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【面白数学】06-忘れ物の文章題

高2の秋の朝。

いつものようにギリギリの時間に家を出て、駅に向かっているときだった。

電車通学。遅刻ギリギリの電車までは、あと1本余裕があるが、できれば1本前の電車に乗りたい。

家から駅まではおよそ徒歩10分の距離。だいたい半分くらいまで歩いたところで気づいた。朝に起こる最悪の出来事の1つが起きてしまったのだ。

「あ、定期忘れた。財布も。」

まじかよ、どうにかならないかな、どうにもならないしな、家戻るか、と踵を返す。

ダッシュで戻って3分、駅まで6分、今7時40分、ああ、ギリギリのやつにもギリだな、と頭を高速回転させながら、同時に、ダッシュの体勢をつくるため、ふくらはぎに力を入れたそのとき、

あ、電話して、持ってきてもらお。

そう思いなおし、即座に足の力を弱め、使い始めの携帯を取り出し、家電した。

「あ、ごめん、定期と財布忘れちゃって、自転車で持ってきてくれない? ん、今、三叉路のとこ。そこにいるから。」

電話の最中、次のように考えていた。

家に向かおうと踵を返しダッシュ体勢をとったものの、三叉路と家との間で定期と財布を受け取っても、結局そのあと、受け取る場所から駅に向かうことを考えれば、この三叉路で待っていて、ここで受け取り、駅まで走ったほうが早いと。

しかし、電話を切って、待ちの体勢になったとたん、

あることに気がついた。

さて、これを読んでくださっているあなたもお気づきだろうか?



駅までもっとも早くつこうとするならば、

三叉路で待っているのではなくて、

自分も駅に向かったほうが早いのだ。

駅で受け取ればいいのだ。向こうは自転車だし、たいした距離ではないのだから、お願いついでにそう約束すればよかった。

うわ、まじかと思いながら、もう1回電話しても、おそらく慌てている母はもう電話に出ないし、万が一出たとしても、それはそれでタイムロスになるので、もうここで待つしかない。

ここで受け取って、そのあと、駅までダッシュしようと思った。


そして待ち時間、今起こったことを頭の中で整理していた。

電話をかけた時点で、自分は三叉路にいた。

家に向かう体勢をとっていたため、一瞬、三叉路と家との間で受け取ろうと思った。

実は、これはもっとも早く定期と財布を受け取れる方策だ。焦っている自分はあやうくこの方策をとろうとした。だが今は、電車に間に合うことが目的。早く受け取ることが目的ではない。早く駅につくことが目的だ。

そう思いなおし、三叉路にいたほうが得策だと思った。三叉路は待ち合わせの目印にもなるという意識もあった。

しかし、これでもまだ得策じゃない。だって、できるだけ早く駅につきたいのだから。定期と財布をゲットすることも両立して。そう考えたら、もう一度駅のほうに体を向けて歩き、駅で待ち合わせすれば、もっとも早いことに気がつく。

これこそ得策だ。

普通に中学の文章題じゃん、なにやってんだよと思いながら、ああ、文章題も役に立つことあるんだな、とも思った。

大人になって、行動経済学やヒューリスティックなどを少し勉強した今となっては、焦っている状況下で上記のように判断してしまうのはしようがないとも思うが、だからこそ、一瞬でも冷静になって、数学の文章題のように図で整理して考えることで合理的な判断が導けることもあるのだ。

そんなことを今思う。


さて、その後、忘れ物は無事三叉路でゲットでき、改めて、いってきます!と言い、駅に向かった。

模式図の上ではなく、アスファルトの道路を小走りに。

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