沖縄旅行

 一つリュックサックを背負って沖縄に行った。以前、ある友人と会った際、とある島の酷く寂しい波の音しか聞こえない場所の話をした時に、彼から聞こえた沖縄のヒメユリの塔という言葉が何となく気になっていたからである。

 目的地には金曜の朝一番の飛行機で行った。平日で成田発だとかなり安価で行けたので、わざわざ有給をとった。昼前に飛行機が着いたら、すぐにバスを乗り継いでヒメユリの塔へ向かう。初めての場所だが、かなり整備されていて分かりやすかった。

 よく晴れた昼の時間にヒメユリの塔についた。田舎は交通カードが使えないらしく、そこまで現金を用意していなかったので、持ち合わせが少なくなってしまった。敷地内は少し遠くから見ると木々が鬱蒼としているように見えたが、近づくにつれてよく整備されている印象を受ける。入り口横には簡素な花屋があって300円で綺麗な花が売られているのを見た。中に入る前に一瞬そこの婆さんと目が合ったが、それを無視して中に向かうと、花は買わないのと言う声が背から聞こえた。中に入り順路を進むと、灰色の大きな墓石のような石碑があって、その手前に黒い岩肌の崖のような穴があった。崖の周りは、ぐるりと入れないように囲いがあって、何やら台の上にたくさんの綺麗な花束が飾ってある。近くの看板を見ると、この塔の詳細、第二次世界大戦中に沖縄で起きたことが書いてあった。囲いをぐるりと歩いてみると、備えられた花束が目に入る。やはり、これはどう見ても300円で買えるようなものじゃない。非常に失礼だが、使いまわしているんじゃないかなんて思ってしまって、自己嫌悪した。順路の奥には資料館が見えたが、400円と見える。現金の持ち合わせを確認してちょっと躊躇っていたら、後ろからバス団体一行様が近づいてきて、バスガイドの指示によって穴の右半分を占領した。彼らが世界遺産でも見るかのような雰囲気で来たことに何故かむかついた。

 結局、花も買わず、有料の資料館には寄らずで敷地内から出た。少し気落ちしていたが、目の前の土産屋にたくさんの服が見えて、母が服を欲しがっていたことを思い出す。ジロジロ見ていると、客引きのババアに捕まって、あれよあれよと中に入れられた。安くしますよ、安くしますよというババアの言葉が、どんどん気持ちを落ち込ませてくる。それでも、可愛いシーサーの服があって、良いなと思い手に取ると、ババアに本当は1500円だけど、1300円でいいと言われた。さらに追い討ちで、安いですよ、と囁かれるので、なんだか申し訳なさから、つい購入してしまった。

 帰りのバスの時間をスマホで調べていたところ、次のバスまで、1時間はあるらしい。バス停で五分ほど待っていた時に、うまく乗せられただけで、本当はこのTシャツはもっと安いんじゃないかと思えてきた。私は、ババアが嘘つきであることを証明するために、ちょうどバス停の近くにあった2軒の土産屋を回ることにした。
 1店目は大衆向けで良いものを置いていたようなので、該当のTシャツは見つからなかった。かなり大きな店だったので、新しいものを仕入れているのだろう、それ相応の値段がついていた。
 2店目でそれに近いものを見つけた。丸々同じというわけではなかったが、メーカーが同じなのか、かなり絵柄が似ている簡素なデザインのTシャツを見つけたが、値段は1400円だった。

 バスで一番近い市街地に戻った時、お腹が空いたので遅めの昼食を取ることにした。行きのバスで和風亭という見慣れないファミレス?のような店があり気になっていたので、そこに入る。店の中は結構豪華な感じで、メニューもまあまあな値段だった。スマホで調べたところ、天ぷらが美味しいらしいので、2200円位の鯛の釜飯と天ぷらがついている定食を注文した。
 都心のファミレスでもこれ位はすることがあるので、期待はしていなかったが、予想に反してめちゃめちゃ美味しかった。正直に言って、ファミレスは値段の5〜7割くらいのクオリティの料理が出るイメージがあったが、2200円をフル活用した料理が出てきた。蕎麦は普通であったが、釜飯の鯛はふわふわしていたし、天ぷらの山菜は野生のパンチがあるように感じた。茶碗蒸しも量産の味ではなく、今日引いた出汁を使っているような深みがある。店員さんもよく見ていて、お茶が切れたらすぐに継ぎ足してくれた。

 それから、どの店を回っても値段相応または、それ以上のサービスの提供があった気がする。沖縄は正直な場所だと思った。よく損得で仕事を考えていた自分には良い薬だ。 

 沖縄の街を歩いてみると、ふと10年前の福岡にいる感覚になることがあった。私が変わったせいなのか、この島が変わらないせいか、どちらだろうか?

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