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グレイテスト・ビジネス 第二話

 翁が【翁表オキナハジメ】として入社したときにアクシデントが起きた。

 入社式前に自信過剰な百目鬼重ドウメキプラスという十九歳の青年に遭遇をして懐かれてしまい、さらには入社式でも横隣が彼であったことが一番の七不思議と遭い、結果として――憤りが爆発炎上してしまった翁の方から喧嘩を吹っ掛けてしまった。喧嘩両成敗と入社式後に創設初となる役員会議にまで至ってしまった。役員だけではなく入社式に来ていた常勤歴の長い社員たち数十名も残り見守っていた。誰も彼もが二人から目を離せなかったからだ。とくに翁を関心と見入られていたが、当の本人は、借りて来た猫のように肩身の狭くも、身内も来てしまう恐怖に怯える始末だ。それと俺は完全なる被害者じゃねぇの? と翁を睨む百目鬼青年。短髪である髪の毛の右側にオシャレとついた羽根の髪飾りがジャらっと鳴る。

 インターネット通販会社【ワールドルーツ】の役員は、異世界人の社長以外の養子となった息子の血縁者である《地球人》における家族、親族経営と脇を固めていた。

 養子となった息子の《堤凡樹朗ツツミボンノイツキロウ》の子どもの血筋である【堤】と子どもと異星人の婚姻から産まれた血筋である【蛇苺】と同じく異星人との婚姻から産まれた【翁】と血筋を残す為に親戚間での婚姻をして【翁】からの分家となった【老】とさらに【蛇苺】内で起こった姉弟が恋愛結婚をして子どもを成し、分家騒動にまで発展し袂を分かれ産まれた血筋の【群青】で構成されている。

 以上が、【五大貴族】と謳われる《元老院》たちだ。ただ、五大貴族には入らないが【蛇苺】【群青】の親族間で婚姻して産まれた血筋の【早乙女】も存在をしているのだが、彼らは庶子であると《権力》を拒み続けている経緯があるため省かれている。

 まさに【早乙女】以外の【五大貴族】の現当主たちが翁たちの目の前に鎮座をしている。しかし、【堤】は理由説明なしの欠席であった。

「わぁあ、圧巻じゃん! なぁ、表ちゃん!」
「……ヤメテ、ヤメテ」
「そんなに怯えなくたっていいじゃない、ヘタレさんめぇ~」
「ぅうう」

【五大貴族】の指揮を取り持ったのは【蛇苺】の女当主である白蛇オロチは異世界人の血筋が濃い齢百五十歳以上とは思えない若さのある人物。彼女こそが【群青】の祖でもあった。残虐非道と痛みを知らない彼女も、入社式を邪魔した若人にどう苦しめようかと表情も明るく企んでいたとき、翁にとっては天の助けとなる【群青】のもう一人の祖である男が参戦した。つまりは白蛇と夫婦であった、元夫でもある弟の双竜が間に入り事なきを得た。ただ、出て来るタイミングが遅かったため――

「ぃたぁいぃいい!」

 白蛇から放たれた全力の蹴りが翁の顔面と鼻先にあたり血が辺りに散ってしまう。彼女を止める者も諫める者も、誰も居らず、むしろと「記憶を消して追放してしまえ」という罵声まで起こる始末だった。しかし、その言葉に双竜が声を荒げて言い負かせた。

「何を馬鹿なことを言っている! この青年こそ《宝》だと、視ても分からんとは嘆かわしい! 堕ちるところまで落ちたもんだなっ! 姉さんもだっ! やり過ぎっ!」
「な、んだよっ、っち! へぇ~~へぇ~~……以上、そいつの処分は弟に一任とする! だがな! いいか! 愚かな弟よ! また何か、そいつが禁を起こせば殺処分だ! 《殉職者ケアチャージャー》! 《不可リコール》だと思え!」
「はい、恩情に感謝します」
「ふんっ!」

 鼻息も荒く面白くないと会場を後にした白蛇に、他の【翁】【老】も席を外して立体映像が消えたのだが。翁の女当主である雫は翁の顔を見据えて何かを言いたそうにほそくんんでいた。老の男当主の繁は無表情と顔を手で終始、覆い隠していた。対照的な二人に翁も、どう顔を見せればいいのかと終始、目を泳がせてしまった。

 意味も状況も分かってない百目鬼は、ずっとご機嫌斜めと仏頂面だったが蹴られてしまった翁に気が動転してしまい、ようやくここで彼に同情をしたのだった。

「表ちゃん、表ちゃん。だい、ダイジョーブかよ」
「まぁ、ふぇいきよ、いふぁいふぇどえ」
「なぁ、おっさん。怪我の治療しろよ! あんたの姉さんがやったことじゃんか!」
「おっさんか。全く、肝の据わった新人君だな。ああ、医務室に行って鼻の治療をしよう」

 双竜に医務室へと案内され、医師が出払っていて常駐していなかったため、双竜自身が鼻先の治療を施した。さらに彼からの二人への提案は以上だった。

 一つ 【翁表】から【馬場翁】に名前の変更を行うものとする。

 理由は【翁】という苗字が職場では歓迎されないためだ。いい印象が、全くないことと、翁の女当主に身バレした以上は何かしろリアクションがあって当然だからこそ、今の内にけん制と翁自身を護ることが重要となるからだ。若い彼に何をされては困るというところだ。ならば、全ての名前を変えればいいだろうという話しにもなるが言葉には【能力】があるため敢えての【翁】を残したという本末転倒だ。双竜は上手く誤魔化せたと思ったが、そうはいかないことが起こり、後々に後悔をする羽目になるが、また別の話しだ。

 一つ 群青双竜が馬場翁の保護者兼後見人となり、問題児である百目鬼重との同居《監視》生活を行うものとする。

「はぁああ?? 表ちゃんとぉうぅうう??」
「同居、かぁ」

 意味が分からないと吠える百目鬼と冷ややかな翁の反応に双竜も「決定事項な」と満面の笑顔で伝えた。二人に拒否権など与えられない。百目鬼と翁が顔を見つめ合い憮然と無言だ。しかし、拒否権はない以上は提案を飲んで諦めなければ、二人は手にした就職を失い無職になるのだ。

「ちょっと、飲み物買って来てもいいかなぁ。炭酸が飲みたい」

 ここが分岐点となった。翁の言葉に「ああ、それなら近くに自動販売機があるぞ」と双竜も教えて翁が医務室から出た直後に、《尾田ダンマル》と見違いをされて獅子唐芥子に倉庫へと連れて行かれてしまうのだった。

 入社式中にあったことと後でのやり取りの出来事を妻に説明して、数分と経たない内に翁がやらかした件を知った双竜のお気持ちはお察し出来るだろうか。

 さらに、その直後から【ワールドルーツ】に勤務する社員たちの間で話題となった。

 ***

 「《尾田ダンマル》を隊に希望をするとね、もれなく、もう一人。頭数が増えるんだって。名前は言っちゃいけないんだけど、彼は尾田ダンマルとそっくりでも、能力は格段に別次元なの」

「でも。彼を扱うには説明書が必要みたいだね」

「《蜜蜂》って呼ばれているみたいだよ」

「名前の由来はね、ふふふ。ふらふらと飛び回っているように出歩いているからなんだってさっ」

 ***

 そんな事態になっているとは露も知らないのが、主人公の翁表だけである。

「っはぁ~~、……本当に活き帰って、よかった、よかったよぉうぅうう」

 泣きじゃぐる翁に獅子唐も「ほら、商品確保もしたんだ。次に行こうじゃないか!」と翁を次の仕事に誘う。大きく目をひん剥いた翁は勢いよく身体を起こすと立ち上がり「行きませんン!」と走り去った。

 残された三人も、肩を大きく揺らして一斉に大爆笑をする。

「追いなさい、尾田ダンマル。あの子を一人にしてはいけないよ」
「ええ。私も聞きたいことがあるので、失礼します!」
「ああ。今日も任務協力に感謝する」

 一礼をすると尾田も走って行ってしまった翁の背中を追いかけるのだった。

「嵐のような男だったべなぁ」
「そうだね」
「また、一緒に仕事をしたいかって聞かれたら、んだら、嫌だって言うべなぁ」
「そうだね。そんなことより、半休とってご飯にでも行かないかい?」
「行く!」

 ようこそ、インターネット通販会社【ワールドルーツ】へ!

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