變態假名を含む和文のかき分けついて
以下の如き使ひ分けは「假名文字遣ひ」や「異体假名の遣ひ分け」などと呼稱せらるる事もある。
特に①~⑥は、現代語のルビや送り假名のやうに筆者によつて使はれ方が異ることも少くない。飽くまでもかかる可き傾向として見做して貰ひたい。
① 語頭標示の「志(し)」
志ろく、志ろき、志らぬひ、志らかは
② 語中標示の「可(か)」
かる可らぬ人のおんほど…
いとさとくて可たきてうしどもを…
③ 語中・語尾の「之(し)」
おも之ろうふきすま之たまへるに…
ふかう染まざるべ之
④ 語頭の「者(は)」と語中語尾の「波(は)」
者かなきほどのおんかたみにこそ…
殿のおぼしのたま波するやうに…
⑤ 語末標示の「須」「類」
から須、あら須(ず)、よ類、ほた類、みゆ類
⑥ 和語と漢語を區別するための「古」「こ」
漢語(古):國學=古久倶和九
和語(こ):戀=こ悲
⑦ 助詞及び語末標示の「ハ」
春ハ、山きハ、夏ハ、秋ハ、冬ハ
⑧ 一音節語は文中で紛れやすいために漢字表記
日、火、灯、音、根、子
⑨ 特定の漢字と密接に結びつくために漢字で表記せられ、區切りの指標として機能する二音節語
春、山、雲、夏、月、秋、雁、風、音、蟲、冬、雪、霜、雪
⑩ 繰返し表現を避けるためのかき分け(隣接囘避)
ほどふるまゝ尓(に)せむかたな宇(う)かなし憂(う)おぼさるゝに…
⑪ 假名の母体たる漢字の概念への意識
鶯(うくひす)→憂久悲春
鶯は春になく鳥であり「憂く干す」と掛けられる事からも顯かなやうに、「つらい淚」といふイメージがその名前の裏側にある。
憂(つらく)久(長い)悲(かなしい)春
といふイメージを字体に反映せしめ、「憂久悲春」といふ表現になつたりする。
同樣な意識が、特に體言について表れがちである。
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