男は行く 俺たちの明日
どうも。今日もまたエレカシについて書いていこうかと思います。
知らない人のために言っておくが、エレカシとはエレファントカシマシという日本のロックバンドのことである。
ロン毛で細身の男性がボーカルを務めていて、なおかつ割と童顔であればそれはエレファントカシマシである。もし仮にロン毛で足が細いけど、童顔どころかキツめの化粧をしていた場合、それはSUPER BEAVERか毛皮のマリーズです。
①男は行く
まずはこの曲、エレカシの5枚目のシングル「男は行く」だ。
印象に残りづらい変なギターリフが数秒鳴るや否や、「ああーー!男よ行け!男よ勝て!」とミヤジの叫び声が響く、いかにも初期エレカシらしい曲である。もはや歌というより、「たまたまメロディアスになってしまったスポーツファンの野次」という気さえする。
「行けと言われたってどこへ?勝てと言われたって何に?」
そんな疑問などお構いなしに曲は進み、ミヤジは怒鳴り続ける。しかも恐ろしいことにこの曲、このテンションのまま7分近くある。
Jポップで同じく7分ほどある曲というと、ミスチルの「終わりなき旅」が有名かと思う。
その曲では7分の中で何度も転調を繰り返し(人生の様々な苦難や局面を表しているらしい)、困難に立ち向かうことの素晴らしさや、未来に広がる可能性など、人生について非常に多岐に渡って歌い上げられている。
そして最後は「終わりなき旅」とタイトルで締め、これからも続く苦難の道とそれに向かう前向きな姿勢が歌われている。
しかし、エレカシはというと7分かけて言いたいことはただ一つ。
「男よ勝て」
これだけである。7分間、420秒もあれば例えば光であったら、地球を出発して火星あたりまでは余裕で行ける。東京からまんまで宇宙へ行ける。それにもかかわらず、エレカシはステージ上で「勝て勝て負けるな」とのみ言い続けるのだ。曲中に「勝て」または「負けるな」というフレーズは計7回も繰り返される。1分に1回は「勝て」だの「負けるな」だの言うペースだ。あんたは予備校講師か。
そして、「勝て」というフレーズと共に
という明らかな二律背反をこちらに投げかけてくる。この「みんな安心リボ払い」みたいな奇妙な発言は、リスナーに対しての鼓舞と共に、自分に対しての鼓舞という内向的な意味合いもあるのだろう。
また、この曲は3分を超えたあたりで演奏が一旦落ち着きを見せるのだが、そこでミヤジの口(くち)ギターによるエレキギターとのユニゾン(違うパートが同じフレーズを弾くこと)という、非常に珍しい演奏を聴くことができる。
普通はユニゾンというと2本のギターで同じフレーズを弾くのだが、ミヤジはそのバケモノ音域でギターとユニゾンしてしまうのだ。
音程はおそらく高いシまで達しており、ヒゲダンのミックスナッツのラストよりも高い。何故ミヤジはこんなことをしてしまうのだろうか。普通にギター弾いた方が絶対楽なのに。
「普通にギター弾いた方が絶対楽だよ。」と、メンバーが一言教えてあげれば良かったのだが、エレカシのメンバーは基本無口なのでやむなしと言ったところか。ワンマンバンドの弊害である。
これだけ書いてなんだが、正直初めてエレカシを聞くという人にはこの曲はオススメできない。メロディは親しみづらいし、曲の構成も奇妙で長いし、なによりボーカルが叫びすぎている。
しかし、なぜこんな理解されづらい曲をわざわざ紹介するかと言うと、一つだけのテーマを懸命に歌い続けているエレカシの不器用さに、強く共感を覚えてしまうからである。
客席に向かって悪態をついたり、客電をつけたまま演奏したりめちゃくちゃやって客を突き放すエレカシが、曲が始まりさえすれば何かを届けようと懸命に歌う。こちらに挑戦を投げかけてきながらだが。
この、結婚前夜に夜風にあたりながら「あんたはフローラと結婚しなよ…。」と自分の気持ちと違うことを口走ってしまうビアンカのような不器用さが、どうにも好きなのだ。
この曲は確かに荒く、聞きづらい。しかし、たった一つのテーマである「男よ勝て」という気持ちだけは伝わってくる。そして、リスナーに挑戦することだけでしか、こちらに関わることのできない不良少年のような姿勢がなんとも初期エレカシらしい。
ライブで演奏されることは少ないが、実はエレカシ屈指の応援ソングであるこの曲を是非聴いてみてもらいたい。そしてなんでも良いから、男にはとにかく勝ってほしい。女の人はミヤジの話を聞いてあげてほしい。
②俺たちの明日
「さあ、頑張ろうぜ」というフレーズから始まるこの曲は、言わずと知れたエレカシの代表曲の一つである。特にエレカシが好きじゃないという人でもこの曲は聴いたことがあるのではなかろうか。
かくいう僕もこの曲は大好きだ。頑張ろうぜというサビのシンプルなフレーズに励まされる。そして何と言ってもメロディがとても良い。
この曲はサビでBメジャー→Eメジャー→G#メジャーというコード進行を用いているのだが、ここが気になる。
僕は少しギターが弾ける程度で、音楽の理論などは何も知らないが、コード進行のセオリー通りにいけばBメジャー→Eメジャー→G#マイナーとなるはずなのだ。
だが、ここをメジャーコードにすることによって「お前は今日も どこかで」の「ど」の音程がセオリーから半音上がる。具体的に言うと「シ」から「ド」へ上がる。
こういうアレンジは、最後の最後のサビで曲をもうひと盛り上げする時(Superflyの愛を込めて花束を 転調後の「笑わないで 受け止めて」等)に使われることがあるが、この曲においてはサビの全てのフレーズで用いられるのだ。
僕はこの、セオリーからもういっちょ上がるフレーズに「お前は頑張ってるけど、更にもういっちょ頑張れ」というエレカシからのメッセージをどうしても感じてしまう。
そしてここまで書いて分かったが、この曲もまた「とにかく頑張れ」ということをテーマにしている。「男は行く」から何一つ変わっていない。
先程、エレカシは7分間同じことだけを歌っていると書いたが訂正したい。エレカシは「男は行く」を出した1990年から「俺たちの明日」を出した2007年までの17年間、同じことを歌い続けてきた。
17年もあれば光は太陽系を遥か飛び出し、別の恒星まで届きうる。ハムスターであれば何十回と世代交代しているし、篠原ともえのファッションですら落ち着きを見せ始める頃だ。しかしエレカシは一切変わらず、目の前のリスナーに対し頑張れと鼓舞し続ける。そんなバンドの応援ソングが人の心に届かない訳はないと思う。
しかも昔はリスナーに噛み付くことが精一杯のコミュニケーションだったのに、「俺たちの明日」ではすごくストレートに応援の気持ちを向けてきてくれる。「お互いに殴り合いながら頑張ろうぜ」が「お互いに励まし合いながら頑張ろうぜ」となった。不良少年の更生である。
「俺たちの明日」からは、昔から一切変わることのないエレカシのスピリッツと、大衆に広く届くメロディや、内向的なものを排除したポップさを獲得したエレカシの成長の2つが強く感じられる。そんなことを思いながら聞く、2番のAメロが本当に良いのよ。
この曲が古参、新参問わず広く受けいられ、ライブの定番ソングへとなったのは必然のような感じがする。
エレカシファン以外にも有名な曲であるが、意外とフルコーラスで聞いたことある人は少ないんじゃないかな。是非この機会に歌詞を読みながらこの曲を聞いてもらいたい。
ちなみに、「俺たちの明日」は「カラオケで歌い易い」を一つのテーマにしたとも聞いたことがあるが、とてつもなく歌いづらい。聞いた後は是非チャレンジしてみてもらいたい。それで一緒に歌おうよ。大股開いてさ。
エレカシは聞けば聞くほど、書けば書くほど首尾一貫性の高いバンドだなあと思う。新曲も是非一聴あれ。
終わり。
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