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PFP2023曲解説

※この解説は当日のプログラムに記載するものではありません。花月の個人的ノートです。

Canterbury Chorale

作曲者が当時指揮者を務めていたベルギーのブラスバンド「ブラスバンド・ミデンブラバント」のために1990年に作曲された。
私はファンファーレオルケストだけですでに今年2回吹いている。東海ファンファーレプロジェクトでもやってたから今年はファンファーレ版カンタベリー豊作の年。
指揮者・下野竜也がほとんど十八番と言っていいほどの頻度で演奏している。たぶん下野さんはカンタベリー好きなんだと思う。
タイトルにもなっている「カンタベリー」は、英国国教会の総本山「カンタベリー大聖堂」を指す。作曲者は大聖堂を訪れたときに得たインスピレーションを基にこのコラールを作曲した。スコアには“for Robert and Annie”と二人の人物の名前が記されているが、これは当時ブラスバンド・ミデンブラバントの団長を務めていたロベールとその妻アニーへの献辞である。
この美しいコラールの背景にあるお話は、本当に、それだけなのである。
私はこの曲について語る言葉を持っていない。どんな言葉を用いてもおこがましい気がする。
この曲を聴くときに、カンタベリー大聖堂のことは思い浮かべなくてもいい。ただ、音楽はこれほど美しくなれるものなんだということだけ感じてほしいし、それを感じてもらえるような演奏をできたら嬉しいな。

※ロベールとアニーの孫娘は今ブラスバンド・ウィルブルークでコルネット奏者をやっている。

https://www.alliancebrassltd.com/from-flautist-to-cornet-anne-sophie-leveugles-musical-journey/?doing_wp_cron=1693550357.1641399860382080078125


Condacum

作曲者が住むアントウェルペン州の町コンティフにある“Arts Council”の25周年を記念して作曲された曲。
2年前にこの委嘱元について調べようとしたのだがうまくいかなくて(“arts council kontich”で検索すると曲の解説が出てきてしまう)、今回再チャレンジしてみたがやはりだめだった。Arts Councilをオランダ語に直訳するとKunstbeerdになる。同名の組織は他の自治体にはありそうだがコンティフにあるかは怪しい。そもそも、作曲された1996年時点で創立25周年だった組織が、2023年現在も同じ形で活動していると安易に考えることもできない。きっと分裂合併吸収を繰り返しているだろう。
現在のコンティフを含む、スヘルデ川とルーペル川周辺地域が古代ローマ時代に“Condacum”、「合流点にある」という意味の名前と呼ばれていたようだ(Wikipedia情報、諸説あり)。
曲の前半はローマによる侵攻のような不穏な雰囲気が漂う。後半は一転してタンバリンも跳ねる明るい曲調となり、時折繊細ささえも感じる。おそらく初めて聴くと短すぎて何が起こったかよくわからなくなるが、何度も接するうちに愛着が湧いてくる。
あまり派手な曲ではなく、知名度もぱっとしないが、洗足ファンファーレオルケストでも演奏されたことがある。

A Highland Rhapsody

スコットランド・ハイランド地方の音楽のスタイルを基に作曲された狂詩曲。現地の民謡等が引用されているわけではなく、旋律は全て作曲者のオリジナル。作曲された経緯は不明だが、楽譜の上部には“To my wife”という記載がある。
副題のような位置にある“Ardnamurchan”はハイランド地方の半島の名前。同名のスコッチウイスキー蒸留所がある。カタカナで書くと「アードナムルッカン」らしい。
曲は遅めのテンポと速めのテンポが交互になっている。歌と踊りの対比のようでもある。勇ましくもあり、優美でもあり、楽しくもあり切なくもある。ヴァンデルローストが描くハイランドの景色を一緒に覗いてほしい。

※1回目のリハで指揮してくれた今井先生はハイランドのことを「広めの那須」と言っていてめっちゃウケた。私は生粋の那須地区民である。


Humanos

ドイツ・フランクフルトにある国際人権団体からの委嘱を受けて書かれた作品。副題は「人権への讃歌」。
曲は大きく「序奏」と「讃歌」に分かれる。パート譜にはフレキシブル譜のような明記はないが、「讃歌」はシンプルな4声のコラールとなっている。個人的な印象でいえば、児童合唱団のように演奏したい。邪心や執心のない、伸びやかで澄んだ歌声を作りたい。朝の会で歌うような、爽やかなイメージだ。ラジオ体操でもいい。
今回を逃したらしばらく演奏できないような気がして、選曲リストの一番上に置いておいたら採用された。圧力は大事である。

Montana

マーチ「モンタナ」は2008年、アントウェルペン州の町ハイスト・オプ・デン・ベルフの首長と町議会により委嘱された。2008年はこの町がベルギーの歴史上に現れてから少なくとも1000年になる…という節目の年で、その記念として作曲された。
「モンタナ」が作曲された時点で、ハイスト・オプ・デン・ベルフには11のファンファーレオルケストと1つのブラスバンドが存在した。マーチ「モンタナ」はこれら12のバンドに献呈されている。だから、このマーチはファンファーレオルケストがオリジナルと言っても過言ではないだろう。

同作曲者の「アルセナール」「マーキュリー」「ミネルヴァ」などと比べると、さほど演奏機会に恵まれたマーチとは言えない。しかし一昨年〜昨年にハッピーペンギンブラスが体験会や演奏会で採り上げると、そのパワフルかつきらびやかな音楽は界隈の人間を瞬く間に虜にした。本演奏会では満を持してファンファーレオルケスト版を演奏する。

ブラックダイクバンドの録音を聴いて以来ほとんど一番と言っていいほど大好きなマーチだったが、これほど多くの人が魅了されるとは、これほどたくさんの場で演奏することになるとは思ってもいなかった。嬉しい誤算だった。


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