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タクシー運転手とワガママな8人の乗客者たち#24

 乗客 女王陛下(元) 後編 北海道に駆け落ちを

 
 弟に送られて来た脳内の地図のおかげもあって、どこもかしこも敵さんに囲まれているのだと、分かるものだった。

(弱ったねぇ)
「これはこれは」

 ――『状況が芳しくないのはお分かりだと思いますが。そこを何とかするのが貴方の仕事でしょう?』

 耳許に響くダンマルの声に、少し殺気も立ってしまったが、今は、それをグッと堪えるしかない。

「ああ! そうだなぁああッ!」

 感情のままに怒りの色で吐き出してしまたね。大人げないことをしたという自覚はここではなかったよ。
 
「早くっ、どうにかするんだ! フジタぁあ!」

 苛立ちのは背中の和泉も一緒だ。
 一刻も早くという心境だからだよ。

「はいはいはい。女王陛下様ぁ」

 苦笑して俺が頷くと「お母さま‼」とどこからともなく和泉を呼ぶ女の子の声が響いた。それには和泉の表情が歪み。俺の表情も強張ってしまう。まさか、まさかまさか――……生唾も飲み込む。

「じゃじゃ馬が、困ったものだよ」

 俺の耳元で和泉が言う。イケボに、鳥肌も立ってしまうのだが。それどころでなんかじゃない。俺も目いっぱいの嫌味を言い返した。

「親が親なら――その娘も同じなんじゃないのかなぁ?」
「ふん、それはお前も同じじゃろう。巨大なブーメランを放つな」

 確かになと俺も思っちまったのは、あえて言わないが、そのじゃじゃ馬な娘は、どこに居やがんだよ。声は聞こえたが姿なんか、どこにもない。

 ――『兄さん? どうかしたの?』

「ああ。新女王陛下が来やがりましたよぉう?」

 もうこんなの嗤うしかないんじゃねぇのかね。足掻いても、逃げたって――女の執念程、恐ろしい感情もんはないって言うじゃない?

「おい! 娘ちゃん、顔を見せてくれてもいいんじゃねぇのかねぇ?」

 俺は声を荒げて、娘に吐き捨ててやったよ。
 これで出て来ないってんなら、全力で――強行突破さ。

 ヴォン! と電子音が鳴り。宙には戴冠式前の、少女が浮かび上がっていた。赤茶の髪に、垂れ目。姉の紅葉に激似だな。血縁関係者としか言えないな、こりゃあ。紛れもなく――俺の娘だ

 ――《母王よ! 娘であるアタシを残して行かれるおつもりですか!? アタシは、まだ17歳なのですよっ》

 気の強そうな声に、また、俺は姉さんを思い出した。
 もしくは母さんだな。普段は甘い口調だが、怒るとこんな声になるのが特徴だし。キンキンと金切り声で、癇癪を起した声でもある。

「……こっちからの声は、あちらさんには聞こえんのかよ?」
「いいや。一通の一方通行。あの娘は文句を言いたいだけなのじゃ」
「へー~~そうなの。可哀想に」
 俺も、素っ気なく言い返した。
「可哀想な目に遭わせてるのはどこのどいつなのかなぁ? フジタぁ??」
 頬を突いてくる和泉に「知らねぇなぁ」って俺も笑うしかないじゃねぇか。

 ――《今から! 兵を使いっ、徹底的にお探し致しますからっ》

 高らかに宣戦布告をされちまった。こいつぁ、ヤバい感が半端ない。

 ――《覚悟をなさって下さいなっ》

「やっばくねぇかぁ? なぁって……」

 40手前で、なんだってこんな目に遭うんだって話しだよ。
 まぁ、あれだな。因果応報ってヤツだ。

「早く、車に走るのじゃ、馬鹿者がっ!」

 和泉が俺にしがみつく。少し身体が震えているのも分かる。俺が護らなきゃいけない――女だ。妻になってくれるという憐れで美しい愚かであたおかな奴だが、俺なんかに操を立てて、俺なんかをここまで想ってくれるってんなら連れて帰ってやるしかないじゃんか。逃がした魚は大きくなって俺なんかの元に戻って来たんだからな。焼くなり煮るなり切るなり刺身でも、お好みで食べて下さいって、上げ膳据え膳よ。頂かない野郎がいたら、視て見たいってもんだわ。性格は強気で、拳も早いようだが。まぁ、そこはなんとかしてもらうっきゃない。かかあ天下は免れないだろうけどな。まぁ、今は考えることは止めて置こう。目の前の敵に集中をしようじゃないか。

「ああ。鬼ごっこを始めようじゃねぇか」

 宙には狂暴な機体が飛んでいる。それ祝賀の日に飛ばすようなもんなんかじゃないってことくらいには俺の目から見たって明らかだよ。探査とか生温い行為の為じゃない。捜索するための軍が所有する機体だろうさ。ああ、こいつはマジでヤバい――展開じゃないか。

「……あのぅ? 帰ってもらってもいいかなぁ?」
「っはぁああ!? 臆したのか! このうつけ者がっ」
「ぃ、一旦っすよ? 一旦。ほら、娘ちゃんと話し合いとか、ね?」

 流石に俺だって命は惜しいじゃないですか。こんな場所で死んだりなんかしてみろ、ダンマルちゃんになんて言えばいい。家族が出来たってのに、俺がこんな場所で死んだりしたら。馬鹿みてぇじゃねぇか。

「いや、ほら。ね? 俺は墓参りに来ただけですよ。嫁なんかを貰いに戻った覚えなんかねぇんですけどぉ?」

 笑い話しにもなんねぇわ。

「!? っそ、それは、……そぉうじゃがァ……っつ!」
「っでしょうぅうう??」

「私はお前に抱かれ! お前を生涯のつがいに決めたときから! この日の為に、娘に教育を施し待っておったのじゃ!」

 割と酷い言われ方と、割と酷い娘の言い方に。俺は、ちょっと苦笑しか出せなかった。完全に拗らせちゃったのは俺の責任だ。ただ、責任をとるとかは、また、別の次元だろう。一言、言葉を間違えれば。俺は、一生――この異世界での仕事は出来なくなっちまうな。なんて、ご都合的なことばかりを考えていた。少し、反省はしなければいけないだろうな。

(本当に、俺ってば――身勝手野郎だわなぁ)

「これ以上! 私はっ、お前と離れたくなんてないんじゃ!」
「っつ??」
「私の知らん間に、どこぞの馬の女と番になっとらんかとか、どんだけ心配をしなければならんっ!」
 
「……んなことを、申されましてもねぇ? 俺、モテないんですけど」

 押し問答をしていたときだ。恐らくは、この女王陛下様の声が、割と大きかったせいもあるんだろうが。チカ! チカチカ!! と機体からの閃光が、俺と和泉を差した。

「!? っや、っべぇええ!」

 俺も、和泉の腕を引いて勢いよく走った。取りあえず愛車アウディへと行かなきゃ、帰ることも難しいったらない。軍相手に、政府相手に身体一つってのは流石に無茶なのは分かる。

「あの人たちさぁ? 武器なんて物騒なモンとか所持しちゃってないですよね!?」
「はぁ? 所持をしておるに決まっておろう? 伊達に、新女王の戴冠式ではないのだぞ? 馬鹿も休み休みに申せ!」

「しれっと当たり前みてぇに言わないでくんないかなぁ!?」
 
 現女王陛下である和泉を、拉致誘拐している犯罪者化している以上は。どうにも、恐らくは和泉を盾に進むしかない訳だ。それが最も、卑劣であれ最高の防具なのは確かだ。

「あまり。そういうことを言われるとさぁ? 俺だって――反撃ってのをしちゃうよ?」

「……お前は娘の晴れの日すらも壊そうというのか? 酷い父親ではないか?」
「いやいや。俺に娘はいませんよ? 女王陛下様?」
「フジタぁああ~~??」

 娘の存在を否定する俺を和泉が目を細めて睨んだ。うん、確かに可愛いし好みだ。股間も苦しく張ってしまうくらいに。女は気が強いくらいが丁度いいもんだし、活きがよければ尚のこと愉しめるってもんだ。これ先、彼女は帰る《実家》すらも失うのだ。行く当ては俺の傍しか無くなる訳だし、汲み取ってやらなければならないんだ。過去の代償の対価を、現在の俺は彼女に支払うものは《存在理由》と居場所ぐらいしかあげられないんだから。人生を一緒に歩もうじゃないか。俺なんかでいいのなら手を取り合って行こう。

「ったく。分かった分かった、続きの口論は北海道あっちに戻ってからってことでいいか?」

「! ぁ、ああっ! いいぞ‼ 勿論じゃ♡」

 大きく、何度となく頷く和泉に俺も肩を竦めて、抱きかかえた。流石に昔みたいにか弱くも軽くもない。身長もあるしな。

「あのさ? あんときみたいにさ。大きくなれんなら、小さくなんかも――」
「はぁ? 阿呆が。出来ないぞ? 馬鹿なのか、お前は」
「っそぉー~~っすかぁー」と俺は舌打ちをした。

 俺はそのままの体勢から和泉を背負った。この方が走りやすいからだ。密着される背中には柔らかい胸が当たる。男の本能が数値を計って、股間も馬鹿になりやがる。

「女王陛下様は。Bカップかな?」

「? なんじゃ、そのBカップとやらは?」
「可愛いサイズは好きですよ。お口を閉じて下さいよ~~舌、噛んじゃいますよ!」

 和泉からの問い掛けを無視して、俺は振り向くことなく駆け出した。同時に、考えることにした。火の海にならないように、力を加減して戦う方法を。相手は軍と政府と――娘である、新女王陛下様だ。

「っどぉ~~しょっかなぁあぁあ~~!?」

 地理はダンマルの奴が脳内に送ってくれたし。おおよそではなくて確実に大丈夫だ。しかし。でもだ。

(俺の、……娘か)

 40手前で知っちまった現実だ。怖い見たさってのはあるにはあんのな。
「おい、フジタ?? どうかしたのか!?」
 和泉が少し遅くなった俺に、心配そうに聞く。一刻も早く彼女を――統治している王国ここから逃げ出すんだ。俺なんかと添い遂げる為なんかに実の娘を身代りにした奴だぜ。なんて非道な母親もいたもんだよ。でもだ、そうさせちまった原因は俺の色欲と発情だ。食欲にも負けちまったことが全ての始まりってもんさ。逃げ場なんかない。臆する真似も出来ない。八方塞がりって、まさにこういう状況のことを言うんだろうな。

 虎視眈々と、この機会を待ってたんだろうな。
 俺が来ると――踏んでだぜ?

「別っっっっにぃい。きちんと掴まってなさいよぉう、和泉ちゃんンん!」

 何の保証も確証もないってのに。その日を夢見て少女だった彼女は、幸せを夢見て大人になった訳だ。なぁ。どんな気持ちで娘を育てたんだよ。女王陛下様は俺の娘を、子どもをなんだと思ってんだよ。胃がムカムカと沸き立つような、この感情はなんだっていうんだ? 今までに味わったことのない感情に見舞われたまま、俺は彼女と一緒にタクシーへと着いた。後部座席を勢いよく開けて和泉を放り投げた。驚きと怒りの色を浮かべた和泉が俺を睨みつけた。言いたい言葉がわかるさ。でも、俺にはしなきゃいけない、解決をしておかなきゃなんないことが、男のけじめとしてあるんだよ。お前の番である男の立場として、子どもの父親としてもだ。責任を果さなきゃいけないだろう。

「ちょっと。待ってろ!」
「!? ぉ、おぉい!?」

 驚きの表情で俺を見て腕を伸ばす和泉を無視して、俺は後部座席のドアを行儀悪くも足で蹴飛ばして閉めてやった。

「ダンマル! 自動走行だっ!」

 俺は耳に装着したイヤホンで、遠方にいるダンマルに指示をした。聞こえたダンマルも何も聞き返さずに、エンジンを掛けて走行させた。動き出したタクシーの中から俺を窓から目を大きくさせて、俺を見て大粒の涙を流す和泉ちゃん。俺もバイバイと指先を振ってやったら、歯もむき出しにタクシーの窓を叩きやがった。まぁ、どんな力にも決して割れない強力な窓ガラスだ。存分に叩きゃあいいさ。出来れば俺は叩かないでくれよな。

「さぁー~~てっと」

 俺には俺の仕事があんだ。
 この先も、ここで仕事をする為にさ。

「挨拶に参りましょうかぁ~~新女王陛下様の元にさ」

 ああ。
 ぞっくぞくすんねぇ、こんな気持ちは――……

「っふ、……っはっはっは!」

 皆殺しにした、あの一件以来久々だ。肌がザワつくったらねぇのな。
 武者震いなのか、それともこれは。

「小娘相手に40手前の初老に足の一歩を突っ込んだ俺なんかがだぜ? あー~~おっかしぃい~~」

 まぁ。どうだっていいさ。
 逢えば分かるさ。なぁ、そうだろう? ダンマルちゃん、親父……

 ◆

 しかし。王宮内ってのはやっぱりと言うか、当然だと唸るべきなのか警備が厚いのな。

 そりゃあ、そうだよな。

「○×△!?」
「◇$#×△っっっっ!」

 悪いんだけど、ちょっとばっかし寝ててくんねぇかな。でもって反撃なんかしてくれんな。俺ぁ、手加減が出来る程の平常心ってのが、今はねぇんだわ。痛みすらそこそこで、針先が肌に当たる感覚程度の人間なんだよねぇ。宣戦布告をしたのはあンたの頭かしらの小娘だ。そこんとこの認識を頼むわ。

「退けってんだっよぉう! 死にってぇのかっ!」

 入り口から一気に蹴散らして。俺はダンマルを口説き落として送ってもらった城の地図を頼りに、女王陛下がいるであろう部屋に向かった。恐らくはそこだと思うが、ただの俺の勘だよ。俺が通った道には惨たらしい数の兵士が血まみれで倒れているけど、目を瞑ってくれよな。

「おい。開けろよ」

 大きくも聳え立つ扉の前で、俺は声をかけてノックをした。まぁ、こんなの蹴飛ばすか吹き飛ばすか。どうとなく出来るんだが。流石に、そこンところは礼儀をしといてやんねぇとな。なんって思っちゃったりしてさ。俺も、いい歳した大人の男だもんね。新妻との約束も守るさ。

「お父さんだよ? 会いたがっていただろう? 来てやったぜ?」

 うんともすんとも言わない。扉の向こうに、俺は足の運動を始めた。そんで、どう蹴飛ばすかを考えていたときだ。

 ギィイイイ――……とゆっくりと開いた。

「はは。なぁんだ。やっぱし、居るんじゃねぇの」

 無駄な体力を使わなくて済んでよかったってもんだわ。また無駄な武勇伝が出来ちまうところだったぜ。

「さぁ。ご対面をしょうぜ? 可愛い娘ちゃん」

 ◆

 会ったら会ったで、なんつぅか。あれだ、あれ。『こんな感情、自分にもあったんだな』って新鮮な気持ちさ。娘はいい子だった。

「本当に、俺なんかの娘なのかねぇ」

 和泉の気のせいなんじゃないかなって思った。俺なんかの子どもだとか勘違いしてんじゃないのかなって。俺の気を引きたくて、俺なんかの娘だって嘘を吐いててくれりゃあいいのにって、本当に思っちまったわ。

「っはー~~やれやれ……あーダンマルちゃん? ダンマルちゃん。応答を頼むわぁ~~」
 片耳のブルートゥスのスイッチを入れて、最愛の弟との連絡を取った。
 しかし、応答がない。
「ありゃ? 何? どうかしたのか????」
 俺も根気よく、何度となく連絡を取った。

「充電でも――」

 ――『どうでした? 新女王様との対面は』

 どこからかダンマルの声が聞こえた。明らかに感情を押し殺した口調だわ。うん、俺ってば殺されちまうのかな? 新婚なのに。新妻も待っているってのによ。

「いいだったぜ? 本当に、あの和泉ガキの娘かね、ありゃあ本当に、……本当に……」

 目頭があっちぃったらねぇし。本当に俺なんかに残っていたのかと思うくらいに、涙が溢れて零れ落ちちまった。いい歳した、40手前の初老の男がなんて有様だよ。本当に情けないったらねぇよ。

おりゃあぁ~~ろくでなしだなぁー~~なぁ、ダンマルちゃん…ダンマル、ちゃ、……んンんっ」

 ――『そんなの私も、父も知っていたことですから。泣くなんて馬鹿なんじゃないんですか? ったく』

 手痛いお言葉に、俺もへらっとなっちまう。ダンマルは優しい弟だ。絶対に酷い言葉を俺には言わないし、正論でもあって耳も痛い。でも、確かに俺を抑えるにゃあ、丁度いい塩梅だ。

「っは、っはっはっは。あんまりな言い草なんじゃあねぇの~~お兄ちゃんに向かってよぉう」

 親父はこういうときのことを考えて、ダンマルの奴を俺に会わせたんじゃないだろうかって、今さらながらに親父に感謝をしてぇ。こういうときに独りじゃなくて。本当によかったって思ったことはねぇわ。ああ。親父。

「たまんねぇなぁ~~」

 フムクロ。

「涙も止まらねぇっつぅの」

 もう迷うことはないぜ。1ミリもだ。

「和泉は? きちんとトンネルは抜けられたかい?」
「ええ」
「そっか……そっかぁ~~」
「お土産も頂けたので。こうして、子どもを奥さんに任せて来ましたが必要なかったようで安心しましたよ」
「殺さないように努力はしたしな」
「まず、見つからないように行くことを配慮出来なかっ――」
「時間の無駄じゃんか。強行突破の方が楽ってもんだわ」
「人間の皮を被ったゴリラかなんかですか、全く、……死者なく怪我人のみは上手いこと力を制御されたようで、今更感もあるところですが、いいでしょう。上出来ですよ」
「お褒めの言葉、嬉しく思います」
「褒めてねぇー~~っよ! ばぁああぁああっかぁああ!」
「情緒不安定かよ、めんどくせぇなぁ」
「はぁああ??」

 ダンマルが不機嫌に俺の横に立っていた。こうして一緒に《17丁目》の地に立ったのは何年ぶりなのか。ダンマルが来たがらなかったってのもある。こいつは未来に向かって歩いているから、戻る必要はなかったんだ。それに引き換え。俺は昔のことばっかしで、前すら見てなかったのかもしれないな。

「……済まねぇなぁ。お馬鹿なお兄ちゃんで」

「そんなの、……今に始まったことじゃないですか」
「それはそれで、うん。傷ついちゃうんだけどなぁ~~」
「はいはい。じゃあ、用事も終わったんですから――北海道あっちに帰りましょう」

 本当にダンマルにゃあ感謝だ。
 俺を前へと進ませるための標識みてぇな存在だとすら思った。

 ***

『いつか。余も子を授かるであろうときは――主の元に、母王の元に行ってもよいかな? 父上』

 ***

 とてもキレイに幼いときの和泉みたく微笑んだ。可愛くも気高い新女王である娘は、俺を父親だと呼んだことにゃあびっくらこいたわ。だが、嫌な気分もしない。むしろ、可哀想なことをしたなって思っちまったぐらいだ。

 ***

『ああ。来たかったら来りゃあいいさ、……電話くれりゃあ、タクシーで迎えに来てやんよ』

 ***

 約束をした。それは、次の子どもに迷惑をかけることは必死な事案だ。産まれる前から捨てる前提の話しをしているんだから。悲劇から喜劇が生まれるのだと、遥か昔の誰かが嗤った。

 開幕のベルが鳴った訳だ。


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