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酒井裕二郎

「ホストかよwww」彼は高校時代唯一の友人に煽てられ大学デビューを間違った方向へどんどん進めていき気を衒った赤ジャケットに人並み以上にヘアケアにお金を注ぎ込み「ワンチャン」という言葉を乱用していた。
twitterで「#春から〇〇大」と呟き人脈を広げる。飲みコールは事前に覚えておく。タバコを家で吸っていたら母親が悲しんだからやめた。母方の祖父はヘビースモーカーで肺ガンで亡くなっていた。
高校生で暗かった彼が形はどうであれ明るくなった事に両親はとても喜んでいる。彼はファーストピアスを母親に頼んで開けてもらった。シンプルなシルバーのボールデザインが良かったが母親のチョイスによりアメジストが彼の耳では輝いている。(一度開けたがもう痛くて開けたくないのでイヤーカフもつけている)
入学していわゆる飲みサーに入る。この日のためにチャラそうな友人候補をtwitterで見つけわざわざ「気をつけて!こんなサークルは飲みサー!」という記事を読み込んでいた。

新入生歓迎会、ついにこの日が来た。
ばっちりと決めたお気に入りの赤ジャケット、中は古着屋で買った知らない海外のバンドT、髪はいつもより念入りにケアしセットする。
「この会を機に俺は変わるんだ」そう意気込み彼は新入生歓迎会に臨んだ。
彼のように大学デビューをしようとしている野暮ったさが残る青年、きっと友人に誘われ入ったのだろうおぼこい女子、ニキビ面で下品に笑う黄色い歯の先輩、ギラギラした目で品定めをするハンターのような女。あらゆる思惑が居酒屋中に蔓延している。
それぞれ自己紹介が始まる。「一年の酒井裕二郎です。まあ、名前に酒って入ってるくらいなんで酒カスは定められた運命って事でよろしくオネシャース」ポロポロと乾いた拍手と「アイツやばすぎー、気に入ったわwww」という汚い金髪の男、苦笑いする女が目につく。間違えた、と後悔したがもう遅かった。裕二郎は裕次郎から見てもダサい先輩に気に入られてしまった。

会も温まり中盤に差し掛かる頃、気づいたら数人は帰ってしまった。裕二郎は飲みに飲みまくりもう限界を迎えていた。ゲロを吐きそうだったが我慢していた。裕次郎は少しかわいいエロい先輩に一目惚れしていた。またその先輩も裕二郎を狙っていた。裕二郎は気が大きくなり先輩を口説こうとする。しかしその先輩はサークル内を食い散らかしており嫌な湿っぽい空気が流れていた。泥酔している裕二郎はそんな事に気が付かない。
「おいユウジーンお前飲めよ!」いつのまにかダサいあだ名がついていた。「えー、ユウジローくんまだ飲めるのー?もうやめときなよー笑」「ハイ!ボク飲めます!いけます!見ててください!」フラフラで立ち上がり残ったカスみたいな人々の視線を集め彼は自ら音頭を取る。彼はもう何杯飲んでいたのだろうか。コールに乗せられてジョッキを飲み干した彼は倒れてしまった。裕次郎はゲロに塗れて急性アルコール中毒で死んだ。
大学デビューは成功したのか失敗したのかはわからない。しかし彼は人生で一番輝いていた。

裕二郎の事はサークル内で伝説となりしばらくは彼の話で持ちきりになった。黄色い歯の先輩もエロい女も誰も悲しまなかった。もうすっかり時が経ち冬になった。飲み会の度に誰かが裕二郎の話をあげていたがもうそれもすっかり減っていた。エロい女は妊娠していた。汚い金髪の男はパチンコにハマっていた。黄色い歯の男は磨きをかけてますます歯の色を深くしていた。裕二郎は成長しない。裕二郎は墓の中にいる。

・酒井裕二郎写真館

酒井裕二郎の写真
かっこつけてる酒井裕二郎
あれ、俺かっこよくね?の酒井裕二郎
調子乗ってきた酒井裕二郎
完全にかっこつけてる酒井裕二郎
ほらよ

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